第二十四話 親子喧嘩開始
時刻は正午少し前。場所は俺と親父が始めて対峙した第四小学校。
俺は携帯の時刻表示を確認しながら、グランドの中央で親父が来るのを待っていた。
俺はゆっくりを深呼吸をしながらその時を待つ。
すると、俺の居る前方の空間が歪み、そこから仮面を付けた白衣の男が現れる。
何だよ、正体がばれてもそれで通すのかよ。
俺は、それが可笑しくてついつい笑ってしまう。
「おい、悪の親玉の登場に笑うとは何事だ。」
「知るかくそ親父。正体ばれてんのにカッコ付けんなよ。」
俺はそう言って携帯のロックを外し、いつでも変身出来る準備をする。
「うん? おい信也。お前寝てないのか? すごい隈が出来取るぞ。」
俺は軽く舌打ちをする。その通りだ、変な夢を見たいぜ友達の親父さんを叩き起こす事になり。
さらには、その疑念を払拭する為に、再度トラオムの調整をするはめになった。
調整が終わって時刻を確認し、寝たら終わると思った俺は、そこから一睡もせずにこの場所に立っている。
まぁ、それをわざわざ言う必要もないけどな。
「気にすんな。親父の顔面をぶん殴れると思ったら興奮して寝れなかっただけだ。」
「お前、そんなに俺が嫌いか!?」
親父の言葉に笑みを作る。むしろ大好きだぜ親父。
俺は、顔に浮かんだ笑顔をそのままに、親父へ目で訴える。
始めようと。
それを悟ったのか親父は、小型の機械を空中に放り上げる。
そして、右腕につけたリングをこちらに見えるように掲げた。
そして二人して、その時を待つ。
時計の針が、頂点で重なると大きい鐘の音が響く。
空中に浮かんだ機械が光のカーテンを発生させる。
それを合図に二人が同時に光に包まれた。
「正義のヒーロー トラオム!」「悪のヒーロー アルプトラオム!」
「「いざ、尋常に勝負!!」」
お互いに叫ぶと同時に走り出す。そして、一気にお互いの間合いに飛び込むと同時に腰の入った
右ストレートを放ちあう。衝突。
お互いの右拳がぶつかり周囲に衝撃波を発生させる。
ギチギチと拳同士の鍔迫り合い、しかし長くは続かない。
センサーに表示される数字を見て舌打ち。パワーの数値で負けている。
俺は、表示を確認すると、すぐさま右手を後ろに引く。
拮抗しかけていたパワーバランスが崩れ。親父の上半身がおよぐ。
俺はその場で回転し、引き戻した右肘で親父の頭部を狙う。
空振り。手ごたえが無い事に、バイザー下の表情が歪む。
親父は、およいでしまった上半身を、踏み込んでいた足を更に一歩踏み込む事で
体勢を立て直し深く沈みこんだ体勢でこちらを見上げる。
反撃が来る。と頭が反応した瞬間思い切り後ろに体勢を倒す。
瞬間、俺の下あごを狙ったであろう親父の左アッパーが空を切る。
風きり音を聞きながら、直撃したら胴体と頭がさようならしそうだと割と冗談にならない事を考える。
とすぐさまセンサーに反応。くそ親父め容赦ねぇなと、愚痴を溢し身体の前で腕を交差。
そこから素早く後ろに跳躍。瞬間衝撃。
俺の身体が宙に浮く。しかし、インパクトの瞬間に腕を挟んだのと後ろに飛んだことで
威力をある程度削いでいた俺は、空中で一回転して着地する。
俺に向けて放った脚をゆっくりと下ろす。
「むちゃくちゃ本気だな、親父。」
「あぁ、だからお前も遠慮するな。」
親父からありがたいお言葉を頂くも、バイザーの下の俺の表情は曇りっぱなしだ。
さっきの攻防でも俺は別に手を抜いた訳じゃないし、ましてや親父を攻撃するのを今更躊躇わない。
しかし、さっきのたかだか数手の刺しあいで力量の差と言うものが出てしまっていた。
変身スーツの性能差が隠せないくらいでかい。
パワーと反応速度はあちらが幾分上。スピードがほぼ同速といった所だろう。
勝てるビジョンが今のところ迷子だが、俺が勝たなければすべてが丸く収まらない。
俺は、一度大きく深呼吸をする。
さぁ、切り替えろ。勝つための算段を付けろ。
あの悪夢を現実にしないそのために。
俺は地を蹴ると、親父の方へとまっぐす駆け出すのだった。
◆
走って跳躍。親父の背面を奪うように着地しての回し蹴り。
これを簡単に避けられお返しとばかりに右手の裏拳が飛んでくる。
今度はそれをしゃがみ込みやり過ごすと、親父の胴体目掛けて拳を奮う。
しかし、いつの間にか振り上げられていた左足で受け止められる。
幾度目かになる攻防。しかし、またも決定打にならない。
後ろに跳躍しながら、右側のアンカーを射出。
親父目掛けて飛んでいくワイヤー。
だが、それは易々と親父の左手の中へと納まってしまう。
「どうした、ヒーロー。もっと全力でやらんと私は倒せんぞ。」
掴まれたワイヤーを力任せに引っ張られ身体を親父の方へと引き寄せられそうになる。
俺は、堪らず右アンカーをパージ。
「うっせ。偽者なりに頑張ってんだ。つうか、戦闘中におしゃべりとは余裕じゃないかくそ親父。」
俺はスラスターを点火させて開いていた距離を一瞬でゼロにすると拳を奮う。
「何だ、まだ偽者だと思っているのか、状況が変われば真実も変わるぞ。」
この突撃にも別段驚くことなく難なく攻撃を合わせてくると、親父が事も無げに言葉を吐く。
俺は、その先をに続くであろう言葉を吐かせないために、腕を脚を奮い続ける。
しかし、そのこと如くを防ぎ、かわし。親父は淡々と喋り続きける。
「お前はもう気付いてるんじゃないのか? 私の息子はそこまで馬鹿ではないと、私は知っているぞ。」
黙れよくそ親父。先ほどから攻撃を加え続けているのは、俺の方で親父からは一切の反撃が止んでいた。
その変わりに親父は、此方の攻撃をすべて捌きながら、俺に語りかけてくる。
俺が認めたくない気付いてしまった真実を。
「お前は、間違いなく世界に選ばれたニューヒーローじゃよ。」
始まりは、親父たち二人による狂言。
偽者の悪役を演じる事で、益田を偽者ヒーロー『マギレーヴ』として召喚する事に成功する。
だが、そこに現れたのはもう一人の偽者ヒーロー『トラオム』。
すべてはそこから間違った。
用意された舞台と、用意された役者の中に異物が入り込んでしまった。
決まったシナリオが用意されていた中で、たった一人の異物が、親父たちのシナリオを破壊した。
俺が関わらなければ、きっとこの時期にでも「どっきり大成功」とか言って
益田にネタ晴らしでもしていたに違いない。
しかし、俺が巻き込まれた。いや、首を突っ込んだ事でシナリオが親父たちの手を離れた。
シナリオは世界の意思に取り込まれる。
しかし、俺はそれを認めるわけにいかなかった。
もし俺が、世界に選ばれたニューヒーローであるなら俺と対になる存在の事を認めなければならないからだ。
世界を守るために生み出されるのがヒーローなら、世界を破壊するために生み出されるのが悪の組織。
だから、俺が自分を正義の味方だと認めてしまったら。
親父が偽者じゃなくて、本物だと認めてしまうことになる。
それだけはダメだ。
どうして、親父がその役目を負わされる必要がある。親父は、茶番を仕組んだだけだ。
世界の敵でも何でもない。
だから、俺がここでさっくり倒して。もう、ふざけた事はするなと言えば終了だ。
だから、さっさと「やられたー」とか言って負けを認めてくれよ。
何でそんなに本気で戦ってんだ。何でだよくそ親父。
気が付けば距離を開けて対峙する黒い正義と白い悪。
俺は拳を強く強く握り締める。
「何でこんな事になっちまった? 俺は親父を助けたかったのに、俺が首を挟まなかったらこんな事には」
俺の言葉に首を横に振る親父。
「いや、お前は巻き込まれるべくして巻き込まれた。それが世界の選択じゃよ」
親父の言葉に声を張り上げる。
「何だよ、世界の選択って。そもそも今回は正義も悪にも本物はいなかっただろ!」
それに再度首を振る親父。
「私が世界を少なからず憎んでいたのが原因じゃよ」
親父の言葉に息を呑む。親父は語りだす。
それは天才科学者が世界の敵として選ばれたしまった。
その顛末だった。




