第一話 戦国時代に飛ばされて候う
戦国時代。
それは憧れてやまない世界。
実際にその時代を生きれたらと思うが、私は直ぐにでも殺されるか、死んでしまうだろう。
歴史好きの人間なら一度は体験したいと思うこの時代。
それは、………目の前にあった。
私は単なる歴史好きの平凡な人間だ。
年は三〇を越えた。
いまだに独身。
会社を辞めて(首になり)、今は古戦場跡を回っている。
現実逃避とも言う。
いや、自由な時間を貰ったのだ!
だから以前から気になっていたことをやってみることにした。
それが古戦場巡りだ。
戦国時代の主要な戦場跡地をあちこち散策。
主に近畿から中部地方を周っている。
そして今、かの有名な桶狭間合戦跡地に来ている。
ああ、この場所で四百年も昔、織田信長と今川義元が戦ったのか。
その当時の面影はわからないがこの近辺をぶらりと散策する。
土の香りはせず、アスファルトの大地があり、あちこちに民家がある。
風情があるのかないのか?
そして私は桶狭間古戦場公園を巡る。
首洗い塚を見て周り、最後に義元公の墓碑を見て帰ろうとしたその時、突然辺りが薄暗くなり雨が降ってきた。
雨脚は少しずつ強さを増していき、やがては雷雨を伴う大雨になった。
急いで雨宿りができる場所を探したが雨が強すぎて、一メートル先も見えなくなっていた。
雨を避ける為がむしゃらに走っていると、いつの間にか雨は上がっていて辺りには霧が出ていた。
霧が出てからは走るのを止めて再度辺りを見回す。
何も見えない。
そして、静かだ。
ふと地面を見ると土の上を歩いていたことに気づく。
あ~、靴に土がついてその上中に水が入ってびちゃびちゃだ。
どうしようと思っていると不意に音が聞こえてくる。
ガチャガチャと何かが擦れる音。
ひゅんひゅんと、上、空から音が聞こえる。
そして、悲鳴が聞こえる。
な、何事。
そう思ったのもつかの間。
「「「「うおー!」」」」と木霊する声。
思わず耳を押さえ踞る。
辺りを見回すがやはり霧が濃い為何も見えない。
何も見えないが怒声と悲鳴、バタバタと何かが倒れる音。
馬の嘶き、金属がぶつかる音。
そうまるで時代劇などで聞く戦場のような音が耳を押さえる私に聞こえてくる。
いつまでそうしていただろうか?
いつの間にか音は消え少しずつ霧が晴れて行く。
霧が晴れたその場所に傷ついた人が沢山いた。
痛みを訴えている人。
助けを求める人。
誰かを探す人。
その人々の姿が、まるで、いや、まさか?
……そんなはずない。
甲冑を着けた人が、足軽のような格好をしている人が、沢山いた。
私は今どこにいる。
ここは何処だ?
私がワナワナと体を震わせていると後ろで悲鳴が聞こえた。
「きゃー!」
その悲鳴を聞いた私は何故かその場所に向かった。
なぜ、そうしたのだろう。
わからないが何故かそうすべきだと思ったのだ。
その向かった場所で足軽らしき数人に取り囲まれる人を見つける。
助けなくては!
なぜ、私は見も知らない人を助けるのか?
瞬間的に助けるとそう判断していた。
足軽らしい人、めんどくさい、足軽と呼ぼう。
その足軽達を見る。
背の高さは一メートル五十から五十五くらい。
長い槍のような物を持っている。
三メートルくらいだろうか?
足軽三人に囲まれている人は兜を着けていない。
着ている鎧甲冑は大鎧ではなく当世具足と呼ばれる物だと思う。
背丈は足軽達と同じぐらいか?
顔がよく見えないが髪が長いな。
囲まれている者は刀を相手に向けている。
しかしリーチの差はいかんともし難い。
そして私は素手でラフな格好だ。
半袖シャツにスラックスタイプのズボン。
肩下げカバンを持っている。
中には水筒とコンビニ弁当、二リットルペットボトルに筆記用具一式、日本地図にノートを何冊か。
後は下着を数着にスマホの充電器くらいか。
他には、お菓子を少しと後は覚えていない。
武器になるような物はないな。
ええい、ここは一発。男は度胸だ!
私は大声を上げて足軽達に向かっていく。
「うおー!どけどけー!」
私は日本人の平均的な身長の一メートル七〇を越えている。
相手から見たら大男に見えるだろう。
ビビってくれ!
内心そう思いながら突進する。
すると足軽達は互いの顔を見合わせて一目散に逃げ出した。
「は~、助かった」
思わず声が出た。
足が震えていた。
正直、怖かった。
「お前は何者だ!」
おっと忘れていた。
助けた鎧を着ている人、面倒だ。
武士と呼ぼう。
武士が刀をこちらに向けて警戒していた。
まぁ、最もな反応だな。
「助けてやったのにずいぶんな反応だな?親に習わなかったのか。助けてもらったら、まずはお礼を言うようにと」
すると刀はそのままに武士は返事を返してきた。
「た、助けて、くれと、頼んでない」
ずいぶんひねた反応だ。
それに声が若干震えている。
「そうか、そうだな。たしかに頼まれてないな。それじゃ」
我ながら素っ気ない態度を取ったと思う。
聞きたいことも在ったがわざと私はその場を去ろうとしていた。
引き留めてくれよ。
「待て。助けてくれと頼んでないが、助けて貰った礼をしていない。ついて来い。礼をする」
素直じゃないな?
「じゃ~、礼を貰おうかな。ところでここは何処なんだ?」
礼を貰うついでにここの場所を聞いてみる。
まさか、と思うが一応は。
「何を言っている?その格好からして怪しい奴め。だが一応答えてやる。赤塚だ」
「あ~、やっぱり。って赤塚!?」
なんとなくそうじゃないかと思った。
けど、赤塚?
「そうだ赤塚だ。知っていて聞いたのか?おかしな奴め」
これはあれか? そうなのか?
「ところでその方。名は何という?」
「人に尋ねる時は、自分から名乗るものだ」
テンプレなセリフだな。
だが、一度言って見たかった。
それにしても、さっきから気になっていたがもしかしてこの武士。
「ふむ。確かにそうだな。では名乗ろう。私は『織田 三河守 信秀』が娘。『織田 市』だ」
「は?」
私は目の前の人物が織田の家臣だと思っていたのだが、それが織田市?
あの薄幸の美女、織田市!?
……ウソだろ
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