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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第七章 上杉輝虎と将軍義輝にて候う
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第百五十一話 上杉と会談致して候う

 龍千代の晴れの舞台は将軍義輝の一言でぶっ飛んでしまった。


 宴では龍千代がやけ酒の上に酔っ払いになってしまって大変だった。

 そして上杉家の面々も主君に倣って羽目を外し過ぎていた。

 主に政景が必死に将軍義輝に頭を下げていたのが印象的だったのを覚えている。


 俺は宴が終わってから逃げるようにその場を後にした。

 なにせ目の座った美女が俺に襲いかかろうとしていたからだ。

 政景と柿崎と名乗る人が必死に止めている間に朝信が俺を逃がしてくれたのだ。

 朝信は後日使者を送ると言ったので俺は宿に戻ることが出来た。


 ……正直怖かった。



 あの日から数日後、俺は龍千代から呼び出された。


 今回のお供は長姫と半兵衛、護衛に五名を連れていく。

 利久は朝日と寧々の護衛に残した。

 本音は寧々に利久を押し付けたのだ。


 あいつを連れていくと騒動が増えると思ったからだ。


 しかし、そんな俺の願いは虚しく散った。


「なんで朝日がいる!」


「え、利兄が後から行くことになったからって?」


 朝日は小首を傾げて俺を見ている。


 く、卑怯だぞ、利久!


 見れば利久は口元を手で隠している。

 寧々が俺を見て何度も頭を下げていた。

 しょうがないので皆で行くことにした。

 どうせ龍千代と会う時は俺と長姫、半兵衛の三人になるはずだ。

 利久達は別室に待機するだろう。



「おお、そなた。藤吉の妹か? 可愛いのう」


 龍千代が朝日を見て抱き付こうとしたが政景と柿崎に止められている。


 なんでこうなるんだ!


 龍千代との会談には護衛を除いて行われた。

 すなわち利久と護衛五名が外されたのだ!

 この場に居るのは俺と長姫、ちびっ子三人に龍千代と政景に『柿崎 和泉守 景家』と斎藤朝信だ。


 部屋に通されて挨拶をすると龍千代が長姫を見て目の色が変わった気がした。


「生きておったのか、長」


「ええ、この通りよ。龍」


 この二人の間に見えない何かを感じたが次の瞬間にはそれが綺麗に無くなった。


「き、木下 朝日と申します。う、上杉様にお会い出来て、こ、光栄の至り、です!」


 最後に言いきったとご満悦な顔を見せる朝日に周りは声を無くしていた。

 無くしていたのだが……


「木下 朝日?」


「はい! 木下 朝日です!」


 元気いっぱいに答える朝日を見据える龍千代。

 お、おい。朝日を直視するのは止めてくれ!

 俺は龍千代の視線から守るように朝日の前に移動しようとしたが、先に長姫が動いていた。


「わたくしの妹にそんな怖い顔を向けないでいただけないかしら」


「お前の妹だと? さっき木下だと言って…… まさか!」


 すっくと立ち上がる龍千代。


「誤解です! 朝日は俺の妹です。上杉様」


 俺は土下座して龍千代を牽制した。


「何? 藤吉の妹だと」


 そして先ほどの言葉が出てきた。


「龍。興奮するな。みっともない」


「お屋形様。お静かに、お静かに」


 政景と景家が二人がかりで抑えている。


「う、ごほん。朝日はいくつになる?」


 龍千代が朝日に優しい声で問いかけると朝信が仰天していた。

 そして政景が眉間を押さえている。

 どうやら龍千代は朝日を気に入ったみたいだ。


 龍千代は朝日にあれこれと質問して、朝日は元気よく答えている。


 俺はこんな龍千代の笑顔は初めて見た。

 そしてそれは朝信も同様なのだろう。

 ポカーンとした顔で龍千代を見ているから分かる。


 え~と、これって織田家と上杉家の同盟話をする場ですよね?


「ごほんごほん。それくらいにしないか、龍。話が出来ん」


「ち。朝日よ、後でもっと話そうな?」


「はい!」


「あの~、朝日達を下げて話をしても宜しいでしょうか?」


「それが良かろうな。斎藤、別室に案内しなさい」


「は、畏まりました」


 朝信が朝日と寧々、半兵衛を連れて退室しようとした。


「半兵衛は残りなさい」


「ふぇ~」


 まったくどさくさ紛れて逃げようとするとは?

 それに龍千代が朝日に笑顔で手を振っている。

 そんなに気に入ったのか?


「では、同盟に対する話をしても宜しいですか? 上杉様」


 俺は朝日達が居なくなってから同盟話を切り出した。


「待ちなさい、藤吉。そこの女はそなたとどういう関係なのだ?」


 う、やっぱりそこを聞かれるのね?

 いやいや、それよりも今川の人間が居ることを突っ込もうよ!


「わたくしは藤吉のせいし」


「同盟者です! そう、織田家は今川家と誼を結んでいるので今回の話の立ち会いをお願いしたのです。はい」


 あっぶね~。

 さらっと今、嫁発言しようとしやがった。


「織田と今川が誼を結んだのは本当であったのか?」


「わたくしがここに居るのが証拠でしょう」


 政景の問いに長姫が答える。


「ふん、落ち目の今川と結んでものう~」


「越後の田舎大名が何をもったいぶっているのよ?」


「なに!」 「本当でしょ」


 やめてー! 喧嘩しないで!


「藤吉殿。織田家は我らと誼を結ぶを良しとしておられるのか?」


 景家が俺に問いかける。


 へ? なんで今さらそんな事を聞くのよ?


 俺は龍千代を見ると龍千代は俺から目線を反らした。


 ま、さ、か?


「我らも急な話にて驚いておるのだ。龍から話を聞いたのが昨日のことゆえ」


 ガックシだ。

 まさかの家臣達には話してませんかよ!

 これじゃあ、義輝と一緒じゃないか!


「ごほん。私はこの話を前向きに考えている。ほ、本当だぞ!」


 龍千代さん、今さら取り繕えませんよ。


「呆れたわね。あなた、何も話してなかったの?」


「話はしていた。本当だ! 話はしていたのだ」


 最後の言葉が小さいですよ、龍千代さん。


「我らはお屋形様が良しと言われればそれに従うのみです。そうでしょう。越前殿」


「ふぅ、確かにそうだが。龍よ、もっと前に話しておきなさい。私達も心の準備が居るのだぞ!」


 おお、政景が怒ると迫力あるな!


「う、すみません。兄上、弥次郎」


「分かれば良いのだ。分かれば」


 で、どうなるですかね?


「それで、上杉は織田と結ぶの、結ばないの?」


 長姫がさっさと答えなさいよと言いたげに問いかけた。


「条件がある」


 それ来たぞ!

 家臣の打診をされたら無しだ。

 これは決定だ!

 考慮すらしない。

 それ以外は要検討だ!


「その条件とは?」


 俺はゴクリと喉を鳴らして龍千代の言葉を待つ。


「先の将軍拝謁のおり、浅井征伐を命じられた。しかし我らはここらの地に不案内である。よって誼を結ぶ条件として浅井征伐の為の道案内を頼みたい」


 政景が条件を提示した。

 なんだ、条件面は端から用意していたのか?

 良かった。

 また家臣になれって言われなくて。


 でも、う、う~ん。

 道案内か?

 それって俺に今度の戦に同行しろってことか?

 いや、道案内役は俺じゃなくても良いよな。


「織田家の者が道案内を致せば宜しいのでしょうか?」


 俺が居なくても良いって言質を取らないとな?


「無論だ。ただし、藤吉は私と同行するように」


 駄目だったー!

 この人、俺を外す気全然なかったよ!


「藤吉を連れて行くならわたくしも同行致しますわ。宜しいわよね?」


「ふん、好きにしろ!」


 長姫が付いて来るなら良いかな?

 それに上杉の戦いぶりをこの目で見られるのは良いかもしれない。

 でも、俺も戦うなんてことにもなるのかな?


「あの、本当に道案内だけですよね?」


「もちろんだ!」


「俺も戦うなんてないですよね?」


「私の側にいるのだ。当然戦うに決まっている」


 何を言っているのだと龍千代の目が言っている。


 は、ははは。


『野良田の戦い』に俺の参戦が決定した。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。


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[一言] 約束とは破る(破られる)ためにある…(苦笑い)
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