第百六十一話 新型銃にて候う
遅くなりました。
雑賀庄にある一つの大きな屋敷に案内された。
ここに『鈴木 佐大夫』が居る。
俺と長姫、半兵衛の三人は屋敷の奥に案内されて、残りの利久、朝日達は入り口近くの部屋で待つことになった。
さて、千宗易のお使いが文を渡すだけだとは思えない。
どんな難題が待っているのだろうか?
部屋に通された俺達三人は待たされることになった。
先に来ることは伝えた筈になのに待たされる。
これはどこかで俺達を見ているのかもしれない。
それとも単に用があって待たされているのか?
どっちにしても俺達は待つしかない。
「待たせますわね」
「待ちますね」
お供の二人は待たされていることがお嫌らしい。
「我慢しろ」
「退屈ですわ」「ですね」
全くこれでは先方に会ったときどうなることやら?
すると慌てた感じの足音が近づいてきた。
同時に話し声もしてくる。
「なぜそれを早く言わない」
「言いましたとも」
「聞いてないぞ」
「ちゃんと話しました。撃つことに夢中に成りすぎです」
「う、ここか?」
「はい」
部屋の前に着いたようだ。
障子越しに人影が見える。
「ごめん、失礼する」
一声かかってから障子が開けられる。
そこから一人の中年が部屋に入ってきた。
見れば猪の毛皮を纏っている。
なんか山賊のような格好だな。
ドカッと座るとジロリと俺達を見る。
これって歓迎されてないような?
「すまん、遅れて申し訳ない」
いきなりの謝罪と頭を下げられた。
「いえ、気にしてませんから」
「本当ですわ。だいぶ待ちましたわよ」
「うんうん」
おい、そこの二人。
煽るんじゃない。
「いや、本当に申し訳ない。新型の種子島の性能を試していたのでな。遅れてしまった。この通りだ」
再び頭を下げられた。
なんて腰の低い人だ。
それに新型の銃と言ったか?
これは興味が湧いてきた。
「頭を上げてください。大丈夫です。俺は怒ってなどいません」
「うん、そうか。それはありがたい。では、出資者の文を頂こうか?」
うん、出資者?
宗易は佐大夫に銭を出しているのか。
俺は半兵衛に目で合図する。
そして半兵衛が文箱を佐大夫の前に置いた。
「どれどれ」
佐大夫は文箱を開けるとその中の文に目を通す。
うんうんと頷きながら読んでいく佐大夫。
文にはなんと書かれているのだろうか?
「あい、分かった。では、案内しよう」
案内?
「その、私は文の内容を知らないのだが?」
「おう、そうか。それは失礼した。魚屋の旦那からは新型種子島の性能をあんたらに見せるようにと文には書かれていた。だから、これから試射している現場に案内する。ところであんたらは誰なんだ? 文にはその辺りが書いてないんだがな?」
新型銃の性能テストに立ち合えと言うことか?
それに俺達の事を書いてないのか?
なんでまたそんな遠回りな事をするのか?
「ごほん、この方は織田家家老 木下 藤吉様です。そして私はその家臣の竹中半兵衛と申します」
「そしてわたくしが妻の」
「客将です。そう、長姫と言います」
「おう、そうか。俺はここらを仕切っている鈴木佐大夫だ。よろしくな旦那」
なんか軽いな?
見た目ごついが中身は柔らかいみたいだ。
う、長姫に睨まれた。
俺達は佐大夫の案内で屋敷の裏に出ると白煙が立ち上る広場に案内された。
そこには十人程の人だかりが出来ていて、なにやらガヤガヤと話し合っているようだ。
「ここの筒先は大きくても良いのではないか?」
「いや、玉が出たときに銃身が動いた。もっと玉に合わせた方が命中しやすかろう」
「なら、強度はこのままで良いかのう?」
「駄目だ。これだと何発も撃たない内に熱で筒がだれる。もっと厚みがある方がいい」
「それだと重すぎないか? 皆が持てる物をとのお達しだぞ?」
「「「う~ん」」」
見れば熱心に銃の改良点を話し合っている。
その辺は俺も男だから分かる。
どうせ作るなら納得の行く仕事をしたいものな?
「おう、お前ら。魚屋の旦那の使いが来たぞ。例のやつを見せてやれ」
「分かりやした、親方」
佐大夫は親方呼びなのか?
見た目確かに鍜治屋の親父に見えなくもないな。
俺達の目の前で新型と言われる種子島が試射された。
比較の為に普通の種子島も持って来て撃たれる。
新型は見た目普通の種子島よりも大きいみたいだ。
それにしても音が大きいな?
耳の中でキーンと鳴っている。
それに白煙も凄い。
新型の白煙は普通のやつよりも多かった。
きっとこの白煙が俺達がやって来た時に来たやつだろう。
「どうだ?」
「う~ん、煙が凄いですね?」
火薬の量が多いのだろう。
新型の方が煙が多い。
「それだけか?」
「鎧を貫通してますね」
目標の大鎧に大きな穴が空いている。
種子島だとこんなに大きな穴は空かない。
「もっとこう、あるだろうが?」
そう言われてもね。
俺は現代社会の進歩した銃を見ている。
それに撃った事もある。
あれは社員旅行でハワイに行った時の事だ。
自由時間の時に後輩と射撃場に行ったのだ。
その時にコルトやデザートイーグル等を撃たせてもらった。
その衝撃と白煙に比べると何かね?
ああ、あの時はヘッドホンをしていたから、あの時よりは音に驚いたな?
「ほえー、凄いです。凄いです!」
半兵衛は喜んでいるな?
何を驚いて喜んでいるのやら?
「ふーん、でもこれだけだと使えないわね?」
長姫は銃の長所よ短所に目がいっているようだ。
さすがに目の付け所が違う。
「これだけって、これでも前よりは良くなっているんだぞ。あんたらそれが分からないのか?」
「まあ、分からないでもないかな? でもね」
俺は銃の、種子島の欠点を上げていった。
種子島の欠点は雨になると打てない。
火縄に火が着かないし、火薬も湿る。
火薬が湿っては火を着けても爆発しない。
そして連射が出来ない。
撃ち続けると銃身が熱を持って持てなくるし暴発の危険が有るのだ。
ただし、一分程時間をおいて撃つと熱を持たない。
だが、これだと時間が掛かる。
それに有効射程が短い。
百メートルから二百メートルが限界だ。
後は命中率が低い。
三十メートルから五十メートルだと大体当たるがそれ以上だと厳しい。
現代銃と比べると可哀想だが、その違いは明らかだ。
ああ、俺は現代銃を撃った事が有るから感動が薄いのか?
本当ならもっと興奮してもおかしくないのにな。
「あんた。種子島に詳しいんだな? なら、改良点も分かるんじゃないのか?」
う~ん、まあ分かると言えば分かるな?
うん、これは取引材料に成りそうだ。
よし、一丁吹っ掛けるか!
「そうだな。教えても良いが、それだと俺の利益がないな?」
「銭か? だったら魚屋に言ってくれ。魚屋の旦那が払ってくれるぞ」
お前らが銭を出すんじゃないのか?
「藤吉。……あなた?」
俺は手で長姫を制す。
「そうだな。銭は要らない。俺はあんた達を買いたい」
「俺達をか?」
佐大夫や周りの職人?達が顔を見合わせる。
「俺は種子島を常々改良したいと思っていた。だが、残念な事に俺にはそれをする技能がない。だからあんた達に俺の提案を形にしてみないか?」
「中々魅力ある提案だな。少し考えさせてくれ」
「構わない。あ、そうだ。俺にも種子島を撃たせてくれないか?」
久しぶり銃を撃ってみたくなった。
種子島は撃った事がないが何とかなるだろう。
「分かった。これを使いな」
佐大夫自ら種子島を渡された。
手にズシリと来た。
結構重いな。
当たり前か。
なんたって鉄の棒を持たされたようなものだしな。
俺は種子島を持って構える。
目標は大鎧。
距離は大体八十から九十メートル。
俺は引き金に指を掛けて息を吸い込み。
そして、静かに吐いた。
ドンっと音がして頬が熱くなる。
そして銃身から煙が出ている。
「「「おお」」」
どうやら命中したようだ。
種子島も結構行けるな!
俺は種子島に確かな手応えを感じていた。
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