第二十六話 世界の選択
俺は、親父の機械装甲から覗く赤い宝石を持ち上げてバイザーを下ろすと。
両手で宝石を包見込み。今回の戦闘で一回も使用しなかった武装を起動させる。
「マギインパント出力最大!!」
トラオム最強の武装を展開。バイザーには手の中にある宝石の現在の状態が表示される。
臨界点突破まで時間は残り僅か、でも関係ない。
絶対に止めてみせる。俺は、深夜に叩き起こす事になってしまった一人の天才科学者の言葉を思い出していた。
◆
「俺一人じゃ、助けられない。俺に力を貸してください誠さん!」
俺の必死の叫びに電話口の相手が息を呑むのがわかった。
「落ち着け信也くん。何が合ったか説明をしてくれ。」
俺は誠さんに夢の内容と、手元にあるファイルについて説明する。
俺が話し終わるまで終始無言だった誠さんだが、俺が言葉が終わると一気に色々聞いてくる。
書かれている原始融合の発動条件。それを起こすのに何を使用することになっているか。
そこに書かれていることで答えれることはすべて答えていく。
やがて、誠さんは5分くれと言って通話が切れる。
5分間がこれほど長く感じれたのは産まれて初めてだったかもしれない。
そして、きっちり300秒後に誠さんから再度着信。
俺は待ってましたと言わんばかりに通話ボタンを押す。
そして聞かされる驚愕の数々。
それは起動させれば世界を破壊可能な超兵器の説明から始まり。
最終的に現段階の技術力では、起動させることが出来ないという事実。
しかし、誠さんは独自の持論を持ってして更に続ける。
『いいかい京極君。それはあくまで兵器としてみた場合だ』と
世界を破壊するほどの破壊力を生みださいまでも、この理論で持って異なる物を作ることは可能だと。
そう、例えば俺の作った変身システムなどがそれに該当する。
俺の変身システムが本当はガラクタになる筈なのは、システムの都合上。
それを起動させるプロセスにおいて、絶対的にエネルギー不足になるのだと言う。
現段階の技術力でそれを動かそうとすれば発電所を一つ丸々背負って戦うくらいのエネルギーを食うらしい。
なるほどふざけた話だ。本当に何で動いてるかわからないシステムだ。
しかしながら、親父のファイルにある『超磁気断熱圧縮による原子融合』の理論を持ち出すなら。
それこそ小型のエネルギーパックを作れるはずだと誠さんは考えたのだ。
直径30cmもあればそれこそこの世界を破壊できるほどの力を持つエネルギー。
なるほど、発電所1つや2つじゃ収まらないとんでもないエネルギーを生み出すだろう。
そこで誠さんは、親父の変身システムについても語る。
トラオムと同じ原理であのシステムを親父が作ったとして、エネルギーをどこから確保しているのかだ。
あの日、誠さんは帰宅してから親父の発明品や論文を読み漁ったがどう考えても
エネルギーの確保方法がわからなかったと。その答えがここにある。
そして誠さんは最後に付け加える。
「もし、京極博士がその原理でエネルギーパックを作成し、あの変身システムに組み込んだと仮定しよう。」
「何かの間違いでそれが暴走又は何かの衝撃で起爆した場合。」
「この街くらいなら吹き飛ばすエネルギーを生み出す」
俺はその言葉に頭を抱える。何を考えてんだあの天子親父は
そんな危険なものを機械装甲の動力源に使うなよ。
俺は、誠さんに質問する。
「誠さん。もし暴走したとして止める方法はありますか?」
俺は固唾を呑んで誠さんの返答を待つ。
そして返ってきた言葉は予想してなかったセリフだった。
「京極くん、僕はね今ほどヒーローと言うものが選ばれた存在なんだと実感している。」
「えっ?」
「トラオムの持つ武装が、原子融解の化学反応を止める切り札になる。」
◆
まさかとは思ったが、ここまでうまい話が合っていいのだろうか。
俺は赤い宝石が内部で化学反応を起こそうとするのを、超音波による分子振動により食い止める。
原子融解を食い止めるためには、特定の周期振動を起こさせる必要があった。
俺は、それを誠さんに聞きながら、一からマギインパクトの超音波の振動パターンを組みなおしたのだ。
そのため、武装としてのマギインパクトは完全に死んでしまったが。
そんなこと関係ない。生まれ変わった武装は、現に親父を救うためにその力を遺憾なく発揮する。
「信也、お前この事を予想していたのか!?」
親父の言葉に頷くことで答える。世界の意思だか何だか知らないが俺の家族をこれ以上奪わないでくれ。
俺から親父を奪うって言うなら、それこそ悪だ。
俺が世界に選ばれた悪を倒す正義の味方だと言うのなら。
やってやろうじゃないか、絶対に親父を奪われたりしない。
俺はバイザーに表示されるいくつもの数列に集中する。
音波の周波数を任意で少しずつ変えていかないと、あっという間に臨界点を突破してドカンだ。
不規則に内部状態が変化するしていく化学反応を、完全にオートで制御する事は不可能。
だから俺は、リアルタイムで変化していくその情報を読み取り。
最適な周波数と振動パターンを選び出して放射する。
動力炉は暴走しているだけで、稼動はしている。
このまま、臨界点を突破させずに押さえ込めれば内部にある物質が枯渇して文字通りエネルギー切れを起こす。
俺はその時まで、ひたすらに音波を当て続ければいい。
それが何分、何時間掛かろうと、俺は絶対に諦めない。
俺は表示される文字列を追う中で内心舌打ちをする。
諦めるつもりは無いが、ゴールの見えないマラソンをさせられるのは正直しんどい。
動力炉の内部状態は、逐一確認は出来るがそこからエネルギー残量を把握するのは俺には無理だ。
と、無言だった親父が口を開く。
「信也、動力炉の内部質量と変動パターン、判るなら放熱量を教えてくれ。」
親父の言葉に一瞬視線を向けた俺は、親父が望んだデータを読み上げる。
少しだけ目を瞑った親父は、こちらに笑いかけると言葉をつむぐ。
「お前の勝ちだ。後5分もせんうちにエネルギーが切れる。」
親父の言葉を受けて更に集中する。5分耐えれば俺の勝ち。
なら、残りの5分を全力で戦ってやる。
俺は宝石を包み込む手に力を込める。
焦るな集中しろ、枯渇前が一番化学反応が大きくなる。
動力炉が止まるまで気を抜くな。
そして親父の言葉から幾許か時間が経った時、それは起こった。
バイザーに警告表示。俺はそれに愕然とする。
マギインパクトの発生装置に異常発生。
装置内部に亀裂を確認。このまま使用を続けると、装置自体が圧壊する危険あり。
「くそっ!」思わず声が漏れる。
「どうした信也!?」
俺の言葉に親父が素早く反応する。
俺は素直に親父に答える。
「音波の発生装置に亀裂が入った。動力炉を止める前にこっちが止まるかもしれん。」
「何じゃと!? くぅ、これが世界の選択というやつか。」
「諦めてんじゃねぇよ。くそ親父、動力炉自体のエネルギー残量も少ないはずだろうが!」
俺は、バイザーに表示させているカウントをみる。
親父が残り時間を計算してから表示させたものだ。そこの表示は01:12:56。
あと、72秒。絶対に持たせてやる。
あと、60秒。動力炉の化学反応がいっそう激しさを増す。
あと、50秒。音波発生装置に更に亀裂が入る。
あと、40秒。両腕の機械装甲から煙と火花が上がる。
あと、30秒。動力炉の赤々しい光が明滅を開始する。
あと、20秒。両腕の機械装甲が光の粒子に変わり始める。
まずい、こっちの装置の損傷が広がるスピードの方が若干早い。
どうする。何か手は無いか、何でもいい。誰でもいい。あと少しなんだ。
何か、何か、何か、何か! 必死に思考を展開する俺に初めてなのに、どこか懐かしい声が届く。
『大丈夫よ、止めることに集中して。装置は持たせるわ。』
あと、10秒。両腕から立ち上った消えるはずの光の粒子が、俺の両手を包み込む。
あと、5秒。 手を包み込んだ光がより輝きを増す。
0秒。ついに赤い光を放っていた動力炉がその色を黒色へと変化させて機能を停止する。
それを合図にするように、トラオムの機械装甲が一斉に光の粒子に変化する。
その光はすぐに消えることなく、俺を抱きしめるように包み込む。
『お疲れ様。良く頑張ったわ』
残り僅かな時間を持たせると語ってくれた声が、ねぎらいの言葉をくれる。
やはり記憶に該当する声がなく。初めて聞く声だと思った次の瞬間。
俺の意識は闇へと落ちていった。




