ダリアンとアンドロマリウス
〈大災害〉直後
ちりりりりん ちりりりりん
【ダリアン】「えっとこれでいいのかしら?」
何とかステータス画面を表示し、念話機能のアイコンを押したダリアンはそうつぶやいた。
【アンドロ】「あー、あー。もしもし、智恵?聞こえてる?声届いてる?」
【ダリアン】「届いてるわよマリっと、えぇ、知り合いの冒険者から念話が来たの。とりあえず大丈夫だから、仕事に戻ってちょうだい」
ダリアンの側には人―恐らくホームに設置されていたNPC、大地人だろう―が居たようだ。
【アンドロ】「あぁ、よかった。……一体なにがどうなってるのこれ?あたし等さっきまで家にいたはずだよね?」
僅かにもれてくる背後からはガヤガヤとやかましい声が聞こえる中、アンドロマリウスはそう言った。
不安からか動揺からか、キャラを演じることすら忘れ素の口調になっている。
【ダリアン】「私も家のパソコンの前に居たはずなんだけどね。とりあえず本名いうのはやめなさい。もしかしたら一時的なものかもしれないし」
【アンドロ】「え、あ、うん……ん、んっ。悪いダリアン。今シブヤの街中にいるんだけどさ。町中パニックになってるよ。NPCに当り散らしてるのとかもいやがる」
ロールを意識したのか口調が変わる。
【ダリアン】「アキバの方もそんなに変わらない様よ?郊外にあるここからでも喧騒が聞こえてくる様だわ……」
【アンドロ】「あー、もうほんと何がどうなってんだか、っておい!」
僅かにノイズが混じり様々な音が聞こえてくる。
【ダリアン】「アン?どうしたの?何かあった?」
少し焦った声。現実でも彼女はよくこう言って厄介事に首を突っ込むが、もしもここがエルダーテイルの世界なら。
そう不安に思うダリアンの耳には、しばらくノイズ交じりの声だけが響き。
【アンドロ】「ふぅ、何とかなったか。っと、わるい。ちっと闘りあっちまってさ」
【ダリアン】「ちょ、ちょっと!?シブヤの街に居るんじゃなかったの?まさか圏外に……!?」
もしもエルダーテイルの世界ならば、シブヤの街に居る以上戦闘行為が起これば衛兵が駆けつけるはず。
ならば町の外に、と心配するが
【アンドロ】「あぁ、違う違うほら、さっき当り散らしてるのがいるっていったろ?本格的に手を上げそうになってたから後ろから忍び寄ってNPCの手を引っ張って逃げたんだよ。ほんとは殴ってやりたかったけど殴るとやばそうだったからな。その後ちょいと追いかけっこして、姿見えなくして撒いた」
と、心配された側はからからと笑っている。
【ダリアン】「そう……所でアン?側に大地人がいるんでしょう?NPCと呼ぶのは良くないんじゃないかしら?」
【アンドロ】「そっか……そうだなぁ。なんかこー、ゲーム画面みてるときの感覚が抜けてないみたいだなぁ」
わりぃ、譲ちゃん。い、いえっ。というやり取りが聞こえる
【ダリアン】「リアルすぎて、逆にリアリティが無いってところかしら?あ、ちょっとごめん」
ドウシタノ?オチャヲイレタノデスガ。アリガトウ、スコシマッテイテと、ダリアンの方にも人が来たようだ。
恐らく先ほどの大地人が来たのだろう。
【ダリアン】「いったん切りましょうか、お互い話をすべき相手が出来たようだし」
【アンドロ】「そうするか。もう少したったら、一回そっちに出てみようと思うからその時にまた連絡するよ。コッチもまだあいつらが探してるみたいだしな。このまま部屋でしばらく二人で時間を潰すさ」
【ダリアン】「そう、私はすこしアキバの街に出てみるわ。実際に見てみないと分らない事もあるでしょうし……」
【アンドロ】「んじゃ、お互い次に落ち合うときに情報交換だな。こっちも彼女に色々聞いてみることにする」
【ダリアン】「無理はしないようにね」
【アンドロ】「わかってるよ。智恵こそ、熱中しすぎて本に埋もれたまま寝落ちすんじゃないよぉ?」
くくく、という笑い声。現実世界において、もはや定番となっている一言を投げかけて念話は切断される。
【ダリアン】「……この体、寝る必要あるのかしら?」
ダリアンが味の無いお茶に絶句するのはそれから数分後の事である。