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008 カオスが呑む

 メルートリア大陸にて盟を結ぶ、「ユニオン・メルートリア」、通称「U・M」もまた、この東イズク大陸の果てにある分断国から端を発する世界大戦の臭いに勘づいていた。イラストリラ合衆国の現大統領が、「大衆迎合」と「反知性主義」が産みだしたキメラであるとしても、あの分断国にて火花を散らして火を起こすとは思えなかったのだが、どうやらその見込みは外れであったらしい。

 キメラは、力尽くで脅すつもりだったのだろうが、あの国が自由圏に入ってしまうのを警戒した周辺国が、これに反発して北沙羅樹国の支援に回ってしまっていた。そうなっても尚、イラストリラ合衆国は自分達が振り上げたハンマーを手放す気配は無い。どうやら、本当にやるつもりらしい。

 クソ、あの国は何でも自分の都合で自分勝手に他人の領域を弄くり回して、それでいて自分は悪くないと本気で思い込んでいる。それが悪意ある偏見であるのは分かっていたが、それでも思わずにはいられない。何が民主主義の盟主で、自由圏の象徴か。迷惑この上ない、我が儘大国である。しかも、国内の製造業がスカスカになっている現状では、「世界唯一の大国」と言う表現も怪しくなっている。


「……それで、その「我が儘大国」に付き合わされる我々「U・M」としては、今後どうあるべきか、話しておきたい」

 ギーラ皇国のカリギリス・ディーゼントスラ首相は、ヘルンストン共和国を筆頭とするメルートリア大陸の国々、大小20カ国の首脳陣に対して訴える。

「勝手にさせたい。高みの見物といきたいところですな。対岸の火事として」

「しかし、けしかけられるでしょうな。あらゆる条件で」

「あの国は、国際条約を次々と破り、あらゆる国際機関から脱退している。自分の都合でしか動いていない」

「勝手にすれば良い。イラストリラ合衆国が潰れたところで、我々にはその状況に対する対応は既に整っている」

 一通り、意見が出たところで、「U・M」の首脳会談は、最終的な答えを導き出した。

「南北の沙羅樹国を道連れとして、イラストリラ合衆国とラシア共和国、それに神華大陸の華党が滅びるように仕向けるのが上策である。今度は我々が「モンロー主義」を貫くべきである」


 その「U・M」の決定に対して、10年ほど前にそこから離脱した、アストラ連邦王国の政府は、この状況を前にして、「関与」か「不関与」かを論議していた。可能な限り、良い条件を引き出した上での参加なのか、あるいは如何なる条件を出されたとしても無視するべきか。

 「U・M」の方は、後者を選んだらしい。では、自分達もこれに続くか。当たり前だ。ラシア共和国を後から討て、なんて要請を、否、命令、これも少し違う、脅迫を受けたとしても、もう自分の手を汚してまで従う必要は無い。どんな「取引」にも応じる必要は無い。それがあのキメラ、ゲーテル・デバイ大統領に対するメルートリア大陸の国々の態度であった。そして、それに対してイラストリラ合衆国は異議を唱える権利はあれども、協力を強いる権利は無い。散々利己主義で自分より立場の弱い人間を傷つけてきた連中を、誰が信用するか。因果はめぐるのだ。


 希林・ブロッサムは、第4艦隊の増派が単なる噂では無く真実であると知って、南沙羅樹国がいよいよ持って、第三次「ジーアス」戦争への途が開いたとみていた。高松之カツタロウ総理大臣がどんなに頑張っても、あの国を説得しきれない。戦後80年、今の関係を構築するのに、南沙羅樹国は多大な犠牲を払い続けてきた。決して安穏とした日々を貪っていたわけでは無く、「戦争放棄」と「平和主義」を達成する為に、時としては「命」すら代償として支払ってきたのだ。

 今もそうだ。これまで80年、「戦争放棄」と「平和主義」を貫いてきたのだ。今度もそうしなければ、南沙羅樹国が80年守り続けた、この鉄則を曲げる事になってしまう。そうでなくても、南沙羅樹国の国防組織、自衛隊では正義のスーパー無敵軍隊、イラストリラ合衆国軍の後方支援くらいしか出来ない。いや、させられない。今から憲法を変えるのでは遅すぎる。

 希林・ブロッサムは、その「正義のスーパー無敵軍隊」が増派した第4艦隊の出迎えとして、首都・桜都の東に広がる海原の上空にて、隊列を組んで待ち構えていた。魔女自衛隊の最精鋭である主力35人は、矢張り主力の魔女40人を艦隊前方にて隊列を組ませてやってくる第4艦隊を出迎える。

 矢張り、大した物だ。海の王者たる6万トン級の原子力空母を中心に据えて、イージス艦が10隻、その他諸々の軍艦が輸形陣を組んで海原を進む。質実剛健、勇猛果敢、あらゆる表現が似合う、世界最後の軍事大国の艦隊としての形を保っている。

 魔女自衛隊からの出迎えと、合衆国第4艦隊の出迎えは、お互いに礼砲とされている電撃を、魔槍を空に向けて撃ち放つ。既に第7艦隊は、別の海上自衛隊の拠点にて待機している。


 この流れに、南沙羅樹国の国民達は、気が付き始めていた。戦乱が近づいている。しかも、この列島を舞台として、北の分断国相手にやらかすつもりだ。その北に対しても、隣国の華党やラシア共和国からの支援と思しき軍隊が続々と乗り込んでいる。

 嘘か。冗談か。あるいは単なる勘違いか。そのどれでもない。ここでやるつもりだ。冗談じゃ無い、やるならば他所であって欲しいものだ。

 メディア検閲も、徐々に広がっていった。やるとしても、自衛隊は後方支援ですよ。これまで通り、日常を過ごせますよ。皆さんの暮らしはスーパー無敵軍隊・イラストリラ合衆国軍が守りますよ。そう言う論調に誘導させ、これに従わないメディアに対しては容赦のない圧力を加えて回っていた。


希林・ブロッサムとミラ・クラックスは、第4艦隊の艨艟を眼下に見下ろして、この戦争の、この惑星「ジーアス」にて行われる、恐らく最後の世界大戦について、お互いの見解を示し合わせていた。

「グレイハウスは本気でやるつもりですか」

「北の出方次第ね。本心では、嫌で嫌で堪らないと言ったところね。うちのボスは利己主義の欲望自然主義だけど、ここで対外戦争に関わって多額の戦費を溶かして、自国の兵隊に戦死者を出すのだけは嫌だろうからね」

「それこそ支持率に響くからね」

「そっちの狸はどんな調子かしら」

「メディア検閲で忙しいわ。自分に都合の悪い情報は意地でも広めさせないと言わんばかりに、ね。SNS検閲も行われている。「戦争」と言う言い回しも認めていないわね。「統一事業」と言葉遊びで弄くり回しているわ」

「何処へ行っても変わらないわね。その「統一事業」、自衛隊は何処まで関わるつもりなの?」

「後方支援・船団護衛、この程度しか出来ないでしょう」

「本当に、それで何とかなると思うかしら」

「無理ね。現場の人間は腹を括っている。そんなに都合良く戦争が展開する筈が無い。戦死者は勿論、市民の犠牲も発生するでしょう。この列島は「自由圏」と「権威主義国」の代理戦争の火で焼かれて、後に残るのは廃墟と骸だけね」

「「U・M」は、一切の軍事的介入を行わないと通達してきたわ」

「当たり前よ、そんなの。泥沼に浸かった末に得られるのは資源も戦略的価値も無い列島だけなんて、割に合わなさすぎる」

「……で、その中で、私達は如何するべきかしら」

「そんなの、仕事として処置するだけよ。役割を担っている以上、これを放棄してしまったら、我が家が80年続けて備えてきた意味が無いわ」

「お互いに、妙な役割を背負わされてしまったわね。お互いに、長生きしたいところね」


 人々は、混沌の前兆を感じ始めていた。これから始まるのは、地域紛争や小国の内戦なんてレベルの騒ぎでは無い。「自由圏」と「権威主義」の最終戦争だ。


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