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第十一話 評定に参りて候う

名古屋の地名に関しては、第四話で説明してあります。

 審判の日がやって来た。


 今日は登城前から緊張しまくりでガクブルが酷い。

 前日に利久から脅されまくったからだ。


 俺は顔を上げて朝日を見る。

 これがこの世界で見る最後の朝日か?

 いや、人生最後の朝日かもしれない。

 もっと何か出来たんじゃないのか。

 いっそ逃げ出せば。

 しかし、昨日は利久がちゃっかり家に泊まりやがった。

 最後の監視か。

 もう逃げ場はない。

 覚悟を決めろ。


 じたばたするのを止めて性根を据えるしかない。

 出たとこ勝負だ!


 ここに来てからこればっかりだな。

 ………流されてばかりだ。


 登城していつもの部屋に向かう。

 するとそこには勝三郎がいた。


「後一刻ほどしたら評定の間に来てくれ。紙と筆を忘れないように」


「あ、はい」


 勝三郎は要件を伝えたとばかりに部屋を出ていった。


 評定の間?


 案内されたことはあるが入るのは初めてだ。


 ………おかしい。


 評定の間で記録をつけるのは利政様の仕事じゃないのか。


 それを俺がするのか?


 勝三郎は紙と筆を持ってと言っていた。

 ならそう言うことだろう。

 でも、わからん。


 俺は評定の間で殺されるか?

 何か失敗したとしてその場で手打ちにされるのか。

 どうする、このまま逃げるか。


 そっと戸を開けて周囲を見渡す。

 あっ、曲がり角に利久が立っている。

 しかもこっちを見て手を振りやがった。


 駄目だ監視されてる。


 俺はそのまま評定の間に向かった。

 すぐさま利久がやって来たので皮肉ってやった。


「朝からご苦労様」


「いやいや、藤吉の晴れ姿を見ようと思ってな」


「ずいぶん暇人だな利久。こっちは生きた心地がしないよ」


 ほんと、逃げ出したい。


「大丈夫だ。評定の間で死にはしない。この利久、必ず藤吉を守ってやる」


「結局、命の危険があるって事じゃないか!」


「あれ、そうか」


 もうこいつの言うことは当てにならない。


 俺は肩を落として評定の間まで歩いた。




 評定の間はテレビドラマで見た感じそのままだった。

 広い間取りに上座と下座を明確に分ける畳が敷かれている。

 そして、正面から向かって左手に台座がある。

 多分あそこが右筆の席だろう。

 評定の間で台を使うのは右筆しかいないからな。


 俺は利久に誘導されるまま上座近くにある台座のある席に案内された。

 そこには既に明院利政様がいた。

 俺が挨拶すると会釈だけ返された。


 この人はいつもこんな感じだな。

 ちょっと安心した。


 俺が席に着くとわらわらと人が入ってきた。

 その中に平手のじい様の姿が見えた。

 平手のじい様は俺に気づくと露骨に嫌そうな顔をした。

 そして上座近くに座った。

 序列が決まっているので皆迷うことなく席に着く。

 席と言っても座布団が置かれている訳ではない。

 板張りに直に座るのだ。

 ちなみに、右筆の席は上座の畳が敷かれている場所だから板張りに座らないで済む。

 但し、書くのが仕事だから姿勢を正して正座だ。

 右筆の仕事をするようになって正座にも慣れた。

 今なら二時間位正座してもどうってことない。

 利久の書を書いた時は腕も足も死んでいたが。


 織田家の家臣一同が評定の間に揃うと、近習筆頭の勝三郎もやって来た。

 勝三郎の席はちょうど右筆の席の向かい側、対面になる。

 その顔はいつも通り涼やかだ。

 その隣に利久が座り俺を見てニヤニヤしている。

 ちょっと、イラッときた。


 しかし、疑問に思った事がある。

 上座の席に二つの席が用意してあるのだ。


 一つは当然、陣代である市姫様の席だろう。


 残るもう一つの席は奇妙丸様の席だろうか?

 しかし、奇妙丸様はまだ幼いので評定には出て来ないはず。

 たしか前に勝三郎や利久がそう言っていたような。

 そうだ、分からない事は聞いてみよう!


 俺は隣に居る明院利政様に上座の席について聞いてみた。

 すると利政様は以外にも素直に教えてくれた。


「我々の方の席に市姫様が、恒興殿の方に」


 利政様が答えきる前に勝三郎が主君の来訪を告げる。


「織田家陣代織田市様。お目見えなりー」


 すると右筆の席の後ろの戸が開けられ市姫様が現れた。

 驚いた事に市姫様の後ろに太刀を持った男装姿の犬千代も入ってきた。

 市姫様の姿は以前会った時と同じように着物姿に更に羽織っていた。

 ただ、美しい市姫様が入ってきた瞬間、その場の空気が重くなった気がした。

 市姫様の澄んだ瞳が家臣団に向けられる。

 家臣達は勝三郎の声を聞いた瞬間、一斉に頭を下げている。

 頭を下げていないのは俺だけ。

 そして、俺を見た市姫様は驚いた顔を一瞬見せると微笑みを向けてくれた。


 一瞬、ぽ~となってしまったが慌てて頭を下げる。


 クスリと頭の上で聞こえた気がした。


「皆、面を上げよ」


 凛とした声が聞こえると一斉に家臣達が上体を起こす。

 俺も少し遅れて頭を上げる。

 市姫様は座っており家臣達を見渡し最後に俺を見て、口元を扇子で隠した。

 多分、笑っているのだろう。

 俺もしばらくぶりに見る市姫様に笑顔を向ける。


「織田家名古屋城主。織田弾正忠信行様。お目見えなりー」


 家臣団の内の上座の一人がデカイ声でいい放つ。

 勝三郎の澄んだ声と大違いだ。

 耳に痛い。

 もっと抑えろよ。


 待て、弾正忠信行?


 なんで信行がここに来る。


 市姫様を見ると笑顔とは言い難い顔をしていた。

 犬千代は顔は平静さを保っているがその肩は震えている

 勝三郎は苦々しい顔をしている。

 利久は不気味な笑顔を。

 家臣団の上座に居る平手のじい様は怒気をはらんだ顔をしていた。


 その人物が入ってくるまで。


 織田信行が下座からやって来た。


 ドカドカと足音を立てて、乱暴に。

 家臣達は信行が見えてから頭を下げて行く。

 その中を満足そうな顔をしてやって来る。

 そして、信行は上座に着くと市姫を一睨みした後に残ったもう一つ席に座った。


 織田弾正忠信行。


 この世界で、信長を殺した男。



お読みいただきありがとうございます。


お目見えの使い方が合っているのか、違うのか。

よく分かりません。

詳しい方、教えて頂けたら幸いです。


応援よろしくお願いいたします。


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