第百十九話 右筆衆再編成にて候う
いよいよ登場!
いやぁ、楽しい時間ってあっという間に過ぎて終うのですね?
五日ほど中村で稲刈りをした後に清洲に戻って来たら、俺の机とその周りは書の山であった。
何で増えてんだよ?
市姫様は初日だけ手伝って帰って貰った。
長々と手伝って貰う訳には行かない。
長姫と共に清洲に戻ったのだ。
長姫と一緒と言う事で帰ったのだが、この二人本当に仲が良い。
帰るのを嫌がると思ったがあっさりと帰っていった。
何か拍子抜けであるし不気味だ。
そして、帰ったらこれである。
平手のじい様の雷は落ちなかったが、その代わりがこれなのだろう?
うう、休み明けにこの量は無いよな。
だが、新生右筆衆はこんな事くらい朝飯前だ!
いや、朝飯前に終わるわけないけどな?
もう、食ってるし。
美濃から帰ってから右筆衆の仕事に戻ると、案の定と言うか?
やっぱりと言うか?
仕事が溜まりに溜まっていた。
お金が貯まっていたら嬉しかったのにな?
俺はこれを見て抜本的な改革が必要だと感じた。
何せこれからも織田家は大きくなるのだ。
俺がそうさせるからな?
そうしたら仕事の量が増えるのは当たり前。
ならばそれを処理する人間を増やすか?
または効率化するしかない!
今回は人を増やす前に効率化を目指す事にした。
まずは聞き取り調査だ。
どうも俺が作った台帳記入マニュアルが上手く機能しなかったようだ。
その為に問題点を洗いだし改善する事が急務だと考えた。
俺が面接して雇った小者達は優秀だったがどうも臨機応変な対応が出来ないようだ。
マニュアル以外の事になるとてんで駄目だ。
これは俺のミスだろう。
それに貞勝殿や信定殿も手一杯だったようで、これは俺も謝った。
しかし、この経験が彼らを成長させる良い機会に成ったのも事実だ。
彼らは俺が居た時よりも仕事が出来るようになった。
あくまでも下働きだけどな。
その為に仕事部屋を大幅に改築しました。
まずは上座に三つの席を用意し左から信定殿、俺、貞勝殿の順に席を並べる。
そして下座に長机を三つ用意してそれを更に並べていく。
信定殿の席は手紙やご機嫌伺い等の行政以外の書の処理をする係だ。
そして、俺が経理関係を貞勝殿が裁定関係の処理だ。
各々の列にその関係の有る書の下処理をさせて俺達に持ってくる運びだ。
これだけでも大分楽になる。
中には優秀な奴も居るのでそいつに処理を一部任せて決裁だけは俺達がする事にしている。
いや~もっと早くこうしていれば良かった。
お陰で日暮れ前に帰れるようになったし、指導も出来るようになった。
めでたし、めでたしである。
いや、おかしい?
俺達がやっている仕事は右筆の仕事じゃ無くなってるな?
これって奉行並みの仕事じゃないか。
もうこれは右筆衆奉行所と名前を変えるべきなんじゃないのか?
うん、これは一応相談しておこう。
そして、皆の給金を上げよう。
それで俺の給金も次いでに上げよう。
いい加減恩賞が貰えてないし、肩書きが変わっただけで給金は据え置きとかおかしいよな?
そう、俺の肩書きは少し変わったのだ。
今の俺は『近習兼右筆 侍大将』になっている。
この内近習と右筆はもうすぐ無くなるだろう。
何せ俺は城持ち成るんだからな!
そうなると前の足軽大将では身分が低いので侍大将に格上げされているのだ。
まあ、城持ちになる前の一時しのぎの肩書きだ。
そして、城持ちに成ったら念願の『家老』にランクアップだ!
ふふふ、苦節三年にしての城持ち家老だよ。
我ながらこの出世のスピードが怖い。
その為か急激に出世する俺を妬む者達も居る。
ろくに働かない奴らの妬みなんて気にするなんて無駄なんだけど、これが結構馬鹿にならないのだ。
美濃の一件がそれに当たる。
美濃の援軍要請をして跳ねられた一件は、武田家が動いているからだけではなかった。
武田家のは後付けで、俺に手柄を立てさせたくない連中が騒いだ為に援軍を出すのを躊躇したのだ。
結局は俺に戻る様に命令が出された形になったのだけれども。
しかし、俺はこれを無視した形になってしまった。
これって実は命令違反を俺が犯した事になるのだが、それよりも俺が立てた功績の方がでかかったので不問にされた。
そして、この命令違反を不問にした事で俺に対する恩賞は無くすべきだと主張する連中が現れた。
この馬鹿で無能な連中のお陰で俺の恩賞は据え置きなのだ。
今の織田家は派閥争いが裏で激しく殺り合っている。
まずは市姫様を頂点にした『平手派』だ。
一応俺はこの派閥に属している。
平手家と前田家、そして池田家がそれに当たる。
この派閥の筆頭が平手のじい様こと平手政秀だ。
しかし、この平手派が最大派閥ではない。
織田家の最大派閥は『佐久間派』だ!
佐久間信盛を筆頭に川尻、佐々、森、その他旧林派閥が吸収されての一大派閥に成っているだ。
それに新たに美濃の『稲葉派』が出来た。
当然、筆頭は稲葉良通だ。
この派閥は現在三番手になっている。
その他にも中立派や小派閥が存在するが今はこの三大派閥がそれぞれ争っている。
しかし、平手派と稲葉派は俺という存在が居るので協力関係に有る。
喧嘩を売っているのは佐久間派なのだ。
そして、その攻撃材料が俺になっている。
何でそんな事やっているのか?
俺は正直どうでも良いのだが連中はそう思っていない。
せっかく信行が膿を出してくれたのにまた、湧いて来ているのだ。
それに俺だけが原因ではない。
佐久間派の筆頭佐久間信盛にも原因がある。
信盛はこの派閥を制御出来ていない。
どうも信盛は派閥をもて余しているようだ。
ちなみに信盛は現在織田家筆頭家老になっている。
なっているのだがどうも頼りない。
頼むから自分の派閥くらい自分で制御して欲しい。
そのとばっちりで俺が酷い目に会ったらどうする。
最悪、織田家は内乱状態になるかもしれないのだ。
ま、あくまでも可能性だけどな?
はぁ、早く恩賞が貰えないかな。
俺がその日の仕事を終えて家に帰ると門の周りで騒いでいる連中が居た。
「駄目だ、駄目だ。誰の紹介か言えないと通す訳には行かない」
「我らはそなたのような素浪人を黙って通す訳にはいかん! 帰れ、帰れ!」
「お願いします。蜂須賀様に。それか前野様に会わせて下さい。お願いします。この通りです」
押し問答をしていた人が門番の二人に土下座している。
この光景は美濃が武田家の物になってから珍しい事ではない。
武田家に従わなかった国人衆の一部が小六を頼ってこの屋敷に詰めかけているのだ。
道三に従って激しく抵抗した者は道三が敗れると浪人になって各地をさ迷っている。
稲葉や氏家を頼らずに小六を頼るのは、小六が道三と個人的に親しかったからだ。
そんな国人衆や土豪が俺の屋敷に連日やって来て騒ぎになった。
その為当初は屋敷の警備を厚くして蜂須賀屋敷に向かう様に指示していたのだが、こうして直接小六や長康に会いに来る者も居る。
そういう人は誰かの紹介状が有れば会うことにして、それ以外は追い払う事にしている。
この人は紹介状を持っていないようだ。
可哀想だと思うけど、蜂須賀党や川並衆で抱える事の出来る人数にも限りがある。
見所のある人は俺が直接雇う事も有るがそれももう限界なのだ。
後は、彼らが織田家に直接仕官するしかない。
しかし、織田家に仕官するのは彼らのプライドが許せないのか?
その話をするとすごすごと帰っていくのだ。
プライドよりも今日や明日の飯だろうに?
さて、この人はどっちを選ぶのかな?
「そこの人」
「「大将、お帰りなさいませ」」
「うん、ただいま」
「大将?」
土下座した人は顔だけ俺に向ける。
若いな。
まだ十代前半だな?
それに痩せているのか、全体的に華奢に見える。
「そこの人。仕官を望むなら私が話を聞こう。但し仕官先は蜂須賀ではなくて織田家になるがね?」
俺が話かけるとその人は立ち上がって俺の顔をまじまじと見つめる。
うん、男かと思ったけどもしかして女の子か?
「「おい、お前! 大将から離れろ!」」
「あなたは、もしかして、木下 藤吉ですか?」
な、なんだよ。いきなり呼び捨てかよ?
「「貴様、無礼だろう。大将を呼び捨てにするとは!」」
そうだ、そうだ。
「そうなのですね。木下 藤吉なのですね? お願い致します。私はどうなっても構いません。どうか、どうか、お助け下さい」
突然彼女は俺に対して土下座する。
何だかな~。
「それじゃあ話も出来ないよ。先ずは君の名を教えて貰おうか? 話はそれからだよ」
彼女は顔を上げて自分の名前を告げた。
「私は『竹中 半兵衛 重治』と言います。どうか、お助け下さい」
自分の名前を告げた彼女はまた地面に頭を付けて土下座する。
竹中、半兵衛?
この娘が、あの竹中半兵衛重治?
ここまで引くつもりなかったけど漸く登場しました。
誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。
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