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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第六章 伊勢征伐と勝頼来訪にて候う
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第百三十五話 龍千代の文にて候う

 長尾龍千代からの文には俺に上京しろとあった。


 これってもしかしたら、会った瞬間に拉致されたりしないよな?

 そんなまさかね?

 あれから約三年が経ってるんだよ。

 そんなことないよなぁ~?


 しかし、文面が短く書かれているのが気になる。


 いつもはどこどこの戦に付いて行って手柄を上げましたとか長々と書かれている文が多かったのだ。

 近況報告が戦の戦果というのはどうかと思うが長尾家だからしょうがないか。

 しかし今回は極端に短い。

 これは何を暗示してるのか分からない。


 行かなければ長尾家との同盟の話は流れてしまう。

 しかし行けば何かしら要求されるだろう?


 そうだよ。要求だよ!


 この文には来なければ同盟の話を無くすとしか書かれていない。

 肝心の同盟を締結する為の要求が書かれていないのだ!


 どうしよう?


 困った時は、報連相だ!



 俺は服部屋敷で知恵袋達と会うことにした。

 ついでに長島の統治にも知恵が欲しかったからな。

 俺には土地を治める知恵なんて何もない。

 ここは経験者の意見を聞くのが一番だ!

 なんなら丸投げにしても大丈夫だろう。


 なんたって俺には美濃の蝮と海道一の弓取りの二人が居るのだから。


「よし分かった。わしに任せておけ」


 はい、アウトー!

 会って早々に何も言ってないのにこのじいさんやる気満々だよ。


「まだ何も言ってないぞ?」


「長島の統治じゃろ。お主は統治に関しては何も経験があるまい。わしに任せるのが一番じゃ!」


 じいさんが胸を張って言っているが俺は無視した。


「でだ。長姫と半兵衛に任せたいけど良いかな? 小一に色々と教えてやってくれないか?」


「構いませんわよ」 「はい。分かりました!」


 よしよし、これで安心だ。


「おい。わしを無視するな?」


 困ったじいさんは無視した。


 そして、話は龍千代の件に移った。


「無視しても構いませんわよね。長尾と組まなくても武田には勝てますわ」


「そうなのか?」


 正直武田と戦いたくはないが、信虎がこのまま大人しくしているとは思えない。

 味方は多い方が良いが無理に上京して長尾と接触する必要もないのならそれでも構わないが、それで良いのだろうか?


「はい。私は行って話を纏めるべきだと思います!」


 お、珍しく半兵衛が自分から意見を出したな?


「なぜかしら?」


 長姫の半兵衛を見る目が怖い。


「ひぅ、その、あの、ふぇぇ~」


 あ、半兵衛が半泣きになった。

 やっぱりまだメンタルが弱いな。


「これこれ脅すでない。わしも長尾とは誼を結ぶべきじゃと思うぞ」


 扇子を広げて仰ぐじいさん。

 最近暑くなって来たからな。


「その利点は?」


 今度はじいさんに長姫の視線が刺さる。

 怖い、怖いよ。


「長尾と結ぶ事で武田は周りを挟まれて右往左往して対応に追われる。そうすると信州の者達は武田から離反しよう。もちろん美濃の者達もな? これならば被害を最小に抑えて勝つことが出来よう。藤吉の望みもそうであろう?」


「え、はい。もちろんです」


 ギロっと長姫に睨まれてた。

 やめて、そんなに睨まないで!


「そんな利点。景虎は当然分かっていますわ。それなのに会いに来いなんて言ってるのがおかしいと思わないの!」


 う、うん。長姫の言う事も分かる。


「だから会いに来いと言っているのだろう? 会って証文を交わして約すのは当たり前ではないか?」


 そ、そうね。じいさんの言う通りだよ。


「えっと、その、わたしは」


「半兵衛は黙ってなさい!」「ひゃい」


 今日はなんか攻撃的だな?

 体調が悪いのかな?


「ふぅ、お主らしくもない。何を感情的になっておるのだ?」


「わたくしは感情的になってませんわ! 感情的なのはこの龍千代ですわ!」


「それを感情的じゃと言うのじゃ」


 それからは話が平行線を辿ったのでお開きにした。

 結局は市姫様に報告して判断を仰ぐしかないのだ。

 そして俺は判断に迷った市姫様の相談に乗れるようにこの三人に話したのだがな?


 ふぅ、とにかく市姫様に会わないとな。


 俺は小一と長康、友貞に長島の復旧作業を任せた。

 とにかく拠点作りと住める場所を重点的に頼んだ。

 長島の土地は輪中ばかりで防衛施設を作るのは容易なのだが、その分居住スペースが狭くなりがちだ。

 元々雑多な作りの建物が多かったのだ。

 それをまともな物に作り変えて居住環境の改善を行う。

 防衛施設は後回しにしてこれを優先する。


 街並みはじいさんと長姫が上手くやってくれるだろう。

 井ノ口並みとは言わないがやってくれるはずだ。

 そして、肝心の資金と資材だが……


 これは問題ない。


 資材に関しては川並衆が用意してくれた。

 小六の祝言祝いも兼ねているそうだ。

 ちなみに小六は祝言の用意と報告で蜂須賀郷に戻っている。

 ああ、上京する事になったら祝言がまた延びるな?

 小六になんて言おう?


 資金は一向宗が貯めた資金を使うことにした。

 まさか長島の民が寄進した銭で自分達の住む場所が作られるとは思ってないだろう?

 長島の民は涙を流して俺に感謝しているそうだ。

 小一が微妙な顔をして報告してくれた。


 小一もこれにはあまり納得していないようだ。


 しかし、じいさん達はこれが当たり前だと言っている。

 民から取った税で民の生活を豊かにする。

 豊かになった民がさらに多くの税を俺達に納める。

 そして、それを使ってさらに民が豊かになるように税を使うのだと。


 俺はこれを聞いて銭の循環を行うことの重要性を改めて知ったのだ。


 しかし、今回はちょっと、なんとなく長島の民に悪いような気がした。



 そして俺は市姫様に龍千代の文を見せている。


 信光様と平手のじい様はいない。

 二人きりだ。

 俺が望んだんじゃないよ!

 市姫様がそうしたんだ。


「なぜ、黙っていた」


 う、市姫様の声が冷たい。


「こんな大事な事、なぜ言わなかった?」


「その、ダメもとで送った文でしたから…… 成功したら良かったかな、と……」


 市姫様は下を向いたままだ。

 文を持っている手が震えている。


 これはヤバい!


「も、もちろん。報告するつもりだったんですよ。その証拠にいの一番に姫様に報告しに来たんですから。お疑いなら道空殿に確認してもらっても構いませんよ?」


 本当はいの二番だけどな?


「わ、私は、そんなに頼りないのか?」


 え、あれ?


「私は、藤吉に頼りにされない当主なのか?」


 市姫様の声が震えていた。


 ……泣いている。


「私が若いからか? 女だからか? 私はお前に助けてもらってばかりで…… なんで……」


 あー、この展開は予想してなかった。


「あ、あの、姫様?」


「このバカー!」


 市姫様が俺に文を投げ付けた。

 俺はそれを避けることはしなかった。

 ……出来なかった。


「私が、どんな気持ちで…… 今度の戦は、お前に頼らなくても、私だけで出来るって」


 俺を見ながら市姫は話し続けた。

 目から涙を流しながら……


「長から、藤吉に頼りすぎるって、言われて。それは私も、分かって……」


 長姫が入らんことを吹き込んだのか?


「でも、しょうがないじゃない! 父様は死んでしまって、兄達も私を残して、叔父上やじいは優しくしてくれるけど…… でも、私は、陣代で、織田家を守らないと……」


 市姫にとって、父信秀、兄信長、信行の存在はとても大きかったようだ。


 市姫様は…… 織田 市は何の覚悟も無いままに織田家を背負わされたのだ。

 そのプレッシャーは俺には想像出来ないものだろう。


 それを俺は考えてなかった。


 俺はもっと彼女に頼るべきだったんだ。

 そして、頼り頼られる関係を築けばよかった。

 俺が彼女と距離を取りすぎたのが行けなかった。


 俺が彼女を知らず知らずに追い詰めてしまったのだ。


 俺は気づけば市姫を…… 市を抱き締めていた。


「とう、きち?」


「すみませんでした。姫様」


「もっと抱き締めて、お願い」


 俺は少しだけ力を込めてみた。


 市は柔らかかった。

 それにいい香りがした。


 こ、これは…… 我慢出来ないかも!


「……頼む。このまま……」


 俺の耳元で市が甘い声で囁いた。



 俺は…… 市を押し倒した。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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[一言] 大人の階段の〜ぼる〜♪
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