第六話 クラスメート
バカ親父が残した書置きとホームセンターで黒田さんと会話したした内容。
俺は、親父のしたい事が何なのか当たりを付けていた。
ヒーローと一番接点のある者。それは、ヒーローと幾度と無くぶつかる悪の組織に他ならないだろう。
まったく、大好きなヒーローをまじかで感じるために悪の組織を立ち上げた目の前の大人二人の行動力には
呆れてものも言えないが、少しだけ、本当に少しだけ。
夢のためにバカをやれる親父達を羨ましいなと、心のどこかで思ってしまった。うん、本当に少しだけ。
先ほどまで、異様に盛り上がっていた二人組は、こちらに視線を戻すと名乗り返してきた。
「夢を叶えにとはよく言ってくれた正義の味方。我は、『ドリーマードリーマー』のDr.KK」
「同じく、『ドリーマードリーマー』のDr.MM」
「「さぁ、夢を叶えてくれたまえ。正義の味方」」
親父こと、KKがその手に持っていた爆弾を空中に放り投げる。
未だカウント刻むそれは、俺たちのちょうど中間に位置する空中に停止すると
学校のグラウンドをすっぽりと覆う光のカーテンを生成し始める。
「これで、外と内を完全に切り離した。存分に戦ってくれたまえ!」
KKが両手を広げて高らかに声を上げると、後ろに控えるMMが腕を横に振る。
その瞬間、空間にいくつものノイズが生まれると、そこから次々に真っ白なマネキンが現れる。
胸にDDと赤いマークの入ったそれが、親父達と俺たちの間に十数体は現れた。
「かかれ!」短くKKが叫ぶと、マネキンモドキ共が一斉に此方に走ってくる。
俺は、隣に立っているマギレーヴと名乗った彼女に『無理はしないように』と告げると
彼女からの返信も待たずにこちらに突っ込んで来るマネキンモドキ共の方へと駆け出した。
自慢じゃないが、俺はこれまでの人生で殴り合いのケンカをした事が一切無い。
格闘技の経験もまったくない。つまり、肉弾戦と言うか、戦う行為自体を行うのはこれが初めてである。
しかし、心配はいらない。親父が設計した変身システムには、誰でもヒーローの様に戦う事ができるよう。
しっかりとその補助を行うためのプログラムが積んである。
先頭を走ってきたマネキンと俺の間合いがぶつかる。
ブンっと空気を切り裂いて放たれる大振りの拳を、俺は余裕を持って左腕で受け止める。
すぐさま手首を返してマネキンの腕を掴みこちら側に引っ張り込む。
理想の位置にマネキンの頭部が来た瞬間には右手をすでに振りぬいていた。
ゴっ、と硬いもの同士がぶつかる接触音を響かせて目の前のマネキンが今来た方向に
きりもみしながら吹っ飛んで行く。運悪く、吹き飛んだマネキンの線上にいたもう1体も巻き込んで
地面に叩き付けられたマネキンは、ノイズを残して消えていった。
なるほど、ダメージ量が規定値を超えたら消滅するのか。
バイザーには、先ほどのマネキンの一振りの威力値とこちらが与えたであろう威力の予測値が表示される。
マネキンの威力値を見て軽く目眩がする。これ、普通の状態で受け止めたら死ぬんじゃないかな。
俺は、軽くため息を吐くと、こちらが与え衝撃の予測値を確認する。
やはり、ファイルにあった理論値より幾分パワーが出ていない。
まぁ、それでもしっかりと倒せているので問題ないかと、俺は次々襲い掛かってくる
マネキン共の相手に意識を集中させていく。
マネキンから放たれる打撃を、受け止め、時にはかわし。そして、攻撃してきた者に例外なく
拳を蹴りを浴びせて行く。目の前のマネキンの胴体に蹴りをいれて吹き飛ばした直後。
バイザーに反応。片足立ちになっている俺の後方からマネキンが1体飛び掛ってくる。
この変身スーツに死角はない。前後左右を各部位に埋め込まれているセンサーが常に監視し
まわりの情報をすべてバイザー越しに俺の視覚に提供する。
俺は、地についている左足の膝を軽く伸縮させるとその場で数メートル跳躍。
空中で身体を捻り眼下にマネキンを捕らえる。
俺に飛び掛った体制のまま顔の部分をこちらに向けているそいつに。
自然落下を開始した俺は、膝をマネキンの背中目掛けて突き立てる。
くの字に折れ曲がったマネキンは、ノイズを走らせて消滅した。
結構な数のマネキンモドキを倒して、残りの数を把握するために首をめぐらす。
その時、突如悲鳴があがる。俺の視線には、3体のマネキン共に一斉に飛び掛られてる。
レーヴの姿が映っていた。「しまった。」と俺は瞬時に走り出す。
自分の戦闘に意識を裂きすぎて、一瞬でも彼女の事を思考の外に追いやってしまった。
気が付いた時には、彼女との距離は10メートルほど離れている。
超性能の変身スーツでも割ってはいるのが不可能な距離に悪態をつく。
どうして、彼女の事を意識の外に追いやった。彼女もイレギュラーヒーローだ。
父親を止めるために来た一般人に他ならない。戦闘とは無縁の世界に生きていた彼女に
初めての戦闘で俺と同じように戦う事が出来るわけがなかった。
俺には、親父が設計した戦闘プログラムがあり。簡単に戦闘行為を行えるが、彼女に同じような何かが
あるわけではないのだ。俺は、間に合えと心の中で叫びながら一歩一歩彼女に近づく。
そして、マネキンがその絶望的な威力を誇る一撃を彼女に振り下ろそうとした瞬間。
彼女、大絶叫がこだまする。
「来ないでって、言ってるじゃないですかぁーーーーーー!!」
その叫びに反応したのか、彼女の持っているマイク型のステッキが膨大なエネルギーを放つ。
瞬間、すさまじい衝撃波が彼女を中心に爆発する。
彼女に襲い掛かった3体のマネキン共は軽々と吹き飛ばされノイズを走らせ消滅し
それでも収まらない力の濁流は、意思を持つかの様に俺を避けて突き進み未だ健在の残りのマネキン共へと
その矛先を向けると、次々にマネキン共を消滅させていく。
そしてあっという間に残っていた数体のマネキンを食い散らかすと、力の本流は四散した。
残ったのは、肩で大きく息をする涙目なレーヴと冷や汗をかいている俺。
バイザーに表示されてる文字の羅列。そこに表示されるのは、彼女の今行った攻撃の威力。
プログラムは測定不能を表していた。彼女は、どうやらとんでもない存在らしい。
俺は、彼女にゆっくり近寄ると恐る恐る声を掛ける。
「だっ、大丈夫?」
「は、はいぃ。すいません。すいません。邪魔しないって言ったのに。」
「いや、大丈夫。大丈夫だから、顔をあげてくれ。」
ペコペコと頭を下げる彼女に慌てて取り繕う。
そもそも、彼女を守れる位置取りをしなかった俺が悪いのだし。
邪魔どころか、一瞬で敵を片付けてしまったのだから謝る必要はないだろう。
彼女をなだめつつ、彼女がもつステッキに視線を送る。
先ほどのアレの正体は、十中八苦『音』だろう。
彼女の声をマイクが際限なく増幅して、音の衝撃波となり敵を蹂躙したのだ。
また、俺を避けていったことを考え見るに、あの音激は指向性を持つことがわかる。
彼女の中で無意識にでも敵と判断された者に、その膨大な力をぶつけるのだろう。
親父達の元に力が及ばなかったのは、あそこに彼女の父親がいたからだ。
彼女は、父親を止めに来たのであって倒しに来たのではないのだから。
パチパチという音に、俺は視線を向ける。
そこでは、KKとMMがこちらに拍手を送っていた。
「素晴らしい力だ正義の味方。初顔合わせはこれくらいで良いだろう。」
そういうと、KKがこちら側に何かを投げてよこす。
俺は、それを掴む。投げてよこしたそれは、爆弾の起動装置だった。俺は、すぐさま握り潰す。
すると、空中に留まっていた爆弾のカウントが止まると同時に光のカーテンが消え。
爆弾自体も、カーテンが完全に消えると消滅した。
「では、また会おう」
そう言うと、KKとMMの居た空間が揺らいで、次の瞬間には2人の姿は、忽然と消えていた。
俺は、ふぅと息を吐く。特撮もので言えば第一話終了だなと、心の中で呟く。
さて、俺たちも撤収しなければと彼女に別れを告げるため向き直る。
直後、眩い閃光が俺の視界を覆う。
光が収まり、俺の目に飛び込んできた光景に、俺は絶句した。
「あっ、あれ。戻っちゃいました。」
そう言って困った表情をする彼女の事を俺は知っていたのだ。
長い黒髪をなびかせて、赤いフレームのメガネを付けた少々幼さが残る顔。
童顔であるのを気にしていると本人から聞いたことがある。
読書家の彼女は、何故か活発な熊寺とよく一緒にいる事を見かけることが多かった。
つまり、つまりだ。彼女は・・・
「あ、あの。始めまして、益田 美音と言います。」
俺のクラスメートの一人だった。




