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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第七章 上杉輝虎と将軍義輝にて候う

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第百五十三話 朝靄の出陣にて候う

『姉川の戦い』


 信長が徳川と共に戦い、浅井朝倉と痛み分けをした戦いだ。

 横山城を取り囲んだ信長に浅井朝倉が後詰め(援軍)で出てくる。

 本陣を小谷側に置いていた信長は浅井勢に陣を打ち破られそうになるも秀吉と馬廻りの奮闘で追い払うことが出来た。

 その後は浅井の『遠藤 直経』による暗殺未遂事件など起こっている。


 この戦いの後に秀吉は横山城の城代に任命されている。


 そう、この戦いも秀吉の大功を立てる戦いなのだ!


 しかし、現状はどうだろうか?


 俺は上杉勢の手伝いで付いてきただけだ。

 ここで手柄を立ても織田家に対する影響力は有るのだろうか?

 よしんば大功を立てても俺の名前が不必要に知れわたることになるのだが、それは良いことなのだろうか?


 いや、良いはずがない。


 そもそも今回の上杉との同盟は秘密裏に行わなければならない。

 織田家の人間がこの戦で名を上げては行けない。

 目立っては行けないのだ。


 そして、眼下に広がる六角勢を見回して思う。


 ……危うい。


 六角の本陣の位置が何故か小谷側に有るのだ。

 これでは浅井の後詰めに攻めて下さいと言っているようなものだ。

 なぜあんなところに本陣を敷いているのだろう?

 ここに来た当初は気付かなかったが改めて見たら危険な場所だと分かる。


「危ういですわね」


「姫様の言われる通りです。六角左京大夫は油断し過ぎだと思います」


 長姫と半兵衛も理解している。

 大丈夫なのか六角?

 このまま負けたりしないよな?


「大将ー! 上杉様が御呼びです」


 ふぅ、こっちの相手をするのも大変だ。



 上杉本陣の陣幕には龍千代と政景、柿崎景家と斎藤朝信が居た。

 こっちは俺と長姫、半兵衛の三人だ。

 利久は傭兵達と留守番している。


「それが右衛門督の言い分か?」


 既に軍義は始まっていて着いた早々に龍千代の不機嫌な言葉が場を包んでいた。


「黙って見ていろとは大きく出たな?」


 政景が苦笑している。

 政景からしたら渡りに船だろうな。

 大事な越後の民を手伝い戦で失いたくはないはずだ。


「我らを侮るか。若造が!」


 景家殿の言葉にも怒気が籠っている。


『柿崎 和泉守 景家』は上杉謙信が信頼している武将だ。

『越後七群で彼にかなう者なし』と言われた上杉家随一の勇将だ。

 常に先陣を任されている将で、今回も先陣を勤めている。


「戦のなんたるかを知らぬ初陣者です。我らが手を貸す必要もないでしょう」


 へんに冷めている朝信だが、眉がピクピクしている。

 内心は怒っているのだろう。


『斎藤 下野守 朝信』


 越後の鍾馗と言われた武勇に優れた人物だ。

 後、父親が医者だとか何とか?

 しかし鍾馗様と言われる朝信だが髭はない。


 話の中心に居る六角勢を率いる男。


『六角 右衛門督 義治』


 義治は史実では信長の上洛の時に父親の義賢と共に落ち延びてゲリラ活動を続けたしぶとい人物だ。

 そして、義賢と義治は天正に年号が変わってから織田家に降ったようだ。

 その辺がいつの頃かはっきりしていない。

 その後の義治は秀吉の子『豊臣秀頼』の弓矢の師範を務めている。


 そしてこっちの世界の義治は今年、父親の義賢から家督を譲って貰ったばかりの新米当主に成っていた。

 初陣者と朝信は言っているが初陣は既に済ませているはずだ。

 だが、当主になって初めての戦だから初陣者と皮肉っているのだろう?


 義治は上杉勢に手出し無用と伝えている。

 手伝い戦だから遠巻きに見ていろと言うわけだ。

 さすが名門の御曹司は態度がでかい!


 こっちは越後の守護代で、今は越後守護で関東菅領に成っている大物なんだがな?


「ではこのまま見物ですか?」


 あえて龍千代が嫌がる言葉をかけてみる。

 ここで突っかかるようなら……


「そうね。右衛門督のお手並み拝見と行きましょう」


 ふぅ、龍千代は冷静だったか。

 これで不必要な戦いをしなくても良いだろう。


「方針も決まったようですし、ではこれで」


 さぁ、さっさと家の陣に帰ろう。


「待ちなさい。暇、時間が出来たから久しぶりに打ちましょうか?」


 おう、将棋のお誘いですか?

 良いですよ。

 リベンジの為に長姫と半兵衛に鍛えて貰ったからな。


「ふふふ、良いですよ」


 今度は俺の勝ちだ!



「すみません。ありません」


 くっそー! なんで勝てないんだよ?


「うふ、藤吉もまだまだね」


 くー、勝ち誇った顔しやがって!


「もう一回、もう一回お願いします」


「良いわよ。いくらでも相手になってあげるわ」


 既に何回も挑んでいるのだが、勝てない。

 おかしいな? 龍千代打ち方変えたのか?

 なんか攻め手が変わったような気がする。


「うむむ、負けました」


「なかなか強かったわよ。長尾殿」


 隣では政景と長姫が打っていた。

 俺が何回も負けている間、長姫達はようやく決着が着いたようだ。


「なるほど、六角と浅井は既に一戦交えた後なんですね?」


「ええ、我らが来る前に浅井の後詰めと戦い、これを追い払った後だったようです」


 半兵衛が朝信に六角と浅井の戦いを聞いていたようだ。


 六角と浅井は俺達が来る前に戦っていたようで、その戦いに勝った義治は既に戦が終わったと思っているのかもしれない。

 義治の態度のデカさと六角の本陣があの場所に有る理由が分かった。

 攻めている六角が小谷側に本陣を張ったのは、籠城している者達に援軍はもう来ないと教える為だ。

 敢えて危険な場所に本陣を張ることで六角の優位を見せ付ける。


 義治は中々の策士だな?

 それとも六角家臣の誰かの進言かな?


 これなら早く終わりそうだな。


 俺はそう思っていた。

 だが龍千代はそう思ってなかったようだ。


「やはり戦を知らん者だ」


 龍千代の目が輝いている。


 まるでこれからお楽しみが始まるような、そんな目をしていた。



 結局その日は上杉本陣にて夜を明かした。


 もちろん龍千代とは別の場所で眠ったよ。

 長姫と半兵衛は近くで寝ていたけどね。

 よく眠れなかった。


 起きてから陣の外に出る。

 それにしても今日は朝靄が酷い。

 近くの佐和山付近が全く見えない。


「来たようだ」


「へ?」


 俺は後ろを振り返ると龍千代が立っていた。

 龍千代は鎧姿に身を包んでいた。


 え、まさかこのまま六角に突っ込んだりしないよな?


「支度しろ藤吉。出るぞ!」


「は? 出るって、まさか!」


「兵を出す。急げ!」


 龍千代の有無を言わせぬ声に俺は慌て準備する。


「これから六角本陣に向かう。遅れるな!」


「「「おお!」」」


 いやいや、待て待て。


 なんで六角本陣を急襲するんだよ!


「行くぞ!」


 龍千代率いる上杉勢は朝靄の中、六角本陣に突っ込んだ。



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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