第十三話 ファミレスでの遭遇
暑い日差しの中、二人で談笑しながら昼食をとる為に着いたのは、駅前にあるファミレスだ。
今まで一人で来る事が多かったが、夏休みに入って女の子とここを訪れるはこれで2回目。
ふと、クラスメートの男子共にこの事を話したら自慢になるかも知れないと考えたが
話したら話したで名誉の負傷を負う事になるかもしれないと黙っとく事にした。
我ながらチキンである。それに、目立つのは嫌いだしな。
ドアを潜り来店のチャイムが店内に響く。お昼時とあってお店は賑やかだ。
いや、賑やかすぎなような。こんなにお客が多いのは始めた見たような気がする。
客の来店に気付いたホールスタッフの1人が申し訳なさそうな表情で近づいてくる。
その表情ですべてを悟った。
「お客様は2名様ですか? すいません。生憎お席が埋まっておりまして、少々お待ち頂く事になります。」
そう男性のスタッフに言われて、待つか出るかの二択を迫らせる。
一人だったら普通に待つのだが、今日は益田と来ている。
益田が待つのが嫌なら店を出る選択をしなければならないが、生憎この近辺のお食事所はここしかない。
つまり、この暑い中来た道を今度はスーパーに寄って帰って自炊という選択になる。
なるべくなら避けたい所だが、そもそも俺が彼女を怒らせてそのお詫びとして連れ出したのだから
決定権を持つのはどっちにしろ益田である。
俺は、彼女を方に向き直り「どうする?」と声をかけようとした状態で静止した。
益田がこっちを向いていないのだ。
俺がその視線を追うと、店の入り口から一番近いBOX席の方を見ていた。
正確には、そこに座って携帯をいじっている女の子を見ている。
はてと、どこか見覚えのあるその後姿を見ていると、その女の子が視線に気付いたのか振り返る。
「理沙さん!」「ビューティー!」
二人が同時に叫ぶ。店内では静かにした方がいいぞ益田。
あと、益田の事を『ビューティー』と呼ぶ、その女の子の正体も判明した。
下の名前は覚えていなかったが、益田が『理沙さん』と呼んだので理沙と言うのだろう。
甲田 理沙。俺たちの同級生にしてクラスメート。
そして、俺たちのクラスが誇る不思議ちゃんである。
◆
宇宙人、異世界人、びっくり箱。これらすべて俺たちのクラスでは甲田を指し示す代名詞だ。
最後だけ無機物だが、とにかく考えてる事がわからない。
特徴的な事は2つある。
1つ、友人知人に妙なあだ名、つまりニックネームを付けて呼ぶのだ。
益田が『ビューティー』と呼ばれていたのがそれ。たぶんだが、下の名前の『美』音からとったと思われる。
そして、もう1つ。会話するとわかるのだが、話題があっちこっちに飛び火するのだ。
これが彼女とコミニケーションをとる上で慣れていないと中々つらい。
ちなみに、俺はクラスの女子と甲田がこんな会話をしているのを聞いた事がある。
「昨日の深夜ドラマ見たです?」「見た見た、主演の男優さんチョーカッコよかった」
「ですですー。今日のお昼は学食ですー。」「えっ?」「えっ?」
何故かドラマの話をしていたのに昼食をどこで食べるかに摩り替わっている。
だが、この会話自体の解読はそんに難しくない。ヒントは『深夜』だ。
そこに着目して一つの文章を入れるとこう繋がる。
「昨日の深夜ドラマ見たです?」「見た見た、主演の男優さんチョーカッコよかった」
「です、ですー。『でも、遅くまで起きてて朝お弁当作れなかったから』今日のお昼は学食ですー。」
「えっ?」「えっ?」
理解できるだろうか?こういう会話を彼女はしているのだ。会話を一文すっ飛ばすのだ。
ちなみに俺は、この会話を聞いてしまって、これを解読するのに次の授業を丸々使った過去がある。
そもそも会話とは秒単位で切り替えしていくのが普通なのだ。相手の言葉を理解し、言葉を返す。
そんな秒単位の作業をしないといけないのに解読に1時間も掛かるような言葉返してんじゃねぇよ。
とは、思うのだがなんとこの甲田と言葉のキャッチボールが出来る人物が存在する。
熊寺である。俺は、本当にあいつは友達を作る事に関しては万能だと尊敬する。
最初のうちはちんぷんかんぷんな会話をしていたのに、一週間で会話を成立させたのだから。
まぁ、俺のクラスで甲田と会話のキャッチボールがまともに出来る人物は1人だけ。
だと、この時まで俺はそう思っていたのだがとんだ伏兵がいた。
「本当に久しぶりですー」「もう、理沙さん。1週間前にも一緒に遊んだじゃないですか」
「違いますよー」「そうですね。蛍さんも一緒でしたね。」
「ですですー。もう半分近いでーす」「まぁ、まだ夏休みも半分あると思いましょうよ」
「あぅー、不安ですー」「理沙さんったら、もう休み明けのテストの心配なんてして」
俺はいつの間にか言語が違う国に来てしまったみたいだ。
てか、益田すげぇな。甲田とキャッチボール出来たのか、本当に尊敬するわ。
こっちは、益田の返してる言葉で甲田がどういう言葉を喋っているのか逆算して理解している状態だ。
俺と益田は、甲田の好意によって相席させてもらっている。
『益田が』聞き出した情報によると、待ち合わせした人物が遅れてくる事になったので
ここで時間をつぶす事にしたらしい。ちょうど、そのタイミングで俺たちが来訪したという事だ。
まぁ、好意を受けた身で申し訳ないのだが、出来れば遠慮したかったと思わないでもない。
俺自身、甲田の事は決して嫌いではない。しかし、苦手ではある。
人間、自信の理解の外に居る生き物には、警戒するのが当たり前だろう。
俺が、甲田との会話のキャッチボールが出来るようになれば苦手意識も無くなるだろうか。
そんな事を考えていると、甲田が行き成りこっちにボールを投げる。
「むぅー、ビリーブはどう思いますか?」「おいちょっと待て。ビリーブってのは俺のことか?」
「イエー、それでどう思いますか?」「何の話してたんだ?」
話を聞いていなかった俺は、益田に会話の内容を聞くために視線をずらして益田を見る。
とうの本人は、何故か赤面して俯いてしまっていて、こちらの質問には答えれそうに無い。
ふむっ、と俺があごに手を当て思案顔になると、甲田が言葉を続ける。
「もう、いいですか? ビューティーと二人ですー」
「えっ? 益田と二人? あぁ、まぁ、ここに来るまで二人だったが?」
「ですですー。それで、いつからですかー?」
「はっ? えっと、今日の早朝からだけど?」
「イエー、おめでとうね。ビリーブ。」
「はぁっ? 何で祝われたの俺?」
俺の言葉を受けて、「イエー、イエー」と言って頷いている甲田を見てから
やはり俺のレベルでは、即時に解読して言葉を返すのはまだ無理だと結論付けて
これは甲田言語解読資格1級を所持している益田に助けを求めようと彼女を見るも
何故か先ほどより症状が進行して、机に顔を隠すように覆いかぶさっている。
それを見て、俺はとんでもない受け答えをしたんじゃないかと思ったが時すでに時間切れとなった。
ドアを潜るチャイムの音に入り口の方へを顔を向けると見知った顔と目があった。
「英雄じゃないか。久しぶりだな。」
「あっ、久しぶり信也君。終業式以来だね。」
そこにいたのは、現在唯一俺が下の名前で呼び合っているクラスメートがいた。
今日は何だかクラスメートに良く合う日だなと思っていると甲田が席を立って英雄を指差す。
「遅いですよー、ヒーロー!」
「ゴメン、甲田さん。埋め合わせはこの後ちゃんとするから。」
「イエー、なら急ぎましょうー」
甲田は、イスに置いてあったカバンと自分の分のレシートを持つと英雄の腕を掴んでレジに行き。
ささっと会計を済まして、来たばかりの英雄を連れて店外へと消えていってしまった。
正に風の如し。しかし、まさか英雄と甲田がねぇ。
「たぶん、京極君の考えてるような関係じゃないですよ。お二人は」
「うおっ、復活してたのかよ」
心の中で考えていた事に対して言葉が返ってきた事に驚きながら益田へと視線を戻す。
どうやら、先ほどのよくわからん状態から復活できたらしい。
「で、さっきの状態になった理由を聞きたいんだけど?」
「黙秘権を行使します」
「ですよねー」
俺は同じ過ちを繰り返さない。ここでしつこく聞いたら店に来る前の二の舞になることは明白。
店を出て行った二人の事と、先ほどの益田の行動は気になるが今は置いて置くとしよう。
それよりも先に俺たちにはしないといけない事があるのだから。
「お待たせしましたぁー、失礼しまぁーす」
そういって、タイミングを図ったかのように持ってこられた料理を見て。
当初の目的を先に果たしてしまおうと二人同時に手を合わせた。
「「頂きます」」
こうして二人に戻った俺たちは、食事をしながら会話に花を咲かせるのだった。




