第十四話 彼女に語る昔話
ファミレスでちょっとした再開と食事を済ませて、ガレージへと戻ってきた俺たちは現在作戦会議の最中である。
内容としては、いたってシンプル。
いかにして、俺たちをこの茶番に巻き込んだ親父達の顔面に怒りの鉄拳を食らわせるかという事である。
「あの京極君。私はそこまで怒ってないので、顔面に鉄拳制裁はちょっとやりすぎではないかと。」
「益田はやさしいなぁ。良し、ぶっ飛ばすのはクソ親父だけにする。」
「あはは・・・」
益田の乾いた笑いを流して話を進める。作戦自体の決行は早い方がいいので、次の戦闘で仕掛ける予定だ。
勝利条件は、親父達にこの茶番を終わらせる事。
その為には何が一番効果的かつ実現可能か。
その1『説得』
「私達が二人の正体に気づいてると伝えてから、私達の正体を教えて説得すればどうですか?」
「却下。そもそも、親父たちは俺たちの正体は知ってるだろう。100歩譲ってトラオムの正体が
ばれていないとしても、レーヴは100%身ばれしてる。じゃないと、あの時、あの日に
来るはずのヒーローを知っていた何て事は口に出さない。つまり、親父たちは自分の子供に
戸惑いなく攻撃を仕掛けてきたという事だ。変身スーツの性能を把握して上で危険は無いと判断してだ。」
「うぅ、そういえばそうでした。」
「よって、次!」
その2『力技』
「と、言うわけで。抵抗出来なくなるまで、ボコボコで良いと思うんだけどどうよ?」
「ダメです! 却下です、却下! 穏便に事を進めましょうよ!」
「えぇー、相手悪の組織だぞ? 正義の味方がボコボコにするのが筋だろ?」
「却下です! 次!」
その3『捕縛』
「身動きが取れないように拘束するのは、どうでしょうか?」
「つまり、ボコボコにして身動きが出来ないように「京極君!」
「冗談っ、ジョーク! イッツ、ジョーク!」
「真面目にやりましょうよ。」
しかし、捕縛となると少々骨が折れそうだ。
今までマネキン共を蹴散らしたらすぐに転移で逃げていた親父達の事だ。
変身スーツの性能を知っていて逃げているなら、少なくともマギレーヴと戦えば勝てないと思ってるはず。
実際トラオムに関しては、攻撃を受け止めて、装甲を破壊する事が可能なのは前回の戦闘で立証済み。
それに、マギレーヴの攻撃は障壁で防ぐので精一杯で、しかも白衣が所々こげていたし。
まぁ、親父のお情けか何かは判断が付かないが、トラオムは次回からパワーアップした状態で挑める。
だが、未だにレーヴ状態の益田が親父さんに攻撃を向けれないんじゃそもそも手数が足りない。
ん? 攻撃してたよな。
「おい、益田。大事な事だ思い出せ。何でトラオムを助けに来た時、親父達を攻撃出来た?」
「えっ? あれ、そういえば私あの時、お父さんにも力を使ってた様な?」
「いや、疑問で返すな! 使ってたんだよ、お前は確かにあの時、親父達に力を使った!」
「そんな、私何てことを。あんな危険な力をお父さんに向けるなんて。」
「だから、そこじゃねぇよ! 思い出せって、そしたら親父達を倒すヒントが見つかるかも知れん。」
「うぅ、でも嫌ですよ。一歩間違えば人に簡単に怪我をさせれる力をお父さん達に使うなんて」
そこから話は平行線を辿って行く。
何とか、益田に親父達に力を使ってくれと頼み込む俺と親父達に力をぶつけたくない益田の図だ。
彼女はやさしすぎる。
相手が機械ならどうにでも出来るだろうが、それが生命体だと途端に矛を抜けれなくなってしまう。
それは、彼女の長所であり短所である。しかし、出来れば今回は折れて欲しかった。
何も全力でぶつけろとは言わない。親父達の目の前で力を炸裂させて脅すだけでもいいのだ。
だが結局、彼女は首を縦には振らなかった。本当に彼女はやさしすぎる。
その後、何とか拘束できないものかとか思案を続けるがうまく行かず。
今はひと時の休憩タイムを取っている。
ふと、カップに口を付けた益田が小さく声を漏らす。
「あっ、そういえば。京極君って何で今の高校を選んだんですか?
あそこ進学校ではありますけど、ちょっとここからは距離ありますよね?」
俺は、その言葉に一瞬眉をひそめる。あまり触れて欲しい話題じゃなかったためだ。
だけど、ちょっと、ほんの少し。
彼女には聞いといてほしいと思った自分が確かに居た。
話せば今の関係が少し歪になってしまうかも知れないのに。
俺は、彼女になら話してもいいだろうと
いや、誤魔化すのは止めよう。
彼女に聞いてもらいのだろう。そう、彼女には話した上でこれからも付き合ってほしい。
「くそ面白くない理由の上に、むちゃくちゃ長い話になるけど。それでも聞くか?」
最終警告のつもりだが、こんな言い方は卑怯だなと自嘲する。
こんな言い方をしたら、何かあったと言っているようなものだ。
彼女の性格からすればこんな言い方をされたら聞くと言うに決まっているだろう。
ほらみろ、彼女がカップを机に置いて聞く姿勢をとってこくりと頷く。
それを見て、俺もカップを机に置くと彼女と向き合う形をとる。
そして、語った。くそ面白くない理由で今の高校を選んだ話を。
◆
俺は、小中学校と劣等感の塊だった。
親父が天才科学者だった事と、母親がすでに居なかった事のダブルパンチでだ。
正確に言えば、小学校の頃は母親が居ない事で微妙な距離感を色々な人に取られ。
中学の頃には、少し成績に乱れが出れば「本当に天才の息子か?」となじられた。
協調性の無いような行動を起こせば母親の愛情を知らないせいと同情する振りで蔑み。
学業関係で少しでも他人に抜かれれば天才の息子に勝ったぞと煽られた。
どいつもこいつも、俺個人を見ちゃ居ない。
なんで、それで非行に走らなかったのか?決まってるだろう。
それを行なえばその時点で両親への裏切り行為だ。
俺の親父は天才科学者『京極 恭太郎』だ。俺の母親はそんな親父が見初めた人だ。
そんな二人が愛し合って生まれたのが俺だ。
身体が弱かった母親は、俺を生めばもしかするかもしれないと医者から言われた上で俺を生んだ。
その結果、結局命を散らしちまったが、そのおかげで俺は今ここにいる。
母親の愛情を知らない? はん、同情してんじゃねぇよ!
俺は生まれた瞬簡に一生分の愛情を母親からもらってる!
天才の息子に勝っただ? あぁ、お前が勝ったのは俺であって親父じゃねぇ!
凡人の俺を負かした事で天才である親父を貶めるな!
お前たちは、俺を見下す事で天才『京極 恭太郎』には育児の才能まではなかったと嘲りたいだけだ。
どう足掻いても凡人止まりの俺には、関係をすべて断ち切ることでしか、逃げる事でしか
対抗する手段がなかった。
だからさ、俺は関係をリセットするために今の高校に入った。
俺が天才だったら、俺が聖人君主のような人間だったら、逃げるって選択肢は無かったんだけどな。
それが今の高校に通ってる理由だ。
まぁ、正解だったな。
少しバカな奴や不思議な奴もいるが、基本的には楽しい生活が送れてる。
「だから、お前が泣くなよ益田。」
こぼれる涙を拭いもしないで、ポタポタとスカートに染みを増やしていく少女。
本当に彼女はやさしずぎる。
◆
「落ち着いたか?」
「ごめんなさい・・・」
「何のことについて謝ったのか判らないから、謝罪は一切受け付けませーん」
俺はケラケラ笑うと冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干す。
「そもそも、俺が話したいと思ったんだ。お前が気に病むことじゃない。」
「それでも、話を振ったのは私です。」
「いいんだよ。話したくなかったら誤魔化してたさ。」
「でもっ」と続けようとする彼女にヒラヒラと手を振る。
それに、今日あそこで英雄に会ってなかったら、言う気は起きなかっただろう。
英雄は、俺のこの話を知っている唯一の友人だ。
俺は、高校に入った時に、この話をしても今後付き合いが出来る人しか
友人だと思わないように自分の中で線引きをしたのだ。
その最初の1人目が英雄で2人目は目の前の彼女になりそうだ。
俯いてしまっている彼女を元に戻すのに何かお詫びをしてもらうかという考えが浮かぶ。
彼女がこの話を聞き出した事を気に病むなら何かをしてもらう事で償ったと思ってもらった方が手っ取り早い。
俺は、何か無い物かと思案して、ふと思い浮かぶ。
「なぁ、益田。俺、益田にしてもらいたい事があるんだ。」
「わかりました! それで京極君の気が済むなら何でもします!」
年頃の女の子が言うセリフじゃないぞ、それ。
まじで将来詐欺に合いそうだと、始めの頃に思った事がふと頭をよぎった。
ちょっとからかおうかな。と悪戯心が芽生えてしまった。
「えっ? 何でもしてくれるの? お願い変えようかな。」
「へっ? いや、あの京極君。何でもって、その、あの、かっ、変えるのは無しです!」
「えぇー、じゃあ最初に俺が言おうとしたお願い当てて見てよ。そしたら、変えない。」
「そ、そんな。ず、ずるいですよ京極君! 卑怯です。卑怯者です!」
俺は堪え切れなくなってクスクスと笑いが漏れてしまう。
それを見た彼女もからかわれたのに気付いたのかそっぽを向いてしまう。
あぁ、ダメだな。からかい過ぎは良くないと判っていてもやり過ぎてしまう。
それだけ彼女の反応が狙い通り過ぎて面白いのだから仕方ない。
もう大丈夫な気もするが、一様お願いだけは口に出す事にした。
「歌が聞きたい。歌うの好きだって言ってたよな? ダメかな?」
そっぽを向いていた彼女の顔が此方に戻る。
目がじゃっかん泳いでる。
「うっ、歌ですか? あの、歌うのは好きですけど、上手くはないですよ。」
「いいよ、益田が歌う曲が聞いてみたい。」
「うぅ、わかりました。」
若干の戸惑いはあったが、他に変な事を指示されるよりはマシだと思ったのか
彼女は立ち上がると、俺から少し距離をとって深呼吸する。
彼女の目と俺の目が交差する。俺はゆっくりと頷いて目を閉じた。
そしてガレージ内に彼女綺麗な歌声が響き渡ったのだった。




