エピローグ 夏はまだ終わらない
「ふふっ、また動いたわ。とても元気な子ね」
「おっ、そうかい。お医者さんも体内のお子さんはとても健康に育っているって言ってたよ」
「きっとワンパク坊主になるわよ。この子。」
「あははっ、違いない。」
「ところで恭さん。名前は決めたの?」
「あぁ、それなんだが。信也と言うのはどうだろう。」
「己を信じ、相手を信じるものね。いい名前だと思う。」
「じゃあ、決まりだな。私と君の息子の名前は信也だ。」
聞いたはずのない会話。
俺はその場に居ないはずなのに声だけ聞こえる。
いや、居たのか。俺はその場に居た。
まだ、産まれてきてないだけで、その会話を聞いていた。
母親のお腹の中で・・・
◆
意識が覚醒する。見慣れた天井、みなれた景色。
いつも寝起きしている自分の部屋だ。
窓から外を見れば新聞配達の仕事をしている人が見える。
何時間眠ったのだろう。徹夜明けの体調で無理をしたから、相当意識を失っていた事だろう。
俺は、ベットから降りると部屋から抜け出し居間へと向かう。
そこにはソファーに腰掛けてコーヒーを飲む親父の姿。
その姿を見て安堵する。最後に見た光景は幻ではなかったのだと。
「おっ、起きたか。コーヒーを入れるから待ってなさい。」
そう言って立ち上がる親父に、俺は頷くと入れ替わるようにソファへと腰を下ろす。
数分もしない内に手に新しいカップを持った親父が戻ってくる。
俺はそれを受け取ると口に運ぶ。
「はぁ、やっぱ親父の作るコーヒーはうまいわ。」
「ふははっ、そうだろう。」
俺の言葉にうれしそうに笑うと、自身もコーヒーに口を付ける。
俺達は、しばらく二人でコーヒーに舌鼓を打つのだった。
しばらくして、俺は口を開く。親父に色々聞きたいことがあったからだ。
「なぁ、親父の今回の騒動の目的って結局なんだったんだよ?」
「うん? あぁ、色々あったぞ。正義の味方を身近で感じたいと言うのもその一つだ。」
俺は、親父に怪訝な顔を向ける。『色々』が気になるのだこちらは。
俺は問い詰めよう色々行くが、はぐらかされて全部が全部教えて貰えなかった。
俺はため息を一つして、親父に質問する。
「なぁ、親父。最後、動力炉が止まるときに声が聞こえたんだけど、親父は聞いてないか?」
「うむ、声か・・・、すまんな私には聞こんかったな。」
じゃあ、あの言葉は俺にしか。とそこまで考えてふと脳裏に浮かんだ事を聞く。
「お袋ってさ、親父の事『恭さん』って呼んでた?」
親父は少し驚いた顔をして、やさしい笑みを作ると頷いた。
「久々にそう呼ばれたな。あぁ、彼女は私のことをそう呼んでおったよ」
そうか、どうやら聞き違いじゃ無かったようだ。
俺は心の中でこの場にはいないその人へと感謝を告げる。
『お袋、助けてくれてありがとう』と。
◆
現在、駅前の喫茶店にて人を待つ間にポチポチと携帯を弄る俺。
先ほどから同じ事を繰り返している。
しかし、やはりと言うか何んというか。
大方の予想通り変身システムが起動できなくなっていた。
何となく判っていた。悪の組織を倒したヒーローは、どこへとなく消えるのだ。
なら、結末はこんなものだろう。
俺が携帯を弄くっていると店内に入店の音楽が流れる。
顔を上げると、帽子を被った青いワンピースの彼女と目が合う。
帽子の下から見えたその表情に俺の顔は若干引きつる。
明らかに彼女の顔は怒っていたからだ。
「昨日、連絡くれませんでした!」
席に座っていの一番に彼女からの口撃。
いや、確かに終わったら連絡するとは約束した。
約束はしたが、事が済んですぐに意識を失った俺にはどうにも出来ない事ではないだろうか。
ましてや、昨日の昼から今日の早朝まで意識を失っていたのだ。
連絡など取れるわけもない。
「すっごい心配したんですよ!」
その言葉に、何だかデジャブを覚える。
いつだったか、連絡が取れなくて心配したと捲くし立てられた記憶を思い起こす。
類は友を呼ぶ。友人と同じように連絡が取れずに心配したと言う彼女についつい笑う。
「反省の色が見えませんね。」
彼女の冷たい言葉にはっとする。
一様、怒られている身で笑顔を浮かべるのはまずかったと口を開く。
「すまん。本当に悪かった。笑いが出たのはさ、ちょっと思い出したことがあってさ。」
素直に謝るも、へそを曲げたのかこちらを見ようともしてくれない。
やっちまった。こうなると只管めんどくさい。
謝罪の言葉をいろいろ試してみるが、ちらりと見るだけで向き直ってくれそうにない。
まいったな、どうするか。と考えているとふと名案が浮かぶ。
しかし、それは諸刃の剣。行動に移せば間違いなく自身も傷を負う事になる。
だが、このままではジリ貧になるのは明白。
ならだ、いばらの道へ自ら飛び込む事も致し方なし。
俺は覚悟を決めてその言葉を吐き出したのだった。
「美音、心配かけて本当に悪かった。」
俺の言葉にびくりと肩を揺らした彼女は、恐る恐るといった感じでこちらに向きなおる。
ヤヴァイ、絶対今俺の顔赤くなってると思いながらも、
漸く此方を向いてくれた彼女から視線を外さないように前を見続ける。
俺の前にいる彼女もほんのりと顔が上気しているのがわかる。
その彼女は、もごもごと何かを言おうとしては、下を向いたり此方を見たり繰り返す。
どうしよう、これはこれで面白いなこいつ。
考えてることがばれたら、またへそを曲げられそうな事を思いながら、彼女が口を開くのを待つ。
結局、数分同じ事を繰り返して、ようやく腹が決まったのかこちらと視線を合わせる。
そして意を決したのかその口を開いたのだった。
「こ、今回は大目に見ますので、次回からは気をつけてくださいね。し、信也君・・・」
何でとってつけたように名前を入れたのか、無理して呼ばなくて良かったろうにと
真っ赤になった彼女を見つめながら、俺もたぶんすごい真っ赤になってる確信がある。
俺の己の身を乖離みたい特攻により、お互いが思いの他ダメージを負った俺達は、
とりあえず落ち着くために暫らくの無言タイムに突入したのだった。
◆
無言タイムも終わり。俺は彼女に最終決戦と言う名の親子喧嘩について語る。
それを彼女は終始まじめな顔で聞いてくれた。
そういえばと俺は彼女に質問する。
「なぁ、益田。レーベの変身アイテムどうなった?」
俺の問いかけに一瞬寂しそうにしながらも、益田が答えてくれる。
いや、名前で呼び続けるのは、さすがにまだきついです。
「それが、あの日家に帰ったら無くなってたんですよね。どこかに落しちゃったみたいで」
俺は「そうか」とだけ答えると、コーヒーを口に運ぶ。
それもかねがね予想通り。まぁ、実際は無くしたと言うより。役目を終えて消滅したんだろう。
たとへ、偽者なもので合ったとしても、正義のヒロインとしてその役目を全うしたのだ。
そういう結果も想像は出来ていた。
「なぁ、今回の茶番劇。益田としては楽しめたか?」
「えぇ、楽しかったですよ。」
そう言ってクスクス笑う。
そうか彼女も楽しめていたのなら問題ない。
実際俺も楽しめた。夏休みの半分を使う事になったが、色々得るものがあった。
とりわけ、彼女とのこの関係は、今回のこの茶番劇がなければありえなかったろうし。
そこは親父に感謝しないでもない。
「そういえば京極君。夏休みの残りの予定はどうなっていますか?」
「特に無いな、とりあえず夏休みの宿題を片付けないといけないくらいだ。」
「そうですか、実は私も夏休み後半の予定がほぼ白紙なんですよ。」
そう言ってこちらをじっと見つめる彼女。
なるほど、ヒントはやるから此方から動けと言う事か。
まぁ、そうだな。お互い言葉にしてないまでも、ある程度の想いは伝わっている。
後はいつ、どういったタイミングで言葉にするかだ。
期限としては、夏休みが終わるまでだろうか。
とりあえず、今俺が言うべき事を言っておこうと俺は口を開いた。
「そうだな。明後日、隣町の河川敷で花火大会があるんだが、よかったら一緒に行かないか?」
「はい、喜んで。エスコートしっかりお願い致します。」
俺達の夏は、まだ終わらない。
とりあえず処女作完走いたしました。
ここまでお読みいただいて、本当にありがとうございます。
また、近いうちに次の作品も投稿しようと思いますので
見かけましたら、一読いただければと思います。
重ね重ね、本当にありがとうございました。




