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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第一章 尾張統一にて候う
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第十七話 言い争いになりて候う

 市姫様を襲った下手人は『滝川 一益』


 佐々内蔵助成政はそう言っているのだが、本当だろうか?

 佐々成政、内蔵助は利久と同じく近習で馬廻り衆の一人だ。

 背丈は俺よりちょっと低い。

 目付きの悪い男だ。

 そんな内蔵助は利久と何かと比較されているらしい。

 しかし意識しているのは内蔵助で利久は何とも思っていない。

 そんな内蔵助を利久はうざがっているのだ。


「その、滝川とはどんな奴なのだ?」


「何、滝川を知らんのか?」


 知らないから聞くんだよ。

 大体知ってるけどさ。


 この時部屋には三人しかいない。

 犬千代と寧々は隣に移ってもらった。

 大事な話だしな。

 市姫様のことだからと残ろうとする犬千代を俺と利久が後で話すからと下がらせた。

 その様子を見ていた内蔵助は。


「お前、犬千代殿と仲が良いのか?」


 何いってんだこいつ。


「内蔵助。犬千代は藤吉の物だ。お前には渡さん」


「な、何、本当か! 藤吉」


 何煽ってんだよ利久。


「利久の冗談だろ。まともに相手するな」


「そ、そうか。冗談か」


 顔を赤らめる内蔵助。


「だが、お前には絶対に犬千代はやらんからな内蔵助」


「だから、混ぜっ返すな利久」


 まったく、真面目な話をするのに。

 場の空気を和ませたかったのか?

 それにしても内蔵助の奴、犬千代が好きなのか。

 良いことを聞けたな。


 それよりも滝川一益だ。


 内蔵助が言うには。


 滝川一益は元は岩倉織田家『織田 信安』に仕えていたらしい。

 それから林佐渡守、ついで柴田に仕えていると。

 柴田に仕えているといっても林佐渡守から貸し出されている。

 つまり、与力だな。

 さらに言えば信安から林佐渡守に使わされた間者ともとれる。


 胡散臭い奴。

 それが滝川一益の印象だ。

 史実でも出自がはっきりしない人物だしな。

 秀吉と一緒だ。

 そういう意味では俺も同じか?

 俺も周りから胡散臭い奴と思われているのか。

 一益の事は悪く言えんな。


 そしてそんな怪しさ満点の男が先の赤塚の戦いで姿が見られたと。


 ちなみに見たのは利久だ。

 見間違いかもしれないと同じ馬廻り衆に聞いて回っていた所。

 内蔵助が確かめたと。


 ふん、どうだ。

 と胸を張る内蔵助。


 それだけだと犯人じゃないだろう?


 その辺を指摘すると利久が反論する。


「あの戦いに信行勢は兵を出しとらん」


「そうだ、そうだ」


「十分に怪しいぞ」


「そうだ、そうだ」


 うざいぞ内蔵助。


「そうだとしても観戦していただけかもしれん」


「ならば直接確かめようではないか」


「うむ、そうしよう」


 そう言うと即座に立ち上がる二人。


「待て、待て、短絡的に動くな」


 あわてて止める俺。


「なぜだ藤吉」


「邪魔するか貴様」


 内蔵助が腰に差している刀に手をかける。

 なんて手が早いんだ。

 内心冷や汗をかいて利久を見る。


「待て、内蔵助。話せ藤吉」


「なら座って話そう」


 落ち着いて話をしないとな。


「直接聞いても観戦していたとか何とか幾らでも言い訳できる。それより難癖を付けられたと言われかねん。そうなると」


「そうなると、何だ」


 そんな睨むなよ内蔵助。


「そうなると、俺達だけの問題じゃなくなる」


「だから何だ」


 さらに顔を近付けて睨む内蔵助。


「最悪、戦になる」


「おう、望む所だ!」


 立ち上がり拳を固める内蔵助。


 血の気が有り余ってるな~、こいつ。

 そんな単純じゃないよ。


「戦は、まずい」


 珍しく弱気な発言をする利久。

 そうだよ戦は出来ない。

 したくても出来ないんだ。


「臆したか利久」


「そうではない。あー、その、何だ。うーん」


 言いにくそうにしている利久。


「利久に変わって説明してやる」


「何だとコラ。偉そうにすんな」


 俺の服を掴むと持ち上げる内蔵助。


 力あるな、こいつ。

 でもな、びびってばかりもいられない。

 俺を睨む内蔵助に俺も負けずに睨む。


「止めろ内蔵助。説明してやれ藤吉」


 仲裁に入る利久。

 なんか今の利久、勝三郎みたいだな。

 俺から手を離す内蔵助。

 俺は服の乱れを直しながら話す。


「まず、第一に金がない」


「何だと?」


 織田家は今、金がない。

 事実だ。

 ここ数日で見た経理関係の書は支払いばかりの物だ。

 信長の葬儀に加え赤塚の戦いの支払いと立て続けに出費が重なったのだ。

 さらに出費がかさむとどうなるか?


「第二に、これが一番の問題だ。兵がいない」


「俺達がいるぞ」


 そうじゃないんだ。

 今の清洲には、戦闘が出来る兵が少ない。

 馬廻り衆の五百がせいぜいだ。

 馬廻りは本来、二千は居たのだが。

 度重なる戦で数が減り満足に補充も出来ていない。

 戦死者の数は少ないが怪我人が多く満足に戦えるのは五百。

 城の守備兵を合わせても千もいないのだ。


 信行の兵は大体だが先の稲生の戦いから推測するに、千二百から千五百くらいだ。

 いや、もっと居るかもしれない。

 そうなると二倍から三倍の兵を相手にするのだ。

 まともに戦えば勝てない。

 そう説明すると。


「辺りの城から兵を出させればいい」


 こんなの常識だろ、と内蔵助の目が言っている。

 それくらい俺でも分かる。

 分かるから信行勢も同じ事をするだろう。

 そうなればもっとまずい事になる。


「周りの兵を集めれば相手も同じ事をする。もっとひどい事になるぞ」


「な、に~」


 顔を押し付けてくる内蔵助。

 こいつヤンキーか、チンピラか。

 脅せば誰でも言う事きくと思ってるのか。

 なんかムカついてきたから、むきになってこっちもやり返した。


「あんだと、コラ」


「やんのか、お前」


「止めろ!」


 間に入って来た利久の声にハッとする。


 何やってんだよ俺。

 バカばかしい、こんなことにむきになって。

 はぁ、ほんとバカみたいだ。


 そうだ、犬千代にこの事をチクろう。

 そうしよう、そうしよう。



 結局、話し合いは続いたが直接確かめる事はしない事となった。

 その代わり、市姫様に直接報告することになった。

 そこに俺も同席することになる。


 いや、俺は駄目だろう。

 近習で右筆だけどね。

 市姫様の側付き右筆は利政様だよ。

 俺は同席できないよ。


 渋る俺に利久がどうしてもと言うので了承した。

 断ったら犬千代にあの事を話すと言われた。

 ついでに寧々にもと。

 何の事か分からないが、利久のいい笑顔が恐ろしかったので渋々したがったのだ。

 内蔵助は俺が同席するのを反対したが、犬千代の名前が出た途端賛成に回った。

 分かりやすいなこいつ、本当に。



 でも何とかしないとな。

 最悪の展開にしない為にも何かを考えておかないとな。

 必要ないと思うけど、一様な。



お読みいただきありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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