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藤吉郎になりて候う 〜異説太閤紀~  作者: 巻神様の下僕
第五章 美濃征伐にて候う
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第百八話 織田家の事情にて候う

遅くなりました。

 前田利久率いる援軍のお蔭で先鋒隊を蹴散らす事が出来た。


 本当によく来てくれた!


 利久の率いて来た援軍三百あまりは混成軍だった。

 前田家精鋭百人。

 蜂須賀党百人。

 そして何と! 熱田衆百人がやって来たのだ。


 この熱田衆百人はあの桶狭間で一緒に戦った生き残りで、あの戦いの後に木下隊に編入された者達だ。

 そして、半ば志願して俺の隊に来てくれたのだ。


 こんなに嬉しい事はない。

 そして、何てバカな連中なんだと思った。

 せっかくあの絶望的な戦いで生き残ったのに、またこの地獄に自らやって来たのだ。


「大将と一緒なら、どんな戦いでも付いて行きまさ」


「俺らが居ないと、大将寂しいでしょう?」


「俺達はあの戦いで生き残ったんだ。今回も生き残りますぜ!」


 愛すべきバカばっかりだ。



 そして、その日の夜は先勝の宴が催された。


 先鋒隊は蹴散らして追い払ったが、直ぐにも本隊と合流してやって来るだろう。

 だが、今は喜んでいい筈だ。

 戦士には休息も必要だからな。

 アイツには必要ないと思うがな?


「おら、じゃんじゃん持ってこい!」


「利久の兄貴。飲み過ぎですよ!」


「ああ、まだまだ足りねえんだよ! もっと持ってこい! 皆も飲め飲め」


 まあ、バカは放っておこう。


「それで犬千代。織田家は動けそうか?」


「それが、その……」


 顔を見れば分かる。そして、利久の暴れぶりを見れば。


「お、ここに居たか。ほれ、わしの秘蔵の酒だ。供に飲もうぞ!」


「お、良いねえ。おら、大将の酒だ! 皆で飲み干すぞ!」


「「「おおお!」」」


 鍾馗様もやって来ての宴になった。

 いつの間にか稲葉家の兵も混じっている。

 ここは利久に任せよう。

 精々潰れるなよ? いや、潰されるなよ。


 俺は犬千代から詳しい話を聞いて、その内容はさすがの俺も呆れ返るほどだった。


 結論、織田家は来ない!

 その原因は…… 俺に対する嫉妬だ。


 長姫は市姫様の説得に成功したのだが、兵を出すのに待ったが掛かった。

 織田家の今年の大前提は秋の収穫を待っての出兵だった。

 彼らの言い分は『刈り入れが終えた後でもいいではないか?』と。

 それに『更なる内乱で弱った後なら叩き易い』と言っているのだ。


 それでは遅いのだ!勝機を逸してしまう。


 それに俺の説得の失敗?によって収穫前に道三が動く事になってしまったのだから責任は俺にあると言っている。


 最も端から良通はここ曽根城で反乱を起こしただろうし、道三も当然動いただろう。

 俺は運悪くその場面に居合わせてしまっただけだ。

 それをさも俺の失態のように言われても困る。


 そして、この反乱が成功するとそれは俺の功績になる。

 そうなると俺の織田家での立場は更に上がって周りから重要視されることになる。

 城の一つや二つ褒美で貰えるかもしれない?


 そうなれば晴れて小六達と祝言を上げる事が出来る。


 まあ、それはいい。

 そうなる事を目的に俺は頑張ったのだ。

 しかし、周りからはそうは見えない。

 出自賤しい俺が出世するのが気に入らない者達が俺の足を引っ張るつもりが、織田家の足を引っ張っている事に気付いていないのだ。


 織田家が動くのは収穫を終えた後だ。


 その報せを知った利久は独自に行動した。

 実家に帰って兵を纏めると俺の援軍に向かう蜂須賀党を捕まえて一緒にここに来たのだ。

 そして、犬千代は利久の暴走に気付いて来たわけではない。

 犬千代は市姫様が来れないことを伝えるために少数の護衛と供に俺に会いに来たのだ。

 その途中で利久と合流してあの場に居た。


「兄は相当怒っておいででした。勝三郎様とも喧嘩して出てきたようです」


「大丈夫なのか、あいつ? それに前田家は?」


「心配入りません。兄は前田家から出奔した事になってますから。付いてきた者達は兄に騙された事になってます。前田家は兄の被害者ですので」


 犬千代は平然と答えているが、下手をしたら取り潰されても文句が言えないぞ。


「私も兄も、藤吉様を見捨てたりしません。絶対に!」


 本当にこの兄妹は……


「勝てますよね。藤吉様?」


 正直に言えば…… 勝てない。


 勝つ勝たないでは無いのだ。

 良通は端から死ぬ気で、勝利等二の次なのだ。

 今は陽気に振る舞っているが道三、いや、安藤守就が出てきたらどうなるか?


 とりあえず、良通が突っ込んだりしないように見張っておかないとな?

 それに時間を作って説得しよう。

 利久とは気が合いそうなのであいつも同席させよう、そうすれば何とかなるか?


 しかし、織田家は来ない。


 これでどうやって説得すれば良いのやら?

『織田家は刈り入れが忙しいので、それが終わったら援軍に来ます』なんて言ったら本当の鍾馗様に成ってしまうだろう。


 そうだ! 長姫はどうしているんだ?

 彼女は一体何をしているんだ。


「え、長姫ですか? さあ、私は知りません」


 しらを切る犬千代。目が泳いでいるぞ。

 俺に言えない何かをしているのか。

 大丈夫なのか?


 しかし、彼女に頼る事はこれ以上出来ない。

 彼女は俺の部下ではないのだ。

 あくまでも客人であり監視対象なのだ。

 最近はその事すら忘れてしまいそうだ。


 はあ、好転の材料が無いのは辛い。


 俺は早めに寝ることにした。

 利久はまだ騒いでいたのでそのままだ。

 決して面倒だなと思っていない。

 楽しんでいるのだ。

 邪魔しては悪い。

 そう、邪魔しちゃ悪い。


 そして、寝所には小六と犬千代が待っていた。

 今日は疲れたので追い返す気力もない。

 無視して寝ることにした。


 お休み……



 起きると二人の姿は見えなかった。

 隣の部屋を覗くと二人が仲良く並んで寝ていた。

 仲良き事は善きかな。


 そして、その日。

 斎藤龍重が率いる本隊がやって来た。


 その数八千。


 こっちは俺達も含めて千ちょっと。

 氏家直元の援軍が来ても三千あまり。


 刈り入れまでの長い籠城戦が始まろうとしていた。


 その前に終わってしまうかもしれないけどな?



お読み頂きありがとうございます。


誤字、脱字、感想等有りましたらよろしくお願いいたします。


応援よろしくお願いします。

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