表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不戦の外套〜臆病者と蔑まれた騎士の英雄譚〜  作者: nyancos


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/72

第ニ十ニ話 峻険なる嶺、空からの影

 森を抜けた先に待っていたのは、天を突くような巨岩の群れだった。目指すガンダル砦はこの険しき山岳地帯を越えた先にある。

 

 道とは名ばかりの、剥き出しの岩肌が続く急勾配。隊員たちは自身の装備に加え、砦への補給物資を詰め込んだ背嚢の重みに、一歩ごとに膝を震わせていた。


「……あの、この荷物、中身は岩か何かが入ってんですかね? 肩がちぎれそうだ」

 デニスが、額の汗を拭う余裕もなく吐き捨てた。


「全くだ。森の方がまだ平坦でマシだったな……」

 セドリックが、荒い息を吐きながら力なく同調する。


 英才教育を受けてきたヴァルターも、実戦の行軍には顔を青ざめさせていた。重い背嚢がじわじわと体力を削り、足が止まりそうになる。


「ほら、坊ちゃん。これくらいで根を上げちゃ、砦に着く前に干からびちまうぞ」


 背後から、ガラムの太い腕がヴァルターの背中をぐいと押し上げた。ハーフドワーフの頑強な脚取りは、重荷を背負っているとは思えないほど安定している。


「あーーー……腹が減ったー。ニコ、何かねえのかー」


 ヘルガが腹を鳴らして尻尾を垂らすと、ニコは「朝あれだけ食べたでしょー。もう少し辛抱しなさい」と事も無げに登り続けていた。


 ベリルは鞄から朝食の残りのパンにベーコンを挟んだサンドイッチをヘルガに差し出す。


「やったぜ!さすがは小隊長様!」

 サンドイッチを片手に小躍りするヘルガ。


「もう!小隊長!あんまりヘルガを甘やかさないでよね」

 ベリルの隣にいたルルが口を尖らせる。


「ずりーぞ、ヘルガ!俺にも半分くれよ!」

 ガストンが声を張り上げてヘルガに飛びかかる。


「嫌なこった!全部オレんだ!」

 ヘルガがひらりとかわして、サンドイッチに大口でかじりつく。


「あっ!!てめぇ、このやろう」



「おい、バカ。あんまり騒ぐんじゃねぇ。このあたりはワイバーンが出るって噂だぜ」

 

 ライアンが声を潜めて釘を刺すと、それまで無口だったアルノーがぼそりと口を開いた。


「……ガストンは食いでがあるからな。ワイバーンも真っ先に狙ってくるだろうよ」


 その言葉に、疲弊していた隊員たちの間にドッと笑いが起きた。


「冗談じゃねえ! 俺は食い物じゃねえぞ!」


「だから静かにしろっての!」

 

 顔を真っ赤にして制止するライアンの横で、一行の空気はわずかに和らいだ。


「ふむ……わしももう限界じゃ。ミラ、悪いがこの老いぼれをおぶってくれんか……」


 バルト爺さんが震える手で腰を叩きながら縋り付く。


「自分で歩きなさい。その手、腰に触れたら射抜くわよ」

 ミラは冷ややかに一瞥し、軽やかな足取りで先へ進んだ。




「小隊長、そろそろ限界だ。そこに見える岩陰で一度、呼吸を整えさせてやってくれ」


 マルクが隊員たちの足取りを見て取り、ベリルに声をかけた。ベリルは一度足を止め、風の向きと空の色を確認する。


「……いや、あと半刻だけ踏ん張ってくれ。あそこの張り出しまで出れば、風通しも視界も良くなる。そこで大休止にしよう」


 ベリルは自らデニスの背嚢の一部を受け取ると、淀みない足取りで先頭に立った。その揺るぎない背中に押されるように、隊員たちは再び重い腰を上げる。


 ようやく辿り着いた岩の張り出しは、眼下に雲海を望む絶景の舞台だった。


「……着いたぞ。各自、大休止だ」


  ベリルの号令とともに、隊員たちは競うように背嚢を投げ出した。岩場に深く腰を沈め、肺が痛むほどに冷たい空気を深く吸い込む。


 革袋から滴る水を喉に流し込み、ようやく人心地ついた。 誰もが絶景を楽しむ余裕などなく、ただただ泥のように重くなった四肢を投げ出し、安堵の溜息を漏らしていた。


 だが、その平穏は唐突に打ち切られた。


 上空から、太陽を遮る巨大な影が高速で横切った。 岩を削るような鋭い鳴き声が響き渡り、空気が震える。


「……総員、伏せろッ!」


 ベリルの怒号が、大休止の安堵を切り裂いた。 見上げた空から、音もなく旋回し、その巨大な鉤爪を広げて急降下してくる影があった。

 

 空の支配者――ワイバーン。 運命の悪戯か、疲れ切った第五小隊の頭上を、強大な捕食者の影が飲み込んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ