第十話 偽者の想い
正義の味方オラトムの大敗北があってから一時間ほどが過ぎた。
俺自身、いろいろ有りすぎて一人の時間が欲しかったが、益田がそれをさせてくれなかった。
「ごめんない」と幾度となく繰り返す彼女をなだめるのにも、幾分時間が掛かった。
そして現在、俺の自宅の居間では、俺と益田が向かい合わせで座っている。
目がまだ少し赤い益田を眺めながら、すべてを話す必要があるだろうと俺は覚悟を決めていた。
「本当に、病院に行かなくても大丈夫なんですか?」
「あぁ、外傷はまったくなしだ。壊されたのは変身スーツだけだな。」
このやりとりも何度目になるかわからない。ここに戻る途中、彼女はこちらの事をやけに
心配した様子で何度も似た様な質問を投げかけてきた。
その度に、俺は大丈夫だとアピールするのだが、どうも信じてもらえてないようだ。
俺はため息を吐くと彼女に語りかける。
「益田、話さないといけない事がたくさんある。聞いてもらえるか?」
彼女が頷くを待ってから再度口を開く。
「俺は、イレギュラーヒーローだ。」
◆
俺は、すべてを彼女に話した。夏休み初日の事から、ドリーマードリーマーのKKが自分の親父である事。
俺の親父が益田の親父さんを巻き込んでいる事。その親父の目的。俺の考え。
そして益田こそが世界に選ばれたニューヒーローだという事。
そのすべてをこちらを見つめたまま黙って聞いてくれた彼女は、俺の告白を聞き終わるとポツリと言葉を漏らす。
「よく、わかりません。」と
「えっ?、それだけ?」「だって、本当にわからないんです」
俺は、てっきり「今まで騙してたんですね」とか「京極君のお父さんのせいで、私のお父さんは!」とか
「京極君、一人で変身スーツを作ったんですね。カッコイイ!」とか・・・
いや、最後のは無しで、俺も疲れてるな。
沈黙が続く中、彼女が突然立ち上がる。
「今日は、帰ります。明日、朝早い時間に伺ってもいいですか?」
俺が彼女に頷いて見せると、彼女はいつもそうしているように頭を下げて居間から出ていくのだった。
一人になった部屋の中、俺はソファに身を沈める。
これからの自分の見の振り方を考えなくてはいけなかった。
「あれっ?」
気がつくと頬が濡れている。いつのまにか泣いていたのか、俺は。
それに気がつくと決壊したかのように、次から次に涙が溢れて来る。
本気で実の親父に殺されるかもと思った恐怖感。
ヒーローを名乗りながら何も出来なかった無力感。
益田を今まで騙していたことによる罪悪感。
頭を抱えて下を向く。とめどなく溢れてくる感情に身を任せ。
俺は本当に久しぶりに泣いたのだった。
◆
カチカチとパソコンのキーボードに指を走らせる。
顔を洗ったものの、目は今しばらく充血したままだろう。
本当に久しぶりに泣いた。いつ以来の涙かも思い出せないくらいだったが
今は頭がスッキリして、自分自身がやりたい事やしないといけない事に粗方整理がついた。
泣いたら頭がスッキリすると言うのは嘘じゃないと実感した。
人は感情によって泣き、その間、頭はしばらくの休息を得るのだろう。
科学者の息子が、感情論で語るのもおかしな話かもしれないが
休息を得た俺の脳みそは現在フル稼働中である。
こうして、パソコンと向き合いトラオムの修復を行ないながら
今までの戦闘や親父達の発言について、また益田が今日最初に変身出来なかった事について
まず、親父達についてだが、最初から俺が偽者だと気づいていたと言っていた。
気付いていながら今日になるまで気付いていない振りをしていたと。
ここで考えないといけない事は、何故気付かない振りをしていたかより
何故、今日それを言う必要が合ったのかという事だ。
最初に沈黙を決めたのは、それに利があったからだろう。
沈黙を破ったのは、その利が消滅したか、または親父達の計画『夢』を達成するのに
偽者が邪魔になったかだ。
親父達の『夢』ってのは、もしかしたら正義の味方と戦うと言う事とは違う所にあるのではと思ったのだ。
そうなると、俺は最初で間違ったことになる。そもそも、息子に向けた書置きに書いてあることが
すべて真実かもわからないし、最初の電波ジャックで言った言葉から
一般人でも読み取れるような『正義の味方と戦うために来た』なんて事を天才である親父がするだろうか。
そもそもだ。親父の『夢』と益田の親父さんの『夢』は同じものなのか。
俺は、親父が同じ志を持つものという意味の同志と呼んでいたから自然とそうなのだと思ったが
もしかしたら、『夢』は同じではなく。そこまでの過程が同じだから手を組んだとか・・・
または、結果は同じでも得られるモノがお互いに違うとか。
そこらへんは、明日。益田と話合った方がいいかもしれない。
益田といえば、今日電話を受けたとき変身できないとかなり焦っていた。
その原因も不明のままだ。結局は、ピンチになったトラオムを救うタイミングで現れたが
その事をそういえば聞いていなかった。何で変身出来なくなり、何故突然また変身できるようになったのか。
そもそも、益田の変身シークエンスについては謎のままだ。
俺は任意でジェケットの着脱を行なえるが、どうも益田はそれが出来ないようだった。
強制的に変身させられ、強制的に変身を解除させられる。
とんだ正義の味方もいた者だと思う。強制的に戦わされ、戦いが終われば用済みとばかりに力を奪う。
それこそ何処の悪の組織だよって話だ。アホらしい。
と、思考しながら動かしていた指の動きが止まる。
パソコンの画面に目が奪われる。
「何だ、これ・・・」
そこに映し出された表示に、俺は見覚えがない。
破壊された右腕のジャケットをオートで組み直しながら数値を追っていたら
組み込んだ覚えのない数列が出てきたのだ。
そのまま続けたら、バグになると思って何度もデリートと再構成を行なうが
何回やってもエラーの表示に阻まれる。
仕方なく一度組み上げて、支障が出そうなら腕一本分のデータを作り直せば良いかと判断し
ことの成り行きを見つめていたが、その後、驚愕。
組みあがった右腕のジャケットの耐久値が跳ね上がっていた。
ならばと、マネキンモドキのデータを読み込んで、その右腕で衝撃を与えた値を測定。
出てきた数値に今度は絶句。それは、最初にマギレーヴがマネキンモドキを吹き飛ばした。
あの音の衝撃波と同じ『測定不能』の文字が浮かび上がったのだった。
自分で組んだ覚えがない数列。しかも、それをプログラムに反映させたら
とんでもないパワーアップをしてしまった。
俺は、イスに背中を深く預けて天井を仰ぎ見る。そして、小さく呟いた。
「何やったんだ。天才親父」
思い当たるのは右腕を軽々受け止めて機械装甲を破壊した瞬間だ。
破壊された機械装甲は光の粒子になって二次元空間に戻っていく。
きっとその時、戻るジャケットに何か細工を施したのだろう。
しばらくイスに深く座っていたが、やるべき事をやるために動き出す。
身体を起こすと先ほどの見覚えのない数列を他のジャケットにも組み込んでいく。
しかし、中々うまくいかない。どうも、数式を割り込ませるべき場所は一定ではないようで
俺は、組み込んでは測定という作業を延々と繰り返していく。
チラリッと時計に目を向けて。今日は徹夜作業になる事を覚悟するのだった。




