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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第七章 上杉輝虎と将軍義輝にて候う
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第百五十七話 近衛 前久

遅くなりました。

 先左大臣近衛前嗣と上杉弾正輝虎が会談していた。

 俺は何故この場に居るのだろう?


『近衛 前久』


 戦国時代の関白太政大臣で放浪公家。

 謙信と共に越後に向かい関東平定に付き合っている。

 関東に居た頃は自ら戦場に赴くこともあったと言われている。

 公家らしからぬ公家様だ。

 後に信長の下で政治的手腕を発揮し、信長が亡くなった後に秀吉を猶子にしている。

 家康とも親交を持っていた。


 三英傑と馴染み深い人物だ。


 そして、謙信のマブダチだ!


 この世界でもどうやら前嗣と龍千代は親友のようだ。



「我の根回しにてそなたの関東菅領職の就任は滞りなく終わったと言うのに、先の戦は将軍の嫌がらせかのう?」


「再三断ったゆえな。そうかもしれん」


「あれはまだ諦めんのか?」


「将軍に嫁入りなど、貧乏くじを引くようなもの。ごめんこうむる」


 ぶふっ 将軍義輝に嫁入り!


「ゴホゴホ」


「大丈夫か、藤吉?」


 思わず茶を噴き出してしまった。


「まあ、今の幕府に世を治める力無し。しかるに新しき秩序をもたらす者が必要よ。龍殿は関東菅領になった。新しき秩序をもたらすかの?」


「関東菅領職は関東に攻め込む大義名分でしかない。それ以上でもそれ以下でもない。私に新しき秩序など出来ようものか」


 龍千代は幕府にとって変わる気はないのか。

 それとも前嗣の前だから本音を語らないのか。

 しかし煽るなあ、前嗣は。

 この話を幕臣が知ったらどうなるか、分からない前嗣でもあるまいに?


「そうか。しかし我は諦めぬぞ。予てよりの約束通り。我の関東行きに協力してもらおうか?」


「はぁ、分かった。好きにしろ」


「うむ。好きにする」


 前嗣は関東に行ってどうするんだ?

 聞いてみたいと思うが俺が尋ねても良いのだろうか?

 何と言っても前嗣は先左大臣。

 身分が違いすぎてピンと来ないところも有るが、この日ノ本で将軍を抜かせばトップの存在だ。

 そんな人が目の前に居る。


 あ、一番上は天皇陛下だけどな?


 う~ん、今の俺は龍千代の護衛なのか?

 それとも龍千代は俺と前嗣を引き合わせたかったのか?

 分からん。


「それで、その者も一緒に参るのか。我の護衛役として?」


 何? 俺が前嗣の護衛だと!

 そんな話聞いてないぞ。

 まさかこれも同盟の為の条件の一つじゃないだろうな?


「護衛は別の者だ。私は藤吉とそなたを会わせて見たかっただけだ」


 ほ、セーフ!

 単なる紹介だったみたいだ。

 でも、聞いてる内容はヘビーだけどな?


「ふむ。そなたが気にかける男か? それは興味深い」


 前嗣はそう言ってから俺をじろじろと見ている。

 口元を扇子で隠しているが笑っているのが分かる。

 目が笑っているからな。


「普通の男だな。何が気に入ったのだ?」


「ふ、いずれ分かる」


「そうか。それは楽しみよ。ははは」


 ふぅ、前嗣は俺にそれほど興味が無かったようだ。

 良かったと思うべきかな。

 でもなんかこの人の視線が苦手だ。


 だって俺の知ってる両刀使いの人に似てるんだよ!


 その人は俺の営業時代の先輩で何かと世話になった人だ。

 その人がある日、自分はバ〇セクシャルなんだと告白して俺と付き合いたいと言ったんだよ。

 俺はそういう人が身近に居るとは思わなかったから慌てたけど、きちんと考えてお断りした。

 その人は残念だと言って、今は先輩後輩ではなくて友人として付き合っている。

 うん、友人としてなら付き合えるんだよ。

 それ以上はさすがにちょっと躊躇うけどね?


 そうだよ。

 この人なんか見たこと有るなと思ったけど先輩に似てるんだよ!


 顔も声もどことなく先輩に似てる。

 あの悪寒と言うか、背中がムズムズしていたのはそれを感じていたからか?


「分かっておろうが、今までの話は他言無用ぞ」


 狭い茶室で前嗣が身を乗り出して俺を見つめる。

 俺と前嗣の距離が近い。

 口元を扇子で隠しているが、扇子が無かったらキスするんじゃないのかと思うくらい近い。


 ヤバい、なんかドキドキしてきた。


 先輩もこうやって距離感の近い人だったんだよな。

 そのせいも有って女性に人気だった。

 本人はそんなつもり無かったと言っていたけど、あれは確かに誤解する。


 なんせ俺もドキドキしていたからだ!


 中性的なイケメンが目の前に居て熱い眼差しを向けられれば、そりゃドキドキするに決まっている。

 あれは絶対に態とだ!


「ふふ、愛いやつよ」


 そう言うと前嗣が右手で俺の頬に触れた。


 うわー、ぞわぞわした。

 この人やっぱりそうだよ!


「ごほんごほん」


「おっとこれはいかんのか」


 龍千代の咳払いで距離を取った前嗣。


 ふぅ、助かった。


 なんでイケメンが俺みたいな奴に目をつけるのかね?

 先輩が言うには可愛いらしいからと言っていたけど絶対違うよな。

 俺は可愛いくないよ。

 可愛いのは朝日だよ!


 は、そんな事はどうでもいいか?


「しかし、このままでは武田が足利に取って代わるかもしれん。それはどう思っておるのだ?」


「あれと直接会ったが、あの男は天下がどうとか考えていない。そもそもそんな器ではない」


 おお、龍千代が晴信を全否定している。

 確かに俺も晴信に会ったけどそんなに凄い人には思えなかったな?


「そうか。武田大膳も無理か?」


「三好修理大夫では駄目なのか?」


「あれはそんな事は望まんと言った。我もあれには期待したのだがな」


 三好長慶も煽ったのか?

 この人結構裏で色々動いてるのかもな?


「天下静謐は遠いか……」


「龍殿がその気に成れば容易いとおもうのだが」


「私は戦うだけが取り柄。世を治めるなど出来ん」


「天下を武によって治める。今はそれが求められているのだぞ?」


「天下布武?」


「うん? 天下布武?」


 あ、思わず言ってしまった。

 でも天下布武の本当の意味は確か七徳がどうとかで……


 ①暴力を禁じる

 ②戦を止める

 ③大を保つ?

 ④功績を上げる?

 ⑤民を安心させる

 ⑥大衆を仲良くさせる

 ⑦経済を豊かにする


 三番目と四番目の意味がよく分からなかったけど、大体こんな感じだったと覚えている。


 で、天下布武の本当の意は『天下に七徳の武を布く』という意味だ。


「天下布武、なるほどいい言葉だ。今の世に必要な言葉だ。木下は学が有るな?」


「あ、いえ」


 前嗣は天下布武の本当の意味を知っているみたいだ。


「天下静謐と天下布武。どちらも行く着く場所は同じ。私の考えもそなたの考えも同じだ」


「なればそれを目指すは必定。先の陛下もそれを願っておった。我は必ずそれを成し遂げる。その為には……」


「分かっている。だが、あまり期待されても困る」


 前嗣と龍千代はなんだかんだ言っても本当は分かり有っているんだな。

 ちょっと嫉妬してしまう。

 それに前嗣は先の陛下と言われた。

 後奈良天皇のことか?


 前嗣の想いは後奈良天皇の想いなのかもしれないな。



 この日、俺は近衛前嗣、後の近衛前久に出会った。


 後に俺にとって最も関わりの深い公家との出会いだった。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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