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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第八章 家老になりて候う
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第百七十二話 幹部会議にて候う

遅くなりました。

 俺の長島城主就任の宴席は多くの者を二日酔いで苦しめた。


「あ、頭痛い」


 俺もその一人だ。


「なんだ藤吉。だらしないぞ。酒に飲まれるようじゃあ、まだまだだな。がははは」


 俺よりも数倍飲んでいた利久はケロッとしていた。

 しかし、利久のように元気なのは少数だ。

 皆その日は使い物に成らなかったので、城主としての初仕事は皆に休みを与える事になった。


 なんて情けない。でも、清酒はヤバい。


 もっと度数を落とした飲みやすい酒を作らなければと思った。

 まぁ俺が造るんじゃない。

 今度堺からやって来る連中に造らせる予定だ。


 現在の近畿地方は毎年どこか戦が起きる。

 小さな小競り合いなんて数え切れないほどだ。

 その為に酒の原料である米は高騰を続けている。

 そしてそれは酒造りをしている者達にとって、今や職を失うほど酷い有り様だ。


 酒造りに回せる米が有るなら戦に回せが当たり前の戦国時代。

 しかし酒はそんな戦国時代で変化している。

 どぶろくから僧坊酒(僧が造った酒)を経て清酒が生まれた。


 そして昨日俺達が飲んだのが灰持酒。

 清酒の原形だ。


 灰持酒は僧坊酒の一部として既に市場に出回っていたのだ。

 俺は灰持酒を確保する為宗易に頼むと、宗易はその灰持酒を造れる酒造りの職人を俺に売り込んだのだ。


 いやー良い買い物だった。


 その他にも宗易と彦右衛門には色々と仕入れて貰うように頼んでいる。

 これから先は長島に多くの特産品を作る予定だ。

 そしてそれを津島熱田だけでなく堺に卸して銭を稼ぐ。


 領地を富ませて民の暮らしを良くするのだ!


 今まで出来なかった事がこれからは出来る。


 やるぞ! 俺は!



 という訳で一日休んだけど、次の日は幹部を集めて重要会議だ。


 長島城の奥の間に俺は幹部連中を集めた。


 下座に幹部の蜂須賀小六、前野長康、服部友貞、鈴木佐大夫、そして右筆として増田仁右衛門が居る。

 幹部以外で、斎藤道三、今川長得、竹中半兵衛、前田利久、前田犬千代が俺の左右に座っている。

 そして俺の正面に小一が居る。


 既に自己紹介は済んでいる。

 道三や長姫が名乗ると佐大夫と仁右衛門が驚いていた。

 まぁ当たり前か。

 二人には他言無用と言った。


 進行役は小一だ。


「では殿の報告をお願い致しまする」


 ぷっ、思わず笑ってしまった。


「あに、殿!」


「ああ、すまん、すまん」


 だって小一に殿呼ばわりされるとは思ってなかったのだ。

 不意を突かれて思わず笑ってしまった。


「まずは一つ。これは他言無用だ。誰かに漏らした者は斬る」


 俺が皆の顔を見回すと誰かの唾を飲み込む音がした。

 多分、仁右衛門だな?

 あいつは俺の厳しい指導を知っているから法螺だとは思っていないだろう。


「市姫様が俺の子供を懐妊した」


「「「おお!」」」「「「ち」」」


 男連中は驚きの声を出していたが、女連中は舌打ちしていた。

 犬千代、お前も舌打ちしたの?

 あんなに市姫を慕っていたのに?


「それはおめでとうございまする。殿」


 佐大夫がいの一番に祝福の言葉を口にするが他の連中は微妙な顔をしている。

 喜びたいが喜んで良いのか分からない感じだ。

 小六と犬千代は悔しそうな顔をしているが長姫はそんなに悔しそうではないようだ。

 まさかな?

 そして佐大夫が皆の態度を見て驚いている。


 まぁ佐大夫は織田家の俺の立ち位置を知らないから無理ないな?


「ありがとう佐大夫。それともう一つ。俺は近々平手派を率いる事になる」


「本当かそれは!」「なんと!」「旦那が筆頭家老ですか?」「?」


 佐大夫はどうも着いてこれないみたいだな。

 でも佐大夫には色々とやってもらわないと困るのでこの場に呼んだのだ。


「今の織田家の筆頭家老は佐久間右衛門尉だ。俺は次席家老だな」


「あの平手のじいさんが遂にお前を認めたのか?」


 利久が驚いているな。

 俺と平手のじい様のやり取りを見ていれば当然の反応だ。


「つまりお主に市姫を託したか?」


「そうなる」


 道三の問いに俺は答える。


「そうなると大将は織田の殿様になるのか? 大出世じゃないか!」


 長康は喜んでいるが小六は喜んでくれない。

 そうだよな。

 多分婚儀が延びた原因が市姫の懐妊が原因だからな。


「事はそう簡単には行きませんわ」


 長姫の発言に皆が注目のする。


「藤吉が市と婚姻するにはまだ足りませんわ。それに他の織田家の者達がそれを認める訳がありません。下手をすれば内乱ですわよ」


 そうなんだよな。


「まぁ、そうじゃろうな。じゃがその話は一旦置いておこうかの。どうじゃ藤吉?」


「ああ、これはあくまで報告だ。話を進める。小一!」


「あ、ああ。分かったよ、あに、殿」


 ちょっと呆けていたな小一?

 小一の反応で事の大きさを感じるよ。

 俺は当事者だけど実感がないんだ。


 その後は各々の現状報告だ。

 小一から始まって小六、長康、友貞と来て最後に佐大夫が発言した。


「殿のお蔭で工房って言うのか? 作業が出来るようになったが良質な鉄が少ない。それと硝石だが出来るのに早くても五、六年掛かる。それと頼まれたもんだがまだまだ物に成ってなくてな。すまん。だが、以前の新型種子島は物に成りそうだ」


「そうか。鉄は道空に頼むとして、硝石に時間が掛かるのは分かった。それと今は新型種子島の完成に力を注いでくれ」


「おう、任せてくれ!」


 佐大夫が胸を張って自分の胸を叩く。


「硝石を作れるのか?」


 道三が驚いた顔で尋ねた。


 ふふふ、してやったぜ!

 いつまでも驚かされる俺じゃないぜ。


 佐大夫をスカウトした時に硝石を自作しているかと尋ねると、佐大夫はあっさりと答えた。


『当たり前だろう。あれが一番銭を食うんだ』


 これが俺の上洛での最大の成果だと思う。

 それに蜜柑も持ってきている。


 いやー雑賀は本当に良いところだったよ。


 一通り報告を受けてから、追加の指示を出して解散する。


「では、各々仕事に戻ってくれ!」


「「「ははー」」」


 長康、友貞、佐大夫、仁右衛門が居なくなった。



 さぁ、これからが本番だ。


 長康達が去った後に勝姫と昌景さんが入ってきた。


「揃ったな。じゃあ、俺が居ない間何が有った?」


 今は皆円になって座っている。

 この方が話しやすいからな。

 俺の正面には道三が座っている。

 俺が留守の間、皆を動かしていたのは道三だ。


 さぁ、話せよ道三!


「お主が居らん事を知っているのは一部の者達だけであった。そうだな?」


「そうだ」


 勿体つけるなよ?


「お主が留守の時に屋敷に火を点ける者達がおった話は聞いたな?」


「聞いた」


 思い出したら腹が立ってきたな。

 個人的には奴らを痛い目に遭わせたい。


「その者達の中に武田の手の者が居ったそうだ」


「何?」


 俺は勝姫と昌景さんを見た。

 勝姫は目を反らし昌景さんが小さく頷いた。


「藤吉。お主は武田から狙われたのじゃ」


「は、ずいぶん大物になったな俺は」


「兄者、落ち着いて」


 小一が俺の肩に手を置いた。

 大丈夫だ。

 これは想定していた事じゃないか?

 勝姫達を助けると約束した時に分かっていた事じゃないか。

 大丈夫、俺はまだ冷静だ。


「それと勝姫」


 なんだ?


「父大膳から文が来たのです。藤吉殿を武田に迎えたいと」


 勝姫の消えそうな声だったが俺にははっきりと聞こえた。


「はあー?」


 俺の屋敷に火を点けるのに俺を武田にスカウトするだと、ふざけるな!


「兄者、落ち着いて」


 小一が俺の裾に手を掛けている。

 自分でも気付かなかったが俺は立ち上がっていたようだ。


「武田大膳大夫はお主が欲しいそうだの。どうする藤吉?」


 どうする?


 知れたことだ。


「武田は俺を怒らせた。絶対に潰す!」


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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