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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う
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第百十話 曽根城籠城戦

 ある稲葉家の兵。


 俺は、俺達は稲葉様と一緒に戦って死ぬと思っていた。

 だが、尾張からやって来た『木下 某』って奴が来てから様子が変わった。


 城を囲まれたその日。

 稲葉様は俺達を集めてこう言った。


「外には憎き龍重と守就が居る! 我が仇が居る! 我らはこれよりこの城に籠り戦う。時を待ち奴等を疲れさせ兵が退くまで戦い抜き生きて仇を討つのだ! これよりは勝手に死ぬことまかりならん。わしと供に生き抜くのだ! よいなー!」


「「「おうー!」」」


 稲葉様の力強い言葉を受けて俺達は心を一つにした。

 正直に言えば、このまま戦って死ぬのは怖かった。

 俺の父や叔父、それに従兄弟や親類連中はこの前の戦で死んでしまった。

 稲葉様が言っていたが、仇は憎い。

 しかし、俺が死んだら家は幼い弟と妹が残るだけだ。

 そんな弟達を残して死ぬのはやはり心残りだった。


 だが、今は違う。

 稲葉様は生きろと言った。

 俺は生き残って弟達と一緒に暮らすんだ。


 そして、その日は戦う事は無かった。

 使者が来たからだ。

 俺は使者を見ていないが何でも年若い者がやって来たそうだ。

 降伏を勧めに来たらしい。

 しかし、稲葉様は一喝して追い返した。

 さすがは稲葉様だ。


 俺達はそう簡単に屈したりしねえ!



 あれから十日が過ぎた。

 城に敵がやって来たのは最初の数日。

 それは俺達が追い払った!

 いや、俺達だけじゃ無理だった。

 悔しいがあの尾張者の助けで何とか追い返した。

 尾張者は日根野家が攻めてきた時に助力してくれた。

 その後も俺達と一緒に戦ってくれている。


 正直尾張者は好きではなかったが、こいつらは別だ。

 それになぜか蜂須賀の者も居た。

 あの木下某って奴は何者なんだ?


 ここ数日敵が攻めて来ないのは、あの木下某のお蔭だ。

 奴は朝早くに城を出て奇襲をかけやがった!

 それが上手くいって次の日も明くる日も夜襲?をかけて敵を散々に討ち破った。


 そのせいなのか。

 敵は遠くに陣を移して遠巻きに包囲している。

 お蔭で退屈でしょうがない。

 このままなら生き残れるかもしれない。

 いや、生き残れるだろう。



 二十日が過ぎた。

 最近は激しい戦いが続いている。

 どうやら向こうは焦ってるみたいだ。

 昼夜問わずに攻めて来やがった。

 俺達は三交代で戦っている。

 これも木下某、いや、『木下 藤吉』の考えらしい。


 上手い事を考え付くもんだ。


 まるで敵の戦い方を前もって知っているみたいだ。

 負傷者は多いが、死者は少ない。

 それに皆元気だ。

 今日も明日も生き残るって、皆口々に言っている。

 俺もそんな一人になっていた。


 今日も生き残って、明日も生き残るんだ!




 一月が経った。


 もうダメかもしれない。

 敵が退く様子がない。

 攻め寄せる度に散々に痛め付けたのに、全然退かねえ。


 傷を負って亡くなる奴も増えてきた。


 昨日生きてた奴が今日は死んでるんだ。

 俺ももしかしたら……

 そんな時にあの男は。


「下を向くな! 前を向け! 生きてるんなら下を向くな! 前を見て友に声を掛けろ。俺達も苦しいが相手も苦しいんだ! 根性見せろ。まだ俺達は生きてるんだ!」


 何を言ってやがるのか?

 何が言いたいんだ。

 でも、不思議と前を向いてしまう。

 さっきまで下を見ていた連中が顔を上げて前を向いている。


 あの男、木下藤吉って奴は諦めが悪いみたいだ。


 そして、どうやら俺達も諦めが悪い奴らばっかりみたいだ。



 ※※※※※※


 一月粘る事が出来た。


 敵が来た初日は稲葉家の者と年寄りと女子供を逃がした。

 帰って来た時には龍重の使者が帰った後だった。

 その使者の名前を聞いて驚いた!


『竹中 半兵衛 重治』が使者として来ていたのだ。


 ああ、くそ! 残っていれば会えたのに!


 次の日から敵の攻勢を受けた。

 これは稲葉家の兵で撃退出来たが、たびたび利久が飛び出して加勢していた。


 大人しくしていれば良いのに?


 俺は蜂須賀党を除く二百の兵で朝駆けを行った。

 これは夜襲を警戒した敵の意表を突けた!


 都合三度行って散々に暴れてやった。

 ちょっと最近むしゃくしゃしていたので良い発散になった。


 十日を過ぎてから敵の攻勢が続いた。

 昼夜問わずの攻撃に大変だったが前もって進言しておいた三交代制のお蔭でギリギリ耐える事が出来た。


 もっと兵がいたら楽出来るのに?


 たびたび兵に檄を飛ばしている。

 苦しいだろうが耐えて欲しい。


 後少し。後少しだけ耐えれば……


「兵糧はまだ有るが、兵が持たん」


 稲葉良通は怒るでもなく淡々と話している。

 この一月あまり、彼はよく我慢してくれた。

 一時は暴走するのではと思ったが、そんな事は無かった。


「氏家殿と坪内が動いてくれている。……筈なんだけどな?」


 俺は小六に確かめる為に聞いてみる。


「連絡は貰っているけど、まだ準備が掛かるみたいだねえ」


「後十日も持たんぞ。どうする?」


 どうすると言われても?


「城を捨てるか?」


 利久の珍しい消極策。


「兄上。それでは傷ついた者達を連れて行けません!」


「ああ、そうだったな?」


 利久は惚けたが、これは俺に撤退しろと言っているのだ。

 俺には分かる。

 利久ももう持たないと思っているのだ。


「ならば、わしが残る。貴様達は動ける者を連れて」


「待った! それは絶対に駄目だ!」


「しかしだな?」


「約束したでしょう? 一緒に仇を討つと」


 それきり良通は何も言わなかった。


「小一が必ずやってくれる筈だ。信じて待つしかない」


 頼むぞ小一。お前の働きに掛かってるんだ!


「なら、しょうがねえな。まだまだ暴れますか?」


「ふん、まだまだ若い奴には負けんぞ」


 利久と良通が一緒に立って出ていった。


「しょうがない兄上。藤吉様。私も行きますね?」


 そう言うと犬千代も去っていった。


 残ったのは俺と小六だけだ。


「で、小六。本当の所はどうなんだ?」


「利定の奴にはきっちり言ってあるからね。大丈夫だよ。問題は相手に気づかれてないかだけどね?」


「まあ、その辺は長姫が上手くやるだろう? 本人の発案なんだからな」


「本当にそんな事で兵を退くのかねえ?」


「こっちが囮だと思えば必ず退く。筈だ?」


「頼りになるんだか、ならないんだか」


 小六が肩を竦める。


 そんな小六を俺は抱き締めて囁く。


「心配ない。俺を信じろ」


「……藤吉」


 小六も俺を抱き締める。


 大丈夫だ。


 一月持たせたんだ。


 後少し、後少しだけ時間を稼げれば。


 その時、大きな声が響いた。


「外が騒がしいな?」


「どうやら悪い事が起きたみたいだねえ?」


 俺と小六は立ち上がり外に出た。


「大将! 門が、門が!」


 どうやら大手門が破られようとしているらしい。


「こりゃあ、ヤバイかな?」


 俺がわざとおどけて見せると。


「ふふ、そんな事思ってもいないくせにねえ?」


 小六が笑って返してくれた。


「よし、行くぞ! 最後まで足掻いてやるさ!」


 俺と小六は門に向かって走った。




 その日、曽根城の大手門が破られたが城兵の必死の抵抗によって城は落ちなかった。


 しかし、明日にも曽根城は落ちる。


 それは城にいた者達全員が思っていた。


お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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