第十四話 現状を顧みて候う
第一章スタートです。
闇が広がる夜にポツンと明かりが一つ、二つ、三つ。
足軽長屋に帰った俺は机の前に紙と硯、筆を置いた。
あの部屋で聞いた内容を書き出し整理する為だ。
第三者の目に触れれば不味い代物だが考えを纏める為にあえて書くことにした。
俺が改めて市姫様にお仕えすることなった後、今までのこと今後の事を聞いてみた。
まずは信長の死の真相だ。
事の起こりは信長が尾張守護又代織田信友を討ち取り、清洲を下尾張四郡を支配下に置いた時から始まる。
信長は居城を清洲に置き下尾張を支配した。
その後直ぐに信行が謀反を起こす。
居城移動によるどさくさに紛れての謀反。
大した準備の出来ない信長に対して準備万端調った信行の軍が襲いかかる。
信長 九〇〇 信行 二〇〇〇
数で上回る信行軍に対して信長は自ら先頭に立って指揮をする。
『稲生の戦い』である。
結果は信長軍の勝利。
しかし、史実と違うのは林美作守が生き延びていること。
ここから史実と微妙に違ってくる。
この戦いの後信行は自ら信長の下に陳謝する。
信長はこれを許し信行に名古屋城を任せる。
これにより一旦は兄弟仲が修復したと見られ平手のじい様は喜んだという。
だが、事件は起こった。
その後信行は母土田御前を伴い感謝の言葉を信長に伝える。
この時信長は大層上機嫌であったと勝三郎が教えてくれた。
そして土田御前自らが夕げを作り家族三人で食を供にした。
この夕食、平時あれば毒味を行うのだが信長自身がこれを拒んだ。
『母上自ら作った食事に毒等あろうはずがない。よけいな事をするな!』
土田御前に嫌われていた信長は、母の作った食事を望外の喜びと言い周りの反対を押しきって三人で食したのだ。
勝三郎も平手じい様も信長の喜びようにして我が事のように思いその言葉に従った。
終始和やかに食事は終わり今宵は泊まって行くが良いと信長は言い、信行と土田御前もそのつもりで有ったが名古屋からの急使がやって来て急遽帰ることになった。
門前にて信行達をわざわざ見送る信長。
家臣達はこれで謀反ももう起こるまいと思った事だろう。
しかし、異変はその夜中に起きた。
床の間に向かった矢先、突然信長が苦しみ出したのだ。
突然の出来事に動揺する家臣達。
そんな中奥方の一人である吉乃様が冷静に対処した。
床につき、息を荒くする信長。
医者が診るも手の施しようがないと言われる。
毒を盛られたのだ。
『抜かった。それほどこの吉法師が嫌いなのか母上。 是非もなし』
床に付く信長をよそに清洲城内では信行と土田御前が毒を盛ったと騒ぎ出す。
しかし証拠がない。
三人共に同じ食事をしている。
なぜ信長だけが症状をおこしたのか。
それは分からない。
証拠と成るべき食材の残りは厨やに、しかしその残りは土田御前の侍女達が処分してしまった。
状況的に見ても犯人は信行と土田御前である。
『兵を集め、信行討つべし!』
普段、温厚で冷静な勝三郎でさえいきり立っていた。
その状況に待ったをかけた人物がいる、信長だ。
信長は自分が助からないことを知って逸る家臣達を抑え、ある人物を城に招いた。
叔父である『織田 信光』であった。
呼び出された信光は直ぐにやって来た。
信長と信光は二人きりで長い時間話し込んだ。
しばらくして平手のじい様と一部の側近達が呼び出される。
信長は跡継ぎを『奇妙丸』にと陣代を市姫に後見人を信光とすべしと皆に告げる。
信長の遺言である。
この時点で信行を外している。
信長は七日間苦しんだ後、死亡した。
死因は病死と公表された。
この七日間の間、親類筋は軒並みやって来たが信行と土田御前だけは来なかった。
その後あわただしく葬儀が行われた。
奇妙丸を喪主として信光と市姫が支えた。
その中には信行の姿もあった。
勝三郎が言うには信長の死体にすがり付いて泣く姿があったが、人気のない場所にて笑みを浮かべていた姿も見たと。
信行は信光に自分が清洲に来れなかったのは、自分と土田御前も毒を盛られた為だと言い訳をしていた。
利久によればとても毒を盛られた姿には見えなかったと。
そして葬儀の終わりに山口親子の謀反の報告が入り赤塚の戦いが起こった。
そんな中に俺はタイムスリップしたと。
一々突っ込みたい所もあるがこんな感じだ。
だが、話はこれだけでは終わらない。
ある舞台裏の話があったのだ。
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