初鯉
こんにちは、夏玉尚です。
思いついたので書いてみました。
「お、この鯉は今年一番のやつかい、こりゃあ縁起がいいや。」
「鯉、買ってくかい?安くしとくよー」
その声を背に僕は商店街の狭い道を歩く。
鯉・・・今年初の鯉・・・初の鯉・・・初恋・・・。
あの頃は大変だったよな。
坂上鈴。
高校一年の時あいつと同じクラスだった。ほどほどに人気があった。
見た目がいいってだけじゃない。とにかく優しかった。
根がいいやつは、悪いやつとは付き合わない。
いや付き合えない。
そう決まってる気がする。男も女も関係ない。
だからあいつはきっと幸せになれるだろう。
あいつは付き合うとき、最初にいつも言ってた。
私何もできないよ、貧しいからって笑いながら。
裕福じゃなかったから、貧しいからってだけじゃなかったんだよな。
母親と妹の3人家族だったから忙しかったんだ。
それでも男の方は俺が守ってやるって言ってそばにいたんだ。
あいつはありがとうってずっと言ってたな。
でも長くは続かなかった。
あいつは男の方を好きになれなかった。
感謝と申し訳なさから好きになれなかったんだ。
それで男は怒って最終的に別れてた。
俺ばっかりじゃんって言ってな。
彼女は何も悪くないはずなんだけどその度に謝ってた。
ごめん、ごめんねって。
しょうがないことなんだけどな。
家族と自分のことで一杯だったんだ。同級生の誰よりも色んなものを抱えてたはずだ。
僕は小さいころからあいつと居た。
家が隣だったのもある。
そしてあいつがどれほど大変な思いをしてきたのかも知ってる。
「○○君、おまたせ。」
不意に声がかかった。
振り向くとそこにはあいつがいた。
僕はずっと思ってた。
僕が守ってやれたらなって。
それが今できるんだ。
俺だけじゃんかよ、なんて思うはずがない。
僕はさっきの鯉を見る。
どうやら買われていったようだ。
良かったな。
初の鯉は売れた。
僕の初恋も今熟れた。
鯉は昇って竜となる。
僕の恋もあいつにとっていいものなれば、と心から思う。
いかがでしたか。
短かったですよね。
ではまた。