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生き残った男

作者: ありま氷炎
掲載日:2026/10/17

 彼は手遅れだった。

 だけど、そこにあの人が現れた。

 変化しつつある彼を助けた。

 

 与えられた薬によって彼は正気を取り戻した。


「ありがとう」


 そして感謝の言葉を述べた。


 ☆


 始まりは、彼の電話にかかってきた依頼。

 鍵を無くしたから家に入れないということ。

 時間は一時、深夜料金もかかるので、二倍の報酬。

 彼は喜んで車を出した。

 彼の仕事は鍵屋だ。

 どんな鍵も彼の手にかかれば、簡単に開く。


 そうしてたどり着いた先で、彼は動く死体に遭遇した。

 最初は死体だなんて、わからなかった。

 けれども、動きがおかしい上に、出血量が異常だった。

 噛みつかれそうになって、持っていた傘で防御した。

 襲い掛かったきたのは女性で、彼の防御によって転んだ。

 それが「ゾンビ」と言われる類だなんて、思わなかった。

 だって、実際に「ゾンビ」なんているわけがない。

 そう思い込んでいたからだ。

 女性の立ち上がり方が異様だった。

 腕はちぎれて、痛みを感じていない感じ。

 唸り声をあげて再び襲ってきた。

 彼は悲鳴を上げて逃げ出した。

 車に乗り込もうとしたら、今度は別の何かに襲われた。

 噛まれようとした瞬間、銃声が響き、そいつの頭が吹っ飛んだ。


「銃!」


 この日本で銃を持つ人間はレアだ。

 彼は映画やドラマでしか銃を見たことがなかったけど、それが銃だとわかった。


「早く逃げるぞ!」


 その人はそう声を掛けると彼の手を掴んで走り出した。

 二人は深夜の街を駆け抜けた。

 動く死体「ゾンビ」に襲われながら。


 その内二人の間に奇妙な友情が芽生える。

 生死を共にして、おかしくなっていたかもしれない。

 吊り橋効果ということかもしれない。


 二人は生き絶え絶えになりながらも走り続けた。

 けれどもとうとう追い込まれて、その人は彼に言った。


「逃げろ」と。


 逃げなかった彼の足元に貴重な一発を発砲し、彼はやっと逃げ出した。

 

 けれども、一人で逃げられるわけはなく、彼は、とうとう「ゾンビ」に噛まれてしまった。

 傷口が変化していき、身体能力が上がる。

 街を抜けようとしたとき、その人は彼の前に立ちふさがった。


「……エル!」


 その人は彼の名を呼んで、手に入れた薬を彼に打つ。

 変化した腕などが消えていった。

 しかし、残った人の部分では生きていくことが不可能なダメージだった。


「そんな……」

「マックス……」


 彼はその人の名を呼ぶ。


「ありがとう」


 彼は最後に正気を取り戻し、感謝の言葉を述べた。


「だめだ。だめだ!これなら薬なんて撃たなきゃよかった。お前になら殺されよかったのに」

「だめだよ。君は僕の分も生きて」


 彼は最後にそう言うと、動かなくなった。


「エル!」


 マックスが悲痛な声で彼の名を呼ぶが、彼が目覚めることはなかった。


 

 



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