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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第六章 伊勢征伐と勝頼来訪にて候う
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第百二十話 半兵衛の懇願にて候う

「お願い致します。どうか、どうか、お助け下さい」


 俺の目の前で土下座している人物。

 史実においては秀吉の与力となって各地を転戦した武将。


 名を『竹中 半兵衛 重治』


 後世『今孔明』と呼ばれる名軍師として有名だ。

 しかし、それは間違いだ。

 大体、孔明が名軍師だって笑わせる。


 孔明が名軍師だったなら何故魏の国を倒せなかったんだ。

 何故夢半ばで死んだのだ。

 孔明は政治家で内政家だ。

 そして、戦略家であって戦術家ではない。


 目の前の半兵衛はどうか?


 これがよく分からないのが現状だ。

 半兵衛の功績は彼の息子が書いた本『豊鑑』に書かれたでっち上げだ。

 決して後世に言われる名軍師ではない。

 しかし、半兵衛が秀吉を支えた人物だと言う事に変わりはない。

 果たして彼女はどんな人物なのだろう?


「ここでは詳しい話は出来ない。中で話そう」


「は、はい。ありがとうございます」


 彼女の顔に喜色が見える。

 話を聞くだけだ。

 願いを叶える訳じゃない。


 改めて彼女を見る。


 彼女は男装していて衣服は汚れていた。

 何日も洗っていないのだろう。

 汚れが目立つ。

 それに顔や手も綺麗じゃない。

 家の母様やとも姉の方がよっぽど綺麗にしている。


 俺は彼女を立ち上がらせて屋敷に上げた。


 屋敷には誰も居なかった。

 小六は蜂須賀屋敷で美濃の者の世話をしている。

 母様ととも姉、弥助さんはまだ中村に居る。

 利久はとある後家さんの所だ。

 犬千代は市姫様に付いて泊まりだ。

 小一と長康は長島で友貞と共に調略活動だ。

 何日かは帰って来ない。


 そして、長姫と寧々に朝日が居るはずなんだが、姿を見ない。

 蜂須賀屋敷に行っているのかな?


 最近、朝日は長姫に付いて侍女の真似事をしている。

 将来武家の嫁に成るための修行を兼ねているのだ。

 しかし、本人には自覚は無いのだがな?


 そうなると、この広い屋敷に二人きりか?


 いや、ここには下男下女が数名居る。

 二人きりにはならないな?


 俺が屋敷に入ると下男が水桶を持ってくる。

 足を洗うのだ。

 俺が足を洗ってもらう間に彼女の足を洗うように頼む。

 下男は下女を呼んで彼女の足を洗う。


 最初は自分で洗うと拒否した彼女だが、俺が洗ってもらうように言うと素直に従った。

 そして、足を洗い終わってから上に上がる時に彼女の水桶を見ると真っ黒に近い色をしていた。


 どれだけ体を洗っていないのか?


 俺は下男にお湯を頼んだ。

 このまま屋敷に上げるのは良くないと思った。

 彼女には体を拭いて服を着替えさせる事にした。


「いえ、そのような事は必要ありません。とにかくお話を」


「そのように汚れていては屋敷に上げる事は出来ん。とにかく体を拭いて服を着替えなさい。でないと家の者に私が叱られる」


 事実、長姫が汚れを嫌がるのだ。

 農作業を嬉々として手伝うが汚れは許せないらしい。

 その辺は姫様だなと思った。


 長姫が帰って来た時に汚れた衣服で部屋に上げたら彼女が怒る。

 それは困るのだ。


「分かりました。その、あの」


「着替えたら部屋に案内させる。そこで話を聞こう」


「は、はい」


 下女が彼女を連れて行く。

 服の替えは彼女達に任せた。

 そこまで面倒は見きれない。



 俺は自室で蜂須賀党や服部党の報告書に目を通す。

 周辺国の様子は絶えず知っておかないといけない。

 しばらくすると彼女、半兵衛がやって来た。


「参上しました」


「うむ、入りなさい」


 ちょっとだけカッコつけてみた。

 俺はこの屋敷の木下家の家長だからな。

 威厳を持たないと!

 似合わないけどね。


「失礼します」


 そう言って入ってきた彼女を見て驚いた。

 汚れていた衣服を着替えて、今は小袖姿に変わっていた。

 男装姿の時とは大違いだ。


 顔は小顔で目が大きくくりっとしている。

 髪は上げてある。

 全体的に華奢な体つきだ。


 うむ、肉が足りないな。

 特にあそこが足りない。

 まだ十代だから諦める事はないだろう。

 しっかり食べて育てて欲しい。


「綺麗、じゃない。座りなさい」


「はい」


 借りてきた猫のように隅にちょこんと座る彼女。

 なんか微妙に震えて見えるんだけど?


「では、話を聞こうか?」


「はい、お願い致します」


 彼女の話は簡単だった。

 要は援助して欲しいそうだ。


 竹中家は先の武田との戦いで男手を失い。

 更に彼女の後ろ楯だった『安藤 守就』を失っていた。

 ちなみに守就の妻は半兵衛の母親の妹で守就は半兵衛にとって叔父にあたるのだ。


「安藤は死んだのか?」


「はい、叔父上は武田に殺されました」


 あの安藤が死んだのか?

 にわかに信じがたい話だ。

 俺はもっと詳しく話を聞いてみた。

 すると彼女は驚愕の事実を教えてくれた。


「墨俣築城と井ノ口城を落とした策は君が考えたのか?」


「はい、そうです」


 義龍側に居た時に彼女は幾つかの献策をして、叔父の安藤を助けていたようだ。


「もしかして、六角の援軍も君が?」


「はい、私が考えました」


 信じられない。

 彼女はどう見ても十代前半だ。

 寧々とほぼ同じぐらいだろう。

 そんな彼女が道三と義龍を手玉に取ったのだ!


 となると、解せない事がある。

 彼女は武田が来る事を考え付かなかったのだろうか?


「それは……」


 更なる話は飛んでもない物だった。


 なんと安藤守就は武田に通じていたのだ!


 龍重が何故野戦を挑んだのか?

 それは守就が龍重を唆したのだ。

『武田は長距離の行軍で疲れている。急戦して戦えば必ず勝つ』と龍重に囁いた。

 この時半兵衛はその事を知らなかったそうだ。

 知ったのは全てが終わってからだ。


 そして、守就は武田に降伏したが裏切り者を良しとしなかった武田晴信は守就を斬って捨てた。


 話を聞いて守就の目的が朧気ながら分かったような気がする。


 守就は最初から武田と通じていて、斎藤家を混乱させてその力を出来るだけ削ぐように命じられた。

 見返りは美濃半国とか、とにかくデカイ餌で釣ったのだろう?

 しかし、武田家の誤算は守就があまりにも優秀な結果を出してしまった事だろう。

 そして、その力を恐れて守就を殺した。


 だが、守就が結果を出せたのは半兵衛の力が大きい。

 身の危険を感じた彼女は武田家から逃げ出した。

 守就と一緒に降伏した彼女が逃げるために竹中家の男達が必死で彼女を逃した。


 そして、彼女は一族を率いて国境を越えようと不破の関に向かうが一足早く関は閉められた。

 その為に南下して今は、長島に潜伏していた。


 しかし、急な移動の為に十分な準備も出来ず。

 また、戦の為に銭を消費していたので路銀が足りない。

 その為彼女は噂を頼りにここ木下邸を訪ねたそうだ。


「話は分かった。援助の話は受けよう」


「ほ、本当で御座いますか?」


「ただし! 条件が有る!」


「じょ、条件ですか?」


 よし、ここで彼女を俺の配下に加えよう。

 彼女の戦術家としての腕は聞いただけでも十分だ。

 それに嘘か本当かは、長姫が帰って来てから確かめれば良い。

 今の俺の軍師は長姫だからな。

 確かめるには長姫の力が必要だ。


 今は彼女を逃さないようにする事が大事だ!


「わ、分かりました。その、痛くしないで下さい」


「へ、痛く?」


 半兵衛はすっと立ち上がると帯を解いて服を脱いだ。


「な、何を!」


「や、優しく、して、下さい」


 彼女は震えながら全裸で立っていた?


「ふ、服を着なさい。お願いだから!」


 俺は顔を背けて見ないように努めた。


「え、でも?」


「いいから、早く!」


 すたすたと足音が聞こえてくる。


 ヤバい!

 

「頼むから早く着てくれ!」


 スパーンと言う音と共に戸が開かれた。


「お待たせしましたわね。藤吉? とう、きち?」


 あわわ。


「藤吉様。おかえり、な、さ、い」


 あ、いや、これは。


「お兄ちゃん。帰ってたの? あれ、長姉。寧々ちゃんどうした、の?」


「ち、違う。違うんだ! これは」


「寧々。朝日を部屋にお願いしますわ」


「長姫様。私も言いたいことが?」


「分かってますわ。でも、後でね?」


「はい、分かりました。行きましょうか。朝日ちゃん」


「ねえ、お兄ちゃん。何なの、ねえ?」


 寧々が朝日を連れていった。

 寧々の視線が痛い。

 そして、長姫は……


「うふ、話をしましょうか。と、う、き、ち?」


 俺は悪くない!


 タイミングが悪かっただけだ!


「あの、藤吉、様」


 お願い、半兵衛は何も言わないで!

 火に油を注ぐだけだから。



「俺は、無実だー!」


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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