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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第六章 伊勢征伐と勝頼来訪にて候う
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第百三十四話 城持ちになりて候う

 織田家の伊勢攻めが終わった。


 今回の伊勢攻めは関家が織田家に臣従したとして、それに反発する北伊勢の国人衆を討伐するというかなり強引な手法を取った。


 今さら他国を攻める為に大義名分が必要なのかと思うが、それが有るのと無いのとでは大きな違いがある。

 まあ、今回は北伊勢の独立した国人衆を討伐するのが目的だ。

 多少強引な手法では有ったが、北伊勢の国人衆は一部を除いてそのほとんどを配下に加えることが出来た。


 大半の国人衆は城ごと焼き払い、降伏した国人衆はその領土を安堵する事で済んだ。

 そして、一部の国人衆の中の神戸家と長野家だが……


 神戸家は関家の取り成しによって御家を安堵するも領地は没収、身柄は関家が預かった。

 いずれこの火種が燃える事で関家共々滅ぼすつもりだ。

 長野家は北畠家からの養子を突き返してから降伏して来たので、領地の一部接収するだけに止めて降伏を受け入れる事に成った。

 ゆくゆくは長野家に織田家の誰かを養子に出して長野家を乗っ取る算段だ。


 この一連の絵図を描いたのが市姫なのだから驚きだ!


 残る南伊勢の北畠家だが、こちらは攻め込む為の大義名分がまだ無い。

 まあ、長野家を使って多少挑発していれば向こうから攻めて来るだろう。

 それを返り討ちにして伊勢の領有が完了する。


 尾張伊勢と美濃の南西部を手にすれば石高は百二十万石を越える。

 これなら武田家に対抗出来るだけの戦力を整える事が出来る。

 万一、武田家が織田家を攻めても大丈夫なように準備だけは怠らないようにすべきだ。


 そして、論功行賞が行われる前に市姫様と四郎勝頼改め『勝姫』様の面談が行われた。


「勝と申します。以後お見知り置きを」


 勝姫は男装姿ではなく打ち掛け姿だ。

 こうして見ると勝姫の中性的な魅力が女性寄りに傾いて綺麗である。


 そして、勝姫の姿を見て驚いている市姫様と信光様、それに平手のじい様。


「藤吉。これはどういう事だ?」


「見たままですが」


 この部屋には俺と勝姫、昌景さんに市姫様と信光様、平手じい様の六人が居る。

 上座に市姫が座り左右に信光様と平手じい様が、そして下座には勝姫を中央に左右に俺と昌景さんが座っている。


「その、つまり、四郎殿が…… 姫なのか?」


「その通りです」


 信光様の問いに昌景さんが答えた。

 平手のじい様は手を額に当てている。

 どうやら勝姫が女性だと気付かなかった事にショックを受けているようだ。


 勝姫の正体を市姫様達に知ってもらう必要が有った為に、皆の前で挨拶を交わした後にこうして別に一席を設けたのだ。

 表向きは嫁取りの相談事としている。


「それで、その、勝殿は、どうしたいのだ?」


 事前に話をしていなかったので市姫様はかなり動揺していた。

 手に持っている扇子がブルブルと震えている。


 あ、いや、これは怒っているな?


「織田家に身を寄せたいと思っております。何卒お願い致します」


 深々と頭を下げる勝姫。

 そしてそれに倣う昌景さん。


「何がどうなっているのか。説明致せ、藤吉!」


 立ち上がって扇子を俺に投げ付けた市姫様。

 俺はその扇子を片手で受け止めてみせた。


 お、よく取れたな俺!


「落ち着け、市。ごほん、説明してもらうぞ、藤吉。それからお二方。頭を上げられよ」


 信光様も俺に説明を求めた。

 平手のじい様はピクリとも動かない。

 考える事を拒否しているみたいだ。


 勝姫と昌景さんが俺を見たので二人に頷いて見せてから、俺は事の次第を伝えた。


 市姫様はかなり怒っており話の途中で『なんだと!』『ふざけるな!』と怒鳴っていた。

 信光様はそんな市姫様を宥めながら話の続きを俺に促した。


 市姫様が怒るのは分かるがなんで俺に怒るのさ?

 俺は二人に相談されただけなのよ。

 それにこれは織田家にとっては得になる事なのに?


「……と言う事でございます」


 俺が説明を終えると市姫様は大分落ち着いたご様子だ。


「つまりは将来的には武田と争う事になるのか?」


「はい。遅かれ早かれそうなると思われます」


 俺は信虎の事は話さなかった。

 この事を話せばこの三人がどういう反応をするか分かっているからだ。

 今でさえ市姫様はかなり興奮しているのだ。

 父と兄が信虎に殺された事を知ったら……


 想像するだけで恐ろしい。


「分かった。四郎、……勝姫は織田家が預かろう。待遇に関しては今まで通りで良かろう? のう叔父上」


「市が決めたならば、否はない。それでよろしいか、勝姫?」


「ありがとうございます」


 勝姫と一緒に俺も頭を下げる。


 こうして勝姫は無事織田家で生活する事になった。

 しかし俺は……


「なんで前もって言わんのだ。貴様は!」


 平手のじい様から雷を食らっていた。


「いや、言いたかったんですけどね。相談しようとしたら平手様が忙しいから後にしろとおっしゃったじゃないですか?」


「こんな大事ならば聞いておったわ! そもそもお主は問題を起こしすぎる。少しは自重せい!」


「俺は最初に言いましたよね? とても重要な事ですからと! 信光様と時間を取って下さいとも言いましたよね? ねえ、信光様?」


 俺は信光様に同意を求めた。

 そもそも俺は市姫様に知らせる前に信光様と平手のじい様に報せようとしたのだ。

 それをこのじい様が忙しいからと取り合わなかったのだ!


「え、あ、うむ」


「ほらー!」


「知らん、知らん、知らん。わしは知らんわ!」


 平手のじい様が耳に手を当てて聞こえないふりをしている。


「あー! 開き直った! それでも」


「だまれー!」


「ひ!」「うひゃ」「はぁ~」


 市姫様の一喝を食らってしまった。


「藤吉」「ひゃい」


 市姫様の冷たい視線が俺を貫く。


 こわ! すっごく怖い!


「こっちに来い」「ひゃい」


 俺は市姫様に隣の部屋に連れられて説教を食らった。

 今回は俺は悪くないよね?

 悪くないだろう?


 なんでこうなるんだよー!



「やれやれ、相変わらず素直ではないな市は」


「また厄介事ばかり増やしおってからに」


 信光様と平手のじい様の声が俺に聞こえる事はなかった。



 その後、論功行賞が行われた。


 そして俺は…… 遂に、遂に、城持ちに成った!


 やったぜー! 俺は遂に城持ちなったぞー!


 これでやっと小六と祝言を上げる事が出来る!

 ついでに犬千代とも上げる事に成っている。

 そして、寧々はその後で上げる事にしている。


 ふぅ、これで俺も所帯持ちだ。


 長かった。とても長かった。


 これまで我慢してきたがそれも遂に終わる!

 これからは子作りも頑張らないとな。

 家はとも姉もまだ子供が出来なくて母様が寂しがっている。

 早く子供を作って母様に喜んで貰わないとな!


 これからは一城の主として、一家の主として頑張らねば!


 ちなみに俺に与えられた土地は『長島』だ。

 平手のじい様曰く『お主が落とした土地だからな。お主が治めるのが良かろう』との事だ。


 それから左近も城持ちになった。

 俺のお隣の桑名を与えられたのだ。

 俺が苦労して待ちに待って与えられたのに左近は直ぐに城持ちに成りやがった。


 これが生まれの差なのかね?


 左近からはお隣同士仲良くやりましょうと言われた。


 しかし、こっちは拠点を焼き払ってしまい再建に時間が掛かるのに対して、城はそのまま港も付いている桑名を与えられた左近との差が酷いような気がする。


 そんな俺に津島の堀田道空が現れた。

 俺が城持ちに成ったお祝いを言いに来てくれたのだ。

 しかし、それは表向きで本当の要件は別に有った。


「とうとう城持ちに成られましたな。さすが私が見込んだだけの事はある」


「いや、運が良かっただけです」


「謙遜なさることも有りますまいに。おっとまだお祝いの言葉がまだでしたな? 此度、長島の地を与えられし事、祝着至極に存じまする」


「やめてくださいよ。道空殿にそんな事言われたら恥ずかしいじゃないですか」


「はっはっは、そうですな。では、今まで通りでよろしいかな?」


「そう願います」


 俺達二人、共に笑いあった。


「では、これを」


 道空殿が俺宛の文を懐から取りだし俺に渡した。

 待ちに待った返事がやっと届いたのだ。


「良き返事だと宜しいですな?」


「そうですね」


 道空殿は俺の協力者だ。

 相手に送った内容は前もって教えてある。


 俺は文を読んでいく。


 く、そう来たか!


『七月の上洛の時に会いに来るべし。会いに来なければ先の話は無かった事と致す。龍千代』


 長尾龍千代からの同盟に対する返事だった。


やっと城持ちに成りました。

そして、龍千代からの召還状が届きました。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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