第二十話 判明する真実
最初に話しかけたのは親父の方からだったらしい。
その日、同じ研究会に参加していた誠さんは、雲の上の存在だと思っていた親父から話しかけられて
すごく緊張したと言っていた。
「君が益田君かね? 噂をいろいろ聞いておるよ。 新しい物質の生成に成功したらしいじゃないか」
「京極博士! こ、光栄です。 偶然発見した分子結合を試した結果なのですが」
その後、色々とその場で現時点での研究課題やら何やらを二人で熱く語ったらしい。
それで研究会も閉会となって帰り支度をする誠さんに親父が、再度声を掛けたんだそうだ。
「益田君。よかったらこの後食事でもどうかね? 実はね、今日はホテル泊まりで一人なのだよ。」
「もちろん、僕でよかったらお供させて下さい。僕も本日はホテルでして。」
そんなこんなで、親父の良く行く料亭に招待された誠さんは、そこで仕事以外の話をいろいろ話した。
するとどうだろう、二人には同い年の息子と娘がいるではないかとさらに意気投合。
お互いのプライバシーも赤裸々に暴露大会が始まる。
そうすると、今度はお互いに未だヒーローに憧れているのが発覚。
これは神様のお導きに違いないと二人は大騒ぎ。
おい、仮にも科学の最先端の二人組みが神様崇拝始めたんだけど大丈夫かよ。
と思いながらも、俺は誠さんの言葉に聞き入る。
「ぼかぁですね。思うんですよ! 娘の夢は僕の夢!いつか叶えてやりたいんですよ!」
「そうじゃな。子供の夢は親の夢じゃ、その心意気は素晴らしいぞ益田くん」
「恐縮です、京極博士!」
「してぇ、娘さんの夢とはなんじゃね?」
「それなんですけど。娘も正義のヒーローに憧れてるんですよぉ」
「ほんとうかい!?」
酒で酔っ払った二人のおっさんが、この時の会話であのはた迷惑な計画を実行に移すまで
迷わず突き進んだのから呆れて物も言えない。
「益田くん。いや、同志よ! 実は私には暖めていたある計画があるのだが、一枚噛まないか?」
「京極博士! ぼくは、どこまでも付き合いますよ!」
「どうしーーーー!「はかせーーーー!」
いやいやいや、待って欲しい。この回想いるのか。
俺はちらりと益田に目を向ける。
真っ赤になって俯いていた。うん。気持ちはわかる。
誠さんはそんな娘の様子に気付くことなく、更に熱く語り続ける。
その飲みの席のあと、頻繁に会うようになった二人は、親父の計画に基づき。
更に、誠さんの夢をブレンドされて、ついに夏休み初日に決行されることが決まった。
実に、夏休みに入る3日前の出来事である。
そこから二人は方々に手を回し、二人が研究室に来なくなっても騒がれないように
国外研究に二人で旅立ったと装い。国内の研究施設を一つ丸々使って。
そこを悪の組織の秘密基地へと変えてしまったのだった。
この話を聞いていて思ったことがある。
親父は確かに天才だが、誠さんも対外、天才である。
他人から見れば呆れて物も言えない事でも全力を賭して成し遂げてしまう。
完全に努力する方向性が迷子である。
なぜ、その力を世界の発展に注げなかったのか疑問だけが残るのであった。
そして、あの夏休み初日。電波ジャックをしかけて計画スタート。
おっさん二人による、盛大な茶番劇。サマードリームの開幕である。
まず益田が、誠さんの部屋を漁ってマイクのストラップを見つけるタイミングで
最初の事件を起こそうと、益田が動くのを今か今かと待っていたという。
つまり、益田が初日でストラップを見つけていた場合。
俺は、今回のこの騒動からは蚊帳の外にいた可能性もあるわけだ。
それに関しては、益田が二日目でストラップを見つけてくれたことは行幸だった。
そして初めての戦闘。
「いやぁ、驚いたよ。最初は本物のヒーローが来ちゃったと思ったからね。」
俺と益田も思ったことだ、自分以外にイレギュラーがいるなんて思いもしなかった。
そこで俺は気になることがあり、初めて誠さんの言葉へと口を挟む。
「親父は、気付いてたんですか?最初から、トラオムが俺だって事に。」
「そうなんだよ。あの仮面ね、お互いが通信出来るようになってるんだけど。」
「京極博士が言ったんだ。『あれは、息子だ』って」
しかし、ふに落ちないと言えばふに落ちない。
俺は、トラオムの変身スーツの初期段階において。
親父にばれない様に、コスチュームの外見を大分弄ったのだ。
それなのにそれに気付くというのは、いったい何が決めてだったのか。
誠さんにそれを問うも、首を横に振る。
「すまないね。京極博士からは、そのことについては聞いてないんだ」
すまなそうにする誠さんにこちらも首を振る。
どっちにしろ親父に聞けばいいのだ。焦る必要も無い。
それを見た誠さんは、思い出したかのように口を開く。
「そうだ、京極君。変身システムの事が書いてあるファイルを見せてもらっていいかな?」
「え? あぁ、いいですよ。持ってきますね。」
そう言って席を立った俺は、ものの数分で居間に戻ると、誠さんへとそのファイルを手渡す。
ファイルを受け取った誠さんは、一枚一枚ページをゆっくり捲って行く。
そしてすべてのページに目を通し終えた誠さんは神妙な顔を作る。
「京極君、変身システムは『君』が『このファイル』を元に製作したって事で間違いないね?」
俺は、真剣な表情の誠さんに無言で頷く。
それを見た誠さんは、一呼吸置くと俺に驚愕の事実を伝えたのだ。
「この設計図で組み上げた場合。この変身システムは100%作動しない。」
「「えっ?」」
俺と益田の声が重なった。
作動しない? つまり動かない? それはつまり変身出来ない。
「だっ・・て、俺のコイツは変身出来ましたよ。」
俺はポケットにしまったままの携帯を強く握る。
どういう事だ、設計図どおりに組んだら動かないはずの物が、現実には動いている。
何なんだこれ。
「お父さん、それ本当なんですか?」
誠さんの隣に座っている益田も困惑した表情で問う。
その質問に、誠さんは首を振る「100%動かない」と。
そして、誠さんは続けて爆弾を投下する。
「何より、このシステム考案者は京極博士じゃない。 最後の所のサインが京極博士のそれじゃない。」
そういって、そこのページを開く誠さん。
そこのページの右隅にあるのは、KKの文字。
それを見た俺は頭が真っ白になる。
「お父さん? 京極博士はKKじゃないの?」
「あぁ、京極博士はね。研究論文を出すときは決まってこう。 K/Kと書くんだよ。」
「だから、これは京極博士の製作物じゃない」と誠さんがしめる。
そうだよ。そうだった。親父のサインがK/Kであることなんて、息子の俺が良く知っている。
それに、このKKのサインの主もまた誰だか知っている。
俺自身は、会った事はない。一度も喋ったことも、ましては、名前を呼ばれたことさえない。
でも、知ってる。俺はこの人を知っている。
ダメだ。こういうのは、本当に心にくる。
俺は自然と涙が溢れるのを止められなかった。
俺が突然涙を流し始めたのに誠さんと益田が慌てる。
「もう、お父さんが変なこと言うから!」
「えっ? 僕のせい!? きょ、京極君。すまない、大丈夫かい。」
俺は、頭を下に向け首を何回か横に振る。
そして、小さく深呼吸をして顔を上げるとそのサインについて口を開いた。
「KKのサインは、京極 叶希という女性科学者が使用していたサインです。」
目の前の二人は、それが誰なのかに思い当たったようだったが、構わず続ける。
「京極叶希は、俺の母親です。」
三日後、親父に聞くべきことが増えた瞬間だった。




