第百二十七話 四郎勝頼がやって来て候う
『武田 四郎 勝頼』が清洲にやって来た!
彼は雪が溶けると直ぐに美濃までやって来たようで、父親の晴信に挨拶をした後に真っ直ぐ尾張清洲城にやって来たのだ。
お供をするのは『山縣 三郎兵衛 昌景』だ。
その他二百騎が付いている。
山縣昌景って確かこの頃はまだ『飯富 源四郎 昌景』じゃなかったっけ?
兄、叔父?の飯富虎昌が『義信謀反事件?』に連座して死んでから、名門山縣家の名前を継いだんだよね。
でも、こっちではもう山縣姓を名乗っているのか?
そして赤備えも継いで武田最強集団って言われていたと思うけど……
こいつら全員がそうなのか?
鎧は着ていないがそれでも威圧感が半端ない。
こいつらと戦なんてしたくないなぁ~。
戦う前から負ける気がする。
取り次ぎは俺じゃなくて勝三郎がやっている。
勝三郎も今回はお留守番なんだよ。
こいつも俺と一緒で結構嫉妬されていたりするからね。
だから、暇してるなら巻き込んでしまえと連れてきたのだ。
「池田 勝三郎 恒興です。隣が木下 藤吉です。遠路より来られて御疲れでしょう。しばし休まれてから案内致しまする」
勝三郎が俺を紹介して一緒に頭を下げる。
「これは痛み入る。しかし休みは無用。直ぐに案内を頼もう」
どうやらせっかちな御仁のようだ昌景殿は。
でだ、武田家の護衛含めて十名を連れて城内を案内しているのだが……
武田家の先頭を歩いているのが山縣昌景。
この人史実と一緒ですげえ背が低い。
本当に低かったんだな!
そして、この人。女性なんだよ!
袴姿の男装姿だけど髪を結ってポニーテールにしてるんだ。
その髪が地面すれすれで着くか着かないかなんだ。
それに背が低いので幼女がコスプレしてるように見えて笑いそうになるんだよ。
だってこれ、可笑しいよな?
俺だけが可笑しいのかと思っていたが周りの武田家の人達も笑いを堪えていたりする。
時折、『ぷふ』とか『くくく』て声が聞こえる。
そして、その忍び笑いをしているのは俺達だけじゃない。
四郎勝頼も笑っていた。
『武田 四郎 勝頼』
史実では武田家を滅亡させた人である。
戦は強いが政略に疎いと言われていた。
実際は戦も政略もそつなくこなす良将、いや名将と言っても良いだろう。
父親の信玄とずっと比べられてるから評価低いけど、そんな事はない。
だって信玄より領土を広くしたんだよ!
しかも、『長篠の戦い』で敗れてからもっと領土を広くしたんだ。
勝頼は信玄と比べても劣っているとは思わない。
そして、その四郎君はどうかと言うと。
これまた美少年なんだよね。
こう中性的な感じのする男の子だ。
背は昌景よりも高い。
顔は少し小さいかな?
まつ毛が長くて目が大きい。
鼻は高すぎず低すぎず、唇は小さくうっすらと赤い。
女の子と言われても納得してしまう美しさだ。
いや、これは失礼だよな?
一通り案内してから広間に通してから四郎君は信光様と会われた。
本当なら陣代の市姫様が応対するんだけど、居ない者は居ないからしょうがない。
信光様が市姫様の代役だ。
それに信光様は奇妙丸様の後見人だしね。
そして、その様子を見ていた平手のじい様がボソッと『逃げずともよいのに』と言っていたが聞かなかった事にしよう。
しかし、これって結構失礼なんじゃないのかと思うけど四郎君は笑っていた。
『今は乱世にて戦は待ってはくれませんからね』と大人の対応をしていた。
御付きの昌景さんも何も言わないので他の武田家の連中も黙っている。
さすがに上が笑ってやり過ごしているのだ。
下が騒げばみっともないものな。
その辺は流石武田家だなと思った。
一通り挨拶が終わった後に四郎君達が寝泊まりする屋敷に案内した。
四郎君が寝泊まりする為だけの屋敷だ。
この為にわざわざ作ったのだ。
屋敷を案内した後に後日、姫様達と面談する事を約して今日の俺の役目は終わりだ。
いやー中々緊張したよ。
「では、明日またお会いしましょう。これにて失礼致します」
俺は挨拶をしてそそくさと帰ろうとした。
「お待ちあれ。少し話などされませぬか?」
呼び止めたのは昌景さんだった。
う~ん、俺はロリコンじゃないからな。
貴女じゃときめきませんよ。
「貴女じゃときめきませんよ」
あ、やば!
「ときめく? な、何を言っているのだ! 貴様は!」
昌景さん怒ってるんですけど、見た目可愛いから怖くない。
顔を真っ赤にして両手をブンブンさせている姿は子供が癇癪を起こしているようにも見える。
「すみません、失礼しました。この通りです」
俺は深々と頭を下げて謝った。
「ふ、ふん。まあ許してやろう。では中で話そうではないか」
そう言うと昌景さんは中に入っていった。
「さすがは木下殿は剛胆ですな。山縣様にあのような軽口を叩くとは?」
「え、いやーそんなつもりはなかったんですけどね?」
武田家の連中の俺を見る目が変わった瞬間だった。
部屋には俺と昌景さんの二人きりだ。
改めて昌景さんを見る。
この人見た目も幼いんだよな。
いわゆる童顔と言うやつだ。
朝日と同じくらいに見える。
でも、こうして相対すると見た目とは違うのがはっきり分かる。
そして、昌景さんは腕を組んで仁王立ちしてこう言った。
「で、どういう事か説明して貰いましょうか?」
すっげえー威圧感だ!
声もドスが聞いている。
しかし、見た目がそれを相殺している。
なんともアンバランスな人だな?
これでもうちょっと背が有れば違うんだろうけどね。
昌景さんは市姫様が居ない事にご立腹だった。
それはまあ分かるんだけどさ。
それを下っぱの俺に言われても困るんだよね。
俺は頭を下げつつこのクレームに丁寧に対処した。
ふ、舐めてもらっては困る。
俺は取引先のクレーム対応もバッチリこなしてきた。
こんな事くらい何ともないのだ!
それに見た目幼女のクレームなんて屁でもないぜ!
そして、散々頭を下げたのだった。
この構図、外から見たら子供の女の子が大人の男を叱っているように見えるだろうな?
多分見てたら笑われてると思う。
そうだよな、四郎君。
「それくらいで勘弁したらどうだい。昌景」
隣で聞いていたのだろう。
四郎君がやって来て声をかけた。
もう少し声は抑えた方が良いよ。
「四郎様。しかし!」
「居ない者は居ないんだ。それなら帰ってくるまで待つしかないよ」
笑顔で返す四郎君は絵になる子だ。
「ま、そうですね」
ポンっと手を叩く昌景さん。
え、市姫様が帰ってくるまでここに居るの?
「え、えっとそれは……」
「何か不都合でも?」
昌景さんが俺の目の前にやって来て顔を近づける。
怒ってる顔をしているけど怖くない。
ここは当たり障りのない言葉でかわすのが一番だ。
「どれくらい長くなるか分かりませんよ? それほど長くは逗留出来ませんでしょう?」
「心配は要らない。父上からは嫁を見つけるまでは帰ってくるなと言われている」
な、なんですと?
「山縣様はその……」
「当然、私も四郎様と一緒だ!」
両手を組んで胸を張る昌景さん。
あ、今気づいた。
この人結構持ってる。
しかし困ったな?
市姫様には戦が終わるまでに帰ってもらうようにと言われていたんだ。
それを初っぱなから残ると言われてしまった。
どうしよう、市姫様?
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