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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第六章 伊勢征伐と勝頼来訪にて候う
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第百十八話 稲刈り日和にて候う

混沌六章の始まりです。

「ふぅ、腰が痛い」


 俺が腰をトントンと叩いていると。


「兄者、大丈夫かい?」


「兄ちゃんさぼっちゃ駄目だよ!」


「ははは。だらしないぞ藤吉」


「お前さんは生き生きしすぎだよ」


「何だと!」


「ほらほらお前達。手が止まってるよ。藤吉も頑張りな」


「はぁ、分かったよ。おっ母!」


 俺は腰を屈めて作業に戻る。


 何をしているかって?

 家族総出で稲刈りだよ。

 今は稲刈りのシーズン真っ只中だ。

 猫の手も借りたいくらい忙しいのだ。


 え、何でそんな事してるのかって?


 それは俺が織田家を出ていったから、……じゃないよ。

 単に俺の休みの日と実家の稲刈りの日が重なっただけだ。

 清洲に移り住んでも中村の田んぼは親類に任せているのだ。

 田植えや稲刈りのシーズンには俺達家族は中村に戻って、こうして手伝っているのだ。


 ちなみに俺は初参加だけどな?


 こっちに来てから三年が経とうとしている。

 一年目は周りに振り回され、二年目はやっぱりまた振り回され、そして今年は…… あんまり変わってないな?


 一年目はともかく二年目は手伝いたかったが右筆として忙しかったからな。

 外にも出られなかったし。

 今年はようやく手伝いが出来たのだ。


 こうして家族で何かをするのはとても楽しいし嬉しい。

 向こうでは両親は直ぐに亡くなったし、祖父母も俺が就職してからしばらくして亡くなった。

 何も孝行等出来なかった。


 だが、今は違う!


 今の俺には守るべき家族が居る。

 そして、家族が幸せに暮らせるように頑張るのだ。

 だが、こんな家族の団欒にも付いてくる者も居る。


「だあー、こんな面倒くさい事出来るか! 俺は帰る!」


 こいつ、殴っていいか?


「兄上! せっかく無理を言って付いてきたのですよ。ちゃんと働いてください!」


「全く利久はダメダメですね」


「う、最近寧々ちゃんの言葉がきつくなってないか? お前の影響で寧々ちゃんの言葉使いが悪くなってるんだぞ」


「兄上の生活態度を見ていれば誰だってきつくなります」


 前田兄妹と寧々も一緒だ。


「藤吉。こっちは終わったよ。そっちを手伝うからね」


「あ、姉さん。まだ残って」


「ああ!」 「何でもないです」


 当然、小六とそして何故か長康も一緒だ。


「さぁ、皆さんもう一頑張りしたら休憩ですわよ! 美味しいお握りを用意してますからね」


「治部、じゃなかった。長姫様。こっちに用意すれば宜しいですか?」


「そうね。そこに準備なさい」


「はは」


 長姫が友貞に食事の準備をさせている。

 準備をしているのは服部党の面々だけどな?

 何で付いてきたんだよ。


「いや~。今年は去年よりも早く終わりそうだよ」


「ありがとね~。なかさん」


「ほんと、ほんと。木下の家が来てくれて助かるわ~」


 親類連中も歓迎してるからいいか?


 秋晴れの空の下、俺は稲刈りに精を出した。



 織田家の尾張支配は順調だ。


 服部友貞が俺の与力と成った事で尾張全域が織田家の支配を受けている。

 後は大垣周辺の美濃南西部一帯も織田家の物と成った。

 これは武田家も認めている。

 しかし、残念な事に不破郡の不破光治は武田家に臣従してしまった。

 これで武田家は浅井、朝倉、六角と対峙する事になる。


 それを考えれば不破郡が織田家の物に成らなかったのは僥倖のように思えるがそうでもない。


 不破の関を閉じた事で物流が停滞気味なのだ。

 それに斎藤家が進めていた関所廃止や楽市楽座制度の見直しがされ始めている。

 どちらも美濃国人衆を思っての武田家の政策だ。


 だが、これは間違いだ。


 今までは関所を無くすことで人や物の行き交いを助け、楽市楽座を行う事で更なる物流の流れを良くし経済成長を刺激したのだ。

 その為に井ノ口は発展した。

 そして、そのおこぼれを美濃国人衆は享受していたのだ。


 一年もすれば如実に差は出始める。


 気付いたときにはもう遅い。

 尾張と美濃の経済格差ははっきりと出てくるだろう。

 その時には美濃国人衆は織田家を頼ることになる。

 そうなれば武田を追い払うチャンスだ!


 それに武田家は稲刈りを前に五千の兵を残して帰国した。

 晴信本人と信繁が残っているが、兵の帰郷心を抑える事は出来なかったようだ。

 そして、そうなると元気な奴らが現れる。


『武田の兵が去った今が好機よ!』


『今ならば武田を追い払える』


『美濃を取り返すのだ!』


 本当にバカな連中だ。

 特に最後の美濃を取り返すって、美濃は織田家の物じゃないだろうに?

 そんな元気があるなら誼を結ぶ前に交戦を支持しろよ!

 武田の兵が居なくなってから言うなよな。


 そんなバカな連中は普段温厚な信光様の一喝を浴びて黙った。


 あの温厚な信光様が怒ったのだ。

 さぞ、怖かったのだろう。

 その様子を見ていた勝三郎がその時の事を教えてくれないのだ。

 俺はその場に居なかったので知りたかったのだが、勝三郎は知らない方がいいと言っていた。

 勝三郎の顔が青ざめていたので深くは追及しなかった。


 信光様、何を言ったんですか?


 武田家の美濃の統治は失敗する。

 これは長姫が確信している。

 俺もそう思う。

 だが、今は動かない。

 その時を静かに待つだけだ。


 そして、織田家と今川家は和議を結ぶ事になった。


 長姫の存在を非公式ではあるが今川にリークする事にした。

 これで今川と同盟を結んで武田と対抗するのだ。

 既に服部友貞が動いている。

 友貞は今川とのパイプを持っているので重宝する。

 これからも頼りにしているぞ友貞!


 そうなると松平が邪魔になってくる。


 松平には何も言っていない。

 あくまでも織田家と今川家の外交だからだ。

 後で文句言って来ても知らんよ。

 今川と一緒に松平を潰せば良いのだ。


 そしたらストーカーともおさらばだ。

 さようならストーカー君。

 君は本当に運が無かったんだよ。

 史実での君は強運過ぎたんだ。

 こっちでは俺がきっちり止めを刺して上げるよ。

 楽しみに待っていたまえ。ははは。


 それから龍千代にも文を書いた。


『武田が美濃に出て来て困っています。良ければ織田と誼を通じませんか? 今なら今川も一緒に付いてきますよ? 武田が織田や長尾の不利益な行動をしたら一緒に戦いましょう。景虎様にご一考下さるようにお願いして貰えませんか? それと上洛の件は一応考えておきますので、宜しくお願い致します。藤吉』(現代語訳)


 これで何とかならないかな?


 まあ、これは保険のような物であまり期待は出来ない。

 龍千代がどれ程長尾景虎に影響力を持っているのか分からないしな?


 後は伊勢なんだよな~。


 こっちは全然手を付けていない。

 まだ長島の調略に手こずっている。

 友貞の働きかけで傭兵連中は動いているのだが、肝心の門徒達がねえ~。


 これはやっぱり時間を掛けないと駄目だな?


 ふう、やる事が多くて行けない。


 それに春先には武田から『菊姫』と『四郎勝頼』がやって来る。


 勝頼はともかく、菊姫はまだ二歳だ。

 これはあまりに早すぎる。

 まだ、武田との折衝は出来るのでせめて五歳になってから来させようと思う。

 これには市姫様達も同意している。


 何を焦っているのか、晴信は?


 但し、勝頼が来るのは確定だ。

 そうなると相手なんだけど誰になるのかな?


 市姫様を筆頭に織田の姫君は美人揃い。


 正に選び放題だ!

 なんて羨ましい。

 いや、俺が言うセリフじゃないな。


 選ばれるのは妥当な所だと『犬姫』か?

 対抗として市姫の叔母の『つや様』か?

 この二人なら年齢の釣り合いが取れる。

 しかし、市姫様は自分が選ばれると思って戦々恐々だ。


 そして、それをからかう長姫様。


 いつの間にか市姫様と長姫は仲良くなって居るんだよな?


 現に今も……


「ふう、こうして稲刈りをするなんて思っても見なかった」


「どう、楽しいでしょう?」


「ああ、民の生活を知る良い機会だ。ありがとう長」


「良いのよ、市」


『市』『長』呼びが当たり前になっている。

 前は両方とも結構嫌っていたのにな?

 本当にどうしたんだろうか、この二人?


「さあ、皆。もう少しで終わりだよ。早く終わって飯にしようか?」


「「「「おおう!」」」」


 おっ母の号令に皆答える。


 ちなみに市姫様や長姫の事は親類連中には前田家の親類だと言っている。

 まさか、織田や今川のトップなどと言えない。

 言えば仕事に成らないからな?


 市姫様はお忍びでやって来ている。

 当然知っているのは勝三郎達近習と御付きの侍女達だけだ。

 つまりここに居る犬千代と寧々が御付きの侍女で、俺と利久が近習だ。


 まあ、後で平手のじい様の雷を貰うだけだ。


 俺がね。

 でも、そうならないように利久を捕まえておこう。

 俺だけ説教なんて嫌だからな。


 こうして一時ではあるが平和な時間を過ごしていた。


当分はまったり進むと思います。(作者が思うだけです)


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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