第十一話 ひとつのタネ明かし
耳元でやたらうるさい電子音が鳴っている。
気だるい身体を強引に起こすと、いつものベッドでないことに気付く。
あぁ、ガレージで作業しながら寝ちまったのかと、まだ覚醒しきれない頭をガシガシとかく。
トラオムの修復中に気付いた見覚えの無い数式を新たに組み込む作業に没頭し
確か、ジャケットの部位パーツにそれぞれうまいこと組み込むんだまでは覚えてる。
その時すでに朝日が拝める時間だったはずだ。
俺はパソコンに表示されてる時刻に目を向け。続いて、先ほどから鳴り響いている電子音の正体に気付く。
「やばいっ! 寝過ごした!」
慌てて電子音を鳴らし続ける携帯を手に取るとすぐに通話ボタンを押す。
『すまん! 寝てた!』
いの一番に謝罪と理由を短く答える。電話の向こうの相手が息を呑むのがわかった。
『よ、よかったぁ。 昨日の今日だったから、私心配で・・・』
これ、いかんヤツや。明らかに泣く寸前の声色になっている電話口の相手にひたすら謝りながら
すぐにガレージを飛び出す。玄関にたどり着くと、やはりというかなんというか。
すでに目じりに涙をたたえる益田が立っていた。
『心配掛けて悪かった、考え事と作業に没頭してて徹夜しちまってさ。寝過ごしただけなんだ』
『はい。私の方こそすいません。何か昨日から泣いてばっかりで』
目の前に居るのに、二人して携帯を耳に当てたまま会話する。
はたから見れば、何やってんだ。という光景に、少しばかり自嘲する。
『あぁ、とりあえず。中へどうぞ。』
『はい、お邪魔します。』
結局、彼女を中へ迎えるまで携帯でやりとりしてしまった。
◆
彼女を居間に通した俺は、シャワーだけでも浴びさしてくれと頭を下げて。
現在、風呂場にてシャワーを浴びている真っ最中である。
寝不足の頭に、温めのお湯が心地良い。
今日で、色々とはっきりさせておかないといけない事が山済みである。
ドリーマードリーマーの出現タイミングは今の所2日おき。
今日は現れないだろうが、明日にはまた何かしら仕掛けてくるだろう。
まぁ、それも希望的観測ではあるのだが。
何せ、昨日すでに今までと違う行動を起こしてきている。
だったら、これからも同じと考えるのは少々虫が良過ぎるだろう。
俺はシャワーを止めると「うしっ」と小さく気合を入れて風呂場を後にした。
さて、どうするかな・・・
居間に戻るとそこには、ソファに座ってすぅすぅと寝息を立てるメガネを外した同級生がいた。
まぁ、昨日あんな事があって快眠出来るほど図太い性格はしてないよな。
俺は、彼女を起こさないように成るべく音を出さずにキッチンで作業する。
ごはんも食べていないので、この際今の内に朝食を食べさせてもらおうと朝食の準備に取り掛かった。
俺が食べ終える頃には、自然に起きるだろうと考えて。
それにしても、メガネ掛けて無い益田ってのも新鮮だな。
変身してるときはメガネ付けてないけど認識障害のせいで、ちゃんと記憶できないしな。
っと、女性の寝顔をまじまじ観察するのはダメだろ。
料理に集中、集中・・・
「んっ、あれ・・?」
朝食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいるとちょうど彼女が目を覚ましたようだった。
寝ぼけ眼でキョロキョロと周りを見回して、俺と目が合った瞬間。
バフッと、ソファのクッションへと顔面からダイブした。
いや、何してんだよ。と心の中で突っ込みを入れて新しくマグカップを用意するために席を立つ。
コーヒーを新たに入れたマグカップをテーブルに置いた俺は、益田に声を掛ける。
「この前飲んだやつのホットだ。ブラックで飲めたから大丈夫だと思うけど。」
しかし、益田からの反応が無い。あれ?そのまま寝てないよね?
俺は何度か「おーい」と声を掛け続ける。そして、何回目かの呼びかけにようやくもぞもぞと動き出した。
クッションを抱えたまま、元の体勢に戻った彼女がもぞもぞと何かを喋る。
「いや、喋るんならクッション退けろよ。声がこもって何言ってるのかわからんのだが。」
俺の言葉に観念したのか、恐る恐るといった感じでクッションを膝の上に下ろすと
テーブルの上に置いてあったメガネに手を伸ばす。
それをかけた彼女は小さく咳払いすると、「頂きます」と言ってコーヒーを一口。
「じゃあ、昨日の続きを話しましょう」
俺が「えっ?」と小さく声を漏らすも目が笑ってない笑顔で微笑まれた。
俺はわざとらしく咳払いする。えっ、今の無かったことにする気なのこの子と
思いながらも、益田の眼力に負けて頷くのだった。
◆
お互いに座り直してから昨日の続き。と言っても事実確認のすり合わせとお互いの意見交換になるのだが。
彼女も、昨日いろいろと考えて自分の考えを纏めて来たみたいだし。
彼女の考えを聞くいい機会だ。そもそも、何で最初の時にこういう事をしなかったんだろうな俺たちは。
「さて、何から話そうか?」「私の疑問から聞いてもらっていいですか?」
「あぁ、構わない。答えれる事は全部話す」
彼女は頷くと一呼吸置いてから切り出す。
「まず、京極博士の残した書置きを見せてもらってもいいでしょうか」
俺は頷くと、居間にある棚の引き出しから親父の書置きを取り出し彼女へ渡す。
彼女は、それを受け取ると無言で目を走らせる。
すぐに読み終えたのか、書置きをテーブルに置いて一言。
「私、結構連れ込まれてますね。」「そこかよっ!」
「さっきの仕返しです。」「無かった事にするんじゃなかったのかよ・・・。」
「あら、女性の寝顔を見た非は認めてるんですね。」「・・・すいません。」
機嫌が幾分良くなったのか、先ほどとは違い本当に可笑しそうに笑いながら彼女は本題に入る。
「京極君、まずは昨日の事。もう一度謝らせてください。ごめんなさい。」
「いやいや、益田が謝る事は無いだろ。でも、それじゃ気が済まないなら受け取っとく」
「はい。それで、昨日もしかしてって思った事があったんですけど。
書置きを見させて頂いてほぼ間違いないと思いました。」
彼女は何に気付いたのだろう。俺は、彼女の言葉を真剣な表情で待つ。
「私達は、二人ともイレギュラーヒーローです。」「なっ!?」
彼女の言葉に驚愕する。そんな事ありえるのか。
悪の組織には対になる正義の味方が必ず存在する。
もし、彼女もイレギュラーだと言うなら。本物はどこにいるんだ。
「京極君、一番最初の前提条件が間違ってるんです。」
「前提条件って?」
「はい。お父さん達の『ドリーマードリーマー』が偽者だとしたら?」
「あっ・・・」
そうか、そういう事か・・・
じゃあ、俺たちのしている事は・・・
「私達は、お父さん達の茶番に巻き込まれただけです」
俺は彼女のその言葉に、久々に大声で悪態を付くことになった。
「あっんの、クソ親父!!」




