生き残った男
彼は手遅れだった。
だけど、そこにあの人が現れた。
変化しつつある彼を助けた。
与えられた薬によって彼は正気を取り戻した。
「ありがとう」
そして感謝の言葉を述べた。
☆
始まりは、彼の電話にかかってきた依頼。
鍵を無くしたから家に入れないということ。
時間は一時、深夜料金もかかるので、二倍の報酬。
彼は喜んで車を出した。
彼の仕事は鍵屋だ。
どんな鍵も彼の手にかかれば、簡単に開く。
そうしてたどり着いた先で、彼は動く死体に遭遇した。
最初は死体だなんて、わからなかった。
けれども、動きがおかしい上に、出血量が異常だった。
噛みつかれそうになって、持っていた傘で防御した。
襲い掛かったきたのは女性で、彼の防御によって転んだ。
それが「ゾンビ」と言われる類だなんて、思わなかった。
だって、実際に「ゾンビ」なんているわけがない。
そう思い込んでいたからだ。
女性の立ち上がり方が異様だった。
腕はちぎれて、痛みを感じていない感じ。
唸り声をあげて再び襲ってきた。
彼は悲鳴を上げて逃げ出した。
車に乗り込もうとしたら、今度は別の何かに襲われた。
噛まれようとした瞬間、銃声が響き、そいつの頭が吹っ飛んだ。
「銃!」
この日本で銃を持つ人間はレアだ。
彼は映画やドラマでしか銃を見たことがなかったけど、それが銃だとわかった。
「早く逃げるぞ!」
その人はそう声を掛けると彼の手を掴んで走り出した。
二人は深夜の街を駆け抜けた。
動く死体「ゾンビ」に襲われながら。
その内二人の間に奇妙な友情が芽生える。
生死を共にして、おかしくなっていたかもしれない。
吊り橋効果ということかもしれない。
二人は生き絶え絶えになりながらも走り続けた。
けれどもとうとう追い込まれて、その人は彼に言った。
「逃げろ」と。
逃げなかった彼の足元に貴重な一発を発砲し、彼はやっと逃げ出した。
けれども、一人で逃げられるわけはなく、彼は、とうとう「ゾンビ」に噛まれてしまった。
傷口が変化していき、身体能力が上がる。
街を抜けようとしたとき、その人は彼の前に立ちふさがった。
「……エル!」
その人は彼の名を呼んで、手に入れた薬を彼に打つ。
変化した腕などが消えていった。
しかし、残った人の部分では生きていくことが不可能なダメージだった。
「そんな……」
「マックス……」
彼はその人の名を呼ぶ。
「ありがとう」
彼は最後に正気を取り戻し、感謝の言葉を述べた。
「だめだ。だめだ!これなら薬なんて撃たなきゃよかった。お前になら殺されよかったのに」
「だめだよ。君は僕の分も生きて」
彼は最後にそう言うと、動かなくなった。
「エル!」
マックスが悲痛な声で彼の名を呼ぶが、彼が目覚めることはなかった。




