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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第六章 伊勢征伐と勝頼来訪にて候う
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第百二十九話 長島炎上

 長島が燃えた?


 と言う事は…… は!


 道三と半兵衛か!


 しまった! 武田家の接待に付き合わされていたのですっかり忘れていた。

 あいつら殺りやがったのか?

 俺が居ない内に殺ってしまったのか?

 直ぐに服部屋敷に向かわなくては。


 俺は小六を連れて服部屋敷に向かった。


「わしは何もしとらん? それは言い掛かりじゃ。のう、半兵衛?」


「は、はい。何もしてません」


 ふん、二人共俺の目を見て言いなよ。


「あれじゃ、その、お主に言われる前にちょっ~とばかしその、な。のう、半兵衛?」


「は、はい。少しだけです」


 そうか、そうか。

 少しだけ何をしたのかな?


「何簡単な事じゃ。門徒の中にわしの手の者を潜り込ませてな。まあ、色々とやったのよ」


「は、はい。色々やりました!」


「やっぱりお前達かー!」


 駄目だ。目を離すんじゃなかった。


「何、直接動いたわけではない。奴等が勝手に動いただけよ。のう、半兵衛?」


「はい。門徒が自分たちで動くように誘導しました!」


 無い胸を張る半兵衛。

 頭痛いよ本当に。


「お主はこう言う裏の仕事がまだまだじゃ。だからわしが代わってやったのよ」


 言いたい事は分かるけど一つの地域を丸ごと焼き払うなんてやり過ぎだ。

 どれだけの被害が出たのか考えたくもない。


「被害とな? そんなものは微々たる物じゃ」


「なんだと! 大勢亡くなったのにそれが微々たる物だと! 中には女子供も居ただろうに。そんな事やったら駄目だろうが! 少しでも、少しでも俺は助けたかったのに…… それなのに……」


 俺は拳を握りしめ目から涙が出ていた。

 このじいさんを信用するんじゃなかった。

 これは俺のミスだ。

 俺が招いた災厄だ!


 くそ、くそ、くそったれー!


「何を泣いている。民の犠牲など殆んど出とらん。お主、詳しい話を聞いておらんのか?」


「は、はへ?」


「ふぅ、やっぱりのう。半兵衛。説明してやりなさい」


「はい。分かりました!」


 半兵衛が『長島願証寺焼失事件』を教えてくれた。


 事の起こりは長姫の献策から始まった。


 長姫は三河の一向宗を利用すべきだと説いた。

 まず長姫は友貞を利用して三河の一向宗に松平が三河統一の為に一向宗を排除する動きが有ると噂を流させた。

 そして、同時に一向宗に納められる米を服部党に盗ませて、それを松平の家臣がやったことにしたのだ。


 これに激怒した三河の一向宗は松平家に詰問したが、当然松平家はこの事を知らない。

 突っぱねられた一向宗はそれならばと松平家の代官屋敷を襲って米を取り返した。

 それを知った松平家は一向宗に詰め寄る。

 一向宗はやられた事をやり返したと答えたのだった。


 これに激怒したのは松平ストーカー君(家康)。


 ストーカー君は直ちに兵を集めて一向宗の寺を包囲して門徒達に謝罪と賠償と立ち退きを迫ったのだ。


『竹千代が三河支配を完全にするためには一向宗は邪魔なのですわ。わたくしは竹千代の背を押しただけですのよ。おほほほ』


 怖い、怖いすぎる!


 そして、この事を長島の願証寺証恵の耳に入るように噂を流させる。

 これを知った証恵は直ちに兵を送るべく準備を整えて、三河に兵を送った。

 ちなみにそれら長島一向宗を送ったのは服部党だ。


 そして、長島の門徒達に証恵は寄進を募る。

 しかし、門徒達もそれほど蓄えがあるはずもない。

 証恵は門徒達に三河の門徒達を助ける為だと説いて寄進させた。

 そして、その物資を服部党が三河の門徒達に届ける。

 それを数回繰り返した。


 俺はこの話を聞いておかしいと思った。

 三河の一向宗の寺は松平家が包囲しているのにそこに物資を運びいれたのか?

 どうやって?


「運んでません。その物資は知多に隠してます」


「門徒達は?」


「門徒達は三河に置き去りにしました」


 な、なんたる所業。


 そして友貞にはまだまだ物資が足りないと嘘の報告をさせた。

 これは銭で雇った傭兵に報告させている。


「服部党の者だと疑われてしまうかもしれません。念には念を入れてやりました」


 証恵はこれを怪しんだが結局門徒達に再度寄進を募った。


「ここでわしの手の者がの、ちょっとばかり煽ったのよ。ふふふ」


 うわぁ、悪い笑みが良く似合うよ。


 度重なる寄進に不満を漏らす事で周りを煽った。

 証恵は寺には蓄えは殆んどないと言って門徒達を静めようとしたが、それに突っ込みを入れる道三の配下。

 そこで証恵は寺に蓄えがない証拠に蔵を見せると宣言した。


 そして、証恵が蔵に皆を案内してその中身を見せたら……


「事前に蔵には服部党と蜂須賀党の人達で知多に隠していた物資を運びいれておきました」


「あたしは藤吉に報告してからが良いって言ったんだよ。本当だよ!」


 それからは道三の配下が煽る必要はなかった。


「信じていた者に裏切られるとな。人は何も見えなくなるし、聞こえんようになる。信心などまやかしよ」


 暴徒と化した門徒達は寺を襲った。


「この時に火を点けました。さらに混乱を増すためです」


 えげつない。


「一向宗の僧達はほとんど亡くなった。門徒達も多くは傷ついたがの。死者はそれほど多くない。それにこれで門徒達の信心はどこかに行ってしまったの。どうじゃ、お主にこれ以上の事が出来るか?」


 返す言葉がなかった。

 結局俺はあの長島の虐殺を起こさせないようにと考えていた。

 しかし、最終的には力攻めしかないとも思っていた。

 そうするとその被害は道三達の策よりももっと酷かった筈だ。

 それを道三達は仲間内の争いで片付けてしまった。

 そして、門徒達の信仰心をも吹き飛ばしてしまった。


「お主の血を流したくない気持ちはよーく分かる。しかしの。結局は血が流れるのじゃ。それを多くのするのか、少なくするのかはお主次第よ」


「……勉強になりました」


「うむ。お主はもっとわしらを頼るべきじゃな? のう、半兵衛?」


「はい。もっと頼ってください」


 血を流さないようにと思っていたのに、結局は俺の策より道三達の策が血を流さなかった事になる。

 俺の独り善がりの考えが視野を狭くしたのかもしれない。


「で、その後は?」


「お主の名前で小一と友貞達が後始末をしておる。あの地は無主の地じゃ。お主が名乗りを上げても構うまいて」


「はぁ、俺の名前だけじゃなくて、織田家の名前も使ってくれ。そうしないとまたやっかまれる」


「難儀じゃのう。手っ取り早く織田家を乗っ取ってしまえば良いのに?」


 俺はその問いには答えなかった。


「これで桑名も落ちよう。そうすれば後は……」


 市姫様達は長島を迂回して北伊勢を攻めている。

 長島の一向宗が居なくなった事で桑名も落としやすくなるだろう。

 そうなれば後は神戸家と長野家を攻め落とせば北伊勢は織田家の物だ。


 とりあえずそこで伊勢攻めは終わる。


「所でな。気になっておったのだが」


「なんです?」


「四郎勝頼の事じゃ。お主はあやつの婿に」


「大将!」


 道三が言い終わる前に長康が慌ててやって来た。


「どうした長康。お前小一と一緒じゃないのか?」


「俺は留守を任されてたんだよ。いや、それはいいから。大将に客が来てる」


「客? 誰?」


「武田家の連中だ!」


 な、なんでここに?


「まさかの。武田に気取られるとはの。油断したかの」


「えっと、えっと、ああ、どうしましょう?」


 落ち着け俺!


「長康。武田家なのは間違いないのか?」


「間違いねえ。あのちっこいのが門の前で怒鳴ってるんだ。大将を出せって煩いんだ」


 昌景さんが来てるのか。

 でも、俺が居ないと屋敷の周りから出られない取り決めをしていたのに?


「兎に角来てくれ。早くしないと無理矢理上がり込んで来るかもしれない」


「分かった。じいさん達は奥に居てくれ。小六。一緒に来てくれ」


「分かった」


 俺達が門までやっ来ると門番と押し問答をしていた昌景さん達が居た。


「おお、藤吉殿。無事で有ったか? 突然飛び出して行ったので心配して付いてきたのだ。む!そこのおなごに何かされなんだか?」


「あんだって、ちっこいの」


「止めろ。小六」


 どうやら昌景さん達は俺を心配して来たようだ。

 しかし、その言葉を鵜呑みにするほど俺は愚かではない。


「俺の用事は済みました。さぁ帰りましょう昌景さん」


「うん、そうか。では帰るとしようか。四郎様も心配している」


 あれ? 本当に心配して来ただけなのか?


「小六。また連絡する。今度は直接来るなよ」


「でも…… 分かったよ」


「ふふふ。では行こうか。藤吉殿」


 俺の手を取る昌景さん。

 何故かご満悦だ。


 とにかくじいさんの事を知られるのは不味い。

 他の場所に匿わないとな?


 しかし、じいさん。


 最後に何を言おうとしたんだ?



 永禄三年 五月某日


 木下 藤吉 策を用いて長島を占有す。


 長島の民はこれを大いに喜びてこれを迎える。


 右筆 村井 貞勝 書す。


お読み頂きありがとうございます


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 昌景さん(ちゃん?)だけじゃなくて、四郎勝頼まで女⁉️
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