第二十二話 応援
時刻は夕刻。俺達5人は、現在海水浴場から駅に向かって走るシャトルバスの中にいる。
英雄から甲田との驚愕の真実を聞いた後、二人で盛り上がっている所に3人が戻って着て。
今度は5人でわいわい喋ったり、色々やった。
宿題の話になった時、勉強よりも運動が好きな熊寺が下手な口笛で誤魔化したり。
夏休み前に、誰と誰が付き合ったらしいと話題があがれば。
甲田のやつはどういう事かわからないという顔をして。
それを見た英雄が、悟ったような顔をしたり。
ご飯を食べようとなって海の家に行って俺が塩焼きそばを頼めば。
そんな物は邪道だと熊寺がケチを付け。
5人の中で一番小さいのに誰よりもよく食べる甲田に益田が羨ましいと愚痴を溢したり。
ビーチフラッグ大会があることを聞きつけた熊寺が俺と英雄を勝手にエントリーしたり。
やるからには全力でと本気でやったにも関わらず。俺と英雄は一回戦で敗退し。
女子の部で登録した熊寺が当たり前の様に優勝したりした。
俺は周りに他の客が少ないのをいい事に、後ろの5人掛けのイスで眠る二人を見る。
荷物をわきに寄せて座って眠る益田とその膝を枕に眠るのは甲田だ。
俺の前の座席では、荷物を抱えて眠る英雄。
そして何故か俺の隣に陣取り話しかけてくる熊寺。
「おっ、何々。理沙ちゃんに嫉妬してるー?」
「おい、ばか、止めろ。微塵も思ってないわ。」
こいつ本当にタフだな。この中の誰よりも動いていたのに、この中の誰よりも疲れてない。
俺でも身体にけだるい感じが残っているのに、さすがとしかいいようがない。
「つうか、その話題止めろって。俺と益田はそういうんじゃないって前に言ったろ。」
「むむっ、素直にならないと誰かに取られちゃうぞー。美音ちゃん、人気あるんだから。」
「しらねぇーよ」
俺はうんざりといった感じで言葉を返す。
実は今日、熊寺は何かと俺と益田を二人ワンセットで扱おうとしていた節がある。
高校生にあがって色恋沙汰に関心を持つようになるのはわかる。
実際、俺だって興味はある。今日だって英雄から甲田との話を聞いたときもテンション上がったし。
だが、止めろという人間にまでちょっかいを掛けるのは如何なものかと思う。
そっとしておいてほしい人だって居るのだ。
周りが勝手に弄くってそれで関係が波状したら、どうしてくれるのだ。
って、だから俺は何を考えてる。
「友達にはさ、良い人とくっ付いてもらいたいじゃい。」
「それこそ、本人次第だろ。当人が好きになったやつなら俺は何も言わんがな。」
俺は前の席でスヤスヤと眠る英雄に視線を向ける。
英雄が甲田に惚れているのを俺がとやかく言うのは間違いだろ。
もちろん応援はするがな。
「そこは勿論だよ。だから、こうやって背中おしてんじゃーん」
「はいはい」
俺はその言葉を聴かなかったことにして目を瞑る。
その言葉を鵜呑みにすると、いろいろ妄想してしまいそうだった。
俺は、熊寺に背を向けて寝たふりを開始する。もう、話しかけてくるなと言う俺なりの合図だ。
俺の行動の意味を悟ったのだろう。背中越しに熊寺がため息を吐いたのがわかる。
寝たふりをしようとした俺に睡魔が襲う。
思いのほか疲れていたようだと考えていると、熊寺が近づく気配がした。
そして、俺の意識が落ちる間際に耳元に言葉を残していく。
「応援してるからね、信也君。」
俺は、その言葉で先ほど熊寺が言った『友達』と言うのがもしかしたら、
俺を指した言葉だったのかもと思いながら。そのまま意識を落としていった。
◆
バスが駅に着くと、熊寺にたたき起こされた俺達は、現在駅前の広場にいる。
ここからの帰路は各々違うのでここで解散だ。
俺と益田は電車だ。英雄は、甲田とバスで帰るらしい。
熊寺は住んでる場所を知らないが自転車で高校に来ているので益田の家の方向と一緒だろう。
「今日は楽しかったし、また集まろうねー」
「おぅ、俺はもう参加しねぇーぞ」
「もう、京極君も楽しんでたじゃないですか」
「次回があるなら僕は出来るだけ疲れない集まりがいいです」
「イエー、楽しかったですー」
挨拶を済ませて、それぞれが動き出す。
しかし、俺はそこで変な行動を起こすやつを見つける。
「おい、熊寺。お前、電車じゃねーの?」
「んっ? やだなぁー、信也君。私は自転車だよー」
その言葉に俺は目が点になる。こいつは何を言ってるんだ。
俺は慌てて益田の方を見る。益田は益田で苦笑していた。
「蛍さん、気をつけて帰ってくださいね。」
「大丈夫よ、大したことないから」
そう言って熊寺が歩いていく方向には、確かに彼女の自転車が置いてある。
だが、待って欲しい。彼女は自転車通学をしているのを俺は知っている。
そして、この駅は俺達の通う高校の最寄り駅から5駅ほど離れている。
俺は、再度益田の方に向く。
「おい、益田。言いたく無かったら答えなくていい。 熊寺の家ってどこだ。」
「えっと。ここから高校の方の駅に向かって4駅ほどですね」
俺は心の中で体力バカめと呟くであった。
◆
俺と益田は電車の座席に座った状態でお互いに会話はない。
お互い無言のまま1駅、また1駅と過ぎていく。
俺も益田も携帯を弄る事もないし、ましてや寝る事もしない。
二人して流れる景色を眺めるだけ。しかし、空気が重い分けでもない。
どちらかといえば、そうどちらかといえば。悪くない。
あくまで、俺がそう思っているだけで、益田は沈黙を重苦しき感じてるかも知れないが
残念ながら、俺にはそれを知るすべがない。
英雄の様に、相手の顔を見れば何かわかるかもと思い。益田の横顔を盗み見る。
笑っていた。何が楽しいのか、何が面白いのか、益田は笑顔で景色を見ている。
俺は気付かれないうちに視線を窓に戻す。そこから見える景色は彼女と同じ物を見ているはず。
しかし、そこに映るのは代わり映えしない景色が映るだけ。
流石に、この景色を見て微笑んでいたわけじゃないだろうと考えていると。
ふいに肩に軽い衝撃。俺は視線をそちらに向ける。
「何だよ?」「今、京極君笑ってました。何か面白い物でも見えましたか?」
彼女の言葉に俺は驚く。笑っていた?俺が。自分でも気づかない内に笑顔になっていたと。
なるほど、『居るだけで良い』のかと心の片隅で納得する。
しかし、それを彼女に悟られるわけにはいかない。
「寝ぼけてたんじゃね? 俺、笑ってるつもり無かったけど?」
「むぅ、笑ってましたよ。あっ、もしかして思い出し笑いですか?」
「いやいや、だから笑ってないって。見間違いだろ。」
「いーえ、笑ってました。微笑んでました。何を思い出して笑ってたんですか。」
白状しなさいと言わんばかりの彼女の言葉に、片手をひらひらと振ると視線を窓側に戻す。
その態度が気に障ったのか益田から追撃が飛んでくる。
「思い出し笑いをする人は、すけべって聞いたことあります。」
「ぶっ、お前な。そういう学術式的に解明されてないこと信じるなよ。」
「ふーん。京極君が思い出し笑いでニヤニヤしてるからですよ。」
「はぁ、さっきとニュアンス変わってんじゃねぇか。」
そこからは、本当に取り止めもない事をだらだら話して過ごしていた。
そして益田が降りる駅が次の駅になった時、益田は先ほどまで喋っていた口調を幾分まじめな感じに変えた。
「京極君、ちょっとお願いがあるんですけど。」
「何だよ突然。聞けることなら聞くが。」
「明後日、全部すんだら連絡下さい。」
益田の言葉に少しばかり考える。すぐに結論をだす。
今回の親父たちが起こした騒動の被害者である益田には、終わった事の報告はするべきだろう。
「あぁ、何時くらいになるかは知らんが、連絡するよ。」
「はい。待ってます。」
そこからまた二人して無言になるが、少しして電車のスピードが落ちだす。
益田が降りる駅に着いたのだろう。彼女は荷物を纏めると席を立つ。
「それじゃあ、今日はお疲れ様でした。楽しかったです。」
「あぁ、おつかれさん」
そう言って胸の前で小さく手を振る彼女に、軽く手を上げて答えると俺は視線を窓の方に移す。
俺の降りる駅まであと3駅。ここからは一人旅だと良くわからないことを考えて苦笑する。
ちょうど、駅に電車が止まったようで、窓の前を下車した人たちが通過していく。
その中に益田がいるかもしれないと目を凝らそうとしたタイミングで肩を叩かれて振り返る。
そこにはもう電車を降りたと思っていた彼女がいて、ちょうどその口を開いたところだった。
「信也君。応援していますから、頑張ってくださいね」
それだけ言うと、タッと踵を返してドアの方へと駆けて行く彼女。
ちょうど彼女が降りたタイミングでドアが音を立てて閉まったのだった。
俺は最初面食らった表情から、徐々に顔が崩れ始めて
最後には、堪えきれなくって静かに笑い声を漏らす。
一人で「くくっ、くふっ」と声を抑えて笑う。
俺を見た人が居たらギョッとしそうな状況だったが。
まの良い事に近くの座席に他の乗客はいない。
なるほど、苗字で呼ばれるのとは違った気持ちに慣れるものだ。
彼女は、海での仕返しのつもりで名前呼びにしたのかもしれないが。
それなら、それで、もう一度こっちから仕掛けてやろうと心に誓う。
そうなると丁度いいのは、二日後に益田に連絡を入れるときが良いと思いながら。
俺は緩んだ頬を気にする事もなく。電車に揺られ続けるのであった。




