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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第七章 上杉輝虎と将軍義輝にて候う
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第百五十二話 六角の援軍に向かいて候う

 龍千代の条件で道案内を頼まれた俺は断る術もなく同意するしかなかった。


 将軍義輝が龍千代に命じたのは『浅井追討令』ではない。

 あくまでも討伐の要請であり、強制ではない。

 しかしプライドを刺激された龍千代がこれを断ることをしなかった。


 将軍義輝はよく人を見ている。


 今回上杉勢は幕府軍目付けとして六角勢に合流する予定だ。

 上杉の戦力が千ほどしかないのだからしょうがない。

 しかし歴戦揃いの千だ。

 しかも率いるのは毘沙門天の化身と言われる龍千代だ。

 どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみでしょうがない。


 あ、その場合は俺も巻き込まれるのか?


 そんな事を考えていた俺に松永弾正、霜台がやって来た。


「いよいよ出立ですな」


「明日には向かいます」


 余人を交えず二人きりで話す。

 そこで俺は以前聞いていた幕府と六角の関係を問い質した。


「幕府は六角に期待して下りませぬ。むしろ此度の事の件でどうなるか? 見ているのです」


「……見ている。六角が負けても構わないと?」


「左様です。お気をつけくだされ」


 霜台の話ではこれは罠なのかと思うが……


「ならばなぜ上杉に加勢を命じるのです?」


「戦は常に流動して下りまする。予測は出来ても……」


 ふぅ、霜台ははっきりとは言わないがこの浅井征伐はかなり危険な役目のようだ。

 戦目付けならば離れて見ていれば安全なのだが、それを龍千代が良しとするだろうか?

 それに今回の俺は道案内を頼まれているだけだ。

 龍千代に意見出来る立場ではない。


「六角が負けて浅井が勝っては幕府の、将軍の面目はどうなりますか?」


「その為の上杉ではないのですか?」


 つまり六角が負けそうになったら最低限仕事して五分五分に持っていけと?


「なるほど、裁定が目的ですか?」


「ご明察ですな。さすがは藤吉殿」


 霜台の問答は疲れる。


 将軍義輝は六角が勝とうが負けようがどちらでも良いのだろう。

 六角が勝てば浅井が滅びる前に和睦させる。

 六角が負ければやっぱり和睦させる。


 つまりどちらにしても将軍義輝は六角と浅井に影響力を持ちたい腹積もりか?


「そうなると他にも見物客が居るのですか?」


「ははは、そこにも気付きますか?」


 居るのか?


 浅井には朝倉が付いていると見て間違いない。

 六角には甲賀の忍が居るが、これを戦力と見ることは出来ないだろう。

 そうなると畠山か?

 いや、まさか!


「……武田」


「おそらく見ているでしょうな?」


 霜台の笑みが深い。

 わざわざ出陣前にやって来て俺に教えにやって来た霜台の心に俺の胸が熱くなる。

 利久とはまた違った友情を感じた。


「忠告しかと」


「いえいえ、藤吉殿とはまた会いたいと思えばこそです」


 霜台は笑顔で帰って行った。


 いやはや、これが畿内の、幕府の政治なのか?

 こんな訳の分からんことに付き合わされるはめになるとは夢にも思わなかった。



 そして翌日には上杉勢は京を出て一路六角の本拠地『観音寺城』を目指した。


 今回の出陣に同行するのは利久と半兵衛、長姫の三人が付いてくる。

 寧々と朝日は魚屋に預けることにした。

 龍千代が朝日を連れて行こうとしたが、これは丁重に断ったのだが、朝日達の堺行きの見送りに付いてきたのは驚いた。


 どんだけ朝日が好きなんだよ!


 龍千代の奇行は放っておいて出陣の準備を進める。

 急な出陣で準備にあたふたしたが、今回は堺から物資を届けて貰った。

 それから助っ人を頼んでいる。

 今回は道案内を頼まれているとは言え、二十人ほどでは心許ない。

 その為に浪人を百人ほど雇って貰った。


 代金は長島に居る美濃のじじいに付けている。


 まあ、あのじじいなら何とかするだろう。

 友貞も居るしな?

 嘉隆はすでに長島に帰した。

 予定よりも長く滞在することになりそうなので、嘉隆は友貞の下で働くように伝えたのだ。

 嘉隆は陸より水の上が得意だろうからな?


 そして、帰りは魚屋か納屋の商船で帰る予定だ。


 上杉と同盟を果たして沢山のお土産を持って帰る。

 そして、小六と犬千代と祝言を挙げるのだ!

 待ってろよ、小六、犬千代。


 多分帰りは冬を越えそうだけどね?



 道案内を頼まれた俺達はもちろん先頭に居る。

 蜂須賀党を先頭にしてかなり急いでの移動だ。

 その先頭集団には……


「藤吉。観音寺城はまだなのか?」


「まだですよ」


「もっと早く行軍出来ないのか?」


「これでも急がせている方です」


「ううう、早く着かねば全部終わっているのではないか?」


「その方が楽ではないですか?」


「私は戦いたいのだ!」


 駄目だよこの人。

 なんで大将が先頭に居るんだよ!

 確か先鋒は柿崎さんじゃなかった?


 あ、柿崎さん隣に居る。


 龍千代が急がせている理由には、六角と浅井の戦端が既に開かれているからだ。

 佐和山辺りで六角と浅井が睨み合っているそうだ。

 俺としては間に合わなくても構わないのだが、龍千代達上杉勢はそうはいかない。


 一様、幕府の援軍?として向かっているのだから、間に合わなかったでは済まされないのだろう。


 でも、急な出陣を命じた将軍義輝がこの場合は悪いと思うけどな?

 こっちは幕府の思惑のせいで迷惑してるのだ。

 せめて何事もなく終わって帰りたい。



 しかし、俺の思いとは裏腹に戦場に間に合ってしまった。


 観音寺城に着いてからすぐに戦場場所を教えて貰い強行軍を重ねてた。

 正直、休みたかったが龍千代を先頭に上杉勢の無言の進軍の前に休息の進言など出来なかった。

 怖いよ上杉軍。


 着いた場所は佐和山の近く。

 見れば六角勢が佐和山を取り囲んでいる。

 浅井勢の姿は見えない。

 何がどうなっているのか皆目検討もつかない?


 蜂須賀党を周囲に放って情報収集を始めている。


 上杉からは六角の本陣に斎藤朝信が挨拶に向かっている。

 上杉勢と俺達は六角勢から距離を取って陣を張った。

 とりあえず朝信が戻って来るまで待つことになった。


 その間に俺は長姫達と今後の動向を話し合うことにした。


「てっきり浅井が六角の城を攻めてると思ったけど違ったな?」


「わたくしはこの辺りはよくは知らなくてよ。半兵衛?」


「はい! 説明します。この佐和山には浅井の城が有ります。おそらく先に動いたのは六角ではないでしょうか? 浅井が動く前に機先を制したと思われます」


「つまり浅井が小細工をする前に押し潰そうとしている訳か?」


「六角は伊勢に兵を出してませんから、前々から浅井攻めを想定していたと思われます」


「伊勢攻めを予想出来ずに三好勢に対応して兵を動かした。なら返す刀で浅井攻めを行っても不思議ではないわね?」


 六角は浅井攻めを前々から準備していたが、それを三好の動きに合わせて軍を動かした。

 しかし三好は軍を動かしただけですぐに兵を退いた。

 その間に織田家が伊勢攻めを行った。

 六角は兵を退こうにも三好が出てくるかもしれないと思い、兵を退けなかった。

 そして、伊勢攻めが終わる頃には三好が動かないと分かった六角は浅井に全力を注ぎ込んだ訳だ。


 そうなると浅井は六角攻めのタイミングを外しているな?


 それとも別の狙いが有ったのだろうか?


「どうでも良いけどよ。俺達の出番は有るのか?」


「そんなもん。有るわけないだろう」


「せっかく新しい槍を持ってきたのに、戦働きが出来ないなんてそれはないだろう?」


 利久はいつの間に買ったのか分からない槍を持ってきていた。

 それをむんずと掴みくるくると回している。

 危ない事をするもんだ。


 俺は陣幕を出て外を眺める。

 ここは少しだけ小高くなった場所に陣を張ってある。

 その為に佐和山を包囲している六角勢が見える。


 俺が記憶している『野良田の戦い』は確か六角から裏切りが出て、それを六角が大軍で攻めて、浅井が救援に向かって起きる戦いのはずだ。


 でも場所は佐和山ではない。


 はて?


 なんかこのシチュエーションは覚えが有るような無いような?


 う~ん。何だっけ?


「浅井は佐和山に後詰めを出さないと行けないわね?」


 声の主を見ると俺の後ろに長姫がいた。


 後詰めか?

 佐和山に後詰め?

 これって、もしかして……


「後詰めを出すなら姉川を通らないと行けません。その場合は……」


 半兵衛が答えている。


 ……姉川?


「あー!」


「な、なんですの?」 「び、びっくりです」


 この状況は『姉川の戦い』にそっくりだ!


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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