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003 カオスの前触れ

「メイド・イン・NS」。北沙羅樹国にて生産された商品に刻まれる刻印は、今や世界シェアの3分の1にまで迫っている。東イズク大陸の端にある小さい島国の、更に一部の島国は、海外からの、主にラシア共和国と神華大陸の華党政権の投資家達からの金で造られた工業地帯にて生産されている。

 恵美・マギア。北沙羅樹国魔女国防軍にて、最強と言われる魔女である。その「魔槍」から放たれる火球は、巨大空母に穴を開けるとも言われる威力である。その恵美は、1つの噂を耳にしていた。

「近々、南がイラストリラ合衆国と共に攻めてくる」

 共に攻めてくる。と言うのはあんまり信用出来ない。せいぜい、武器・弾薬・燃料の支援程度だろう。昨今の経済的衰退を前にして、南は相当焦っているに違いない。第二次「ジアース」戦争にて、「終戦工作」が遅れた結果、共産圏に奪われた北海途が、丸ごと別の国になってしまったのだ。それだけならば良いのだが、この10年、20年にて爆発的な経済成長を遂げて、南沙羅樹国に追いつこうとしている。国防費に関しても、3,4倍へと急造されている。

 このペースで成長を見守るだけでは、いずれは北沙羅樹国の主導にて南北統一、なんて最悪のシナリオも考えられる。イラストリラ合衆国が、そんな事を許す筈がないと、どうして言えようか。「同盟国」と「友達」は「=」ではない。利益に見合わなければ、あるいは見合う結果さえ手に入るのであれば、平然と掌を返すのが政治である。

 恵美・マギアは、自分の部下達の訓練を見て、まだまだ動きがしっくりこない様子をみて、「未熟」という見方をしていた。実戦経験が無い軍隊と言うのは、何処へ行っても同じレベルである。一世代に一度は戦争しているイラストリラ合衆国の軍隊とは違う。合衆国は、その為に経済をボロボロにさせているが、構わずに未だに天文学的数字の軍事費をかけている。同じ事は、北沙羅樹国には出来ない。

 しかし、「合衆国の腰巾着」と揶揄される南沙羅樹国が攻めてくるものとして、どんな作戦に出るのだろうか。指導者をピンポイントで狙って抹殺する斬首作戦か、あるいは大名行列の如く北沙羅樹国に侵攻するのか。「限定戦争」か、「全面戦争」か。いや、恐らくは「限定戦争」にはならないだろう。沙羅樹共産党は、書記長を抹殺されたとしても、次の指導者はすぐに用意できる。政府機能はインターネット網により何処へ行っても維持できる。そもそもインターネットは、核戦争にて政府機能を移転する為にイラストリラ合衆国で作られた技術である。

 つまり、「限定戦争」と言うのは、「全面戦争」を避けたい連中が抱く、単なる「願望」に過ぎない。であれば、「全面戦争」になるとみて、間違いはない。悪夢の様な時代の幕開けだろう。戦争になれば、この10年以上に及ぶ経済成長が全部灰燼となるのだ。

 そして、この戦争、恐らく、いや、絶対に10年は終わらない。第二次「ジアース」戦争が終わってから80年、溜まりに溜まった「感情」と「膿」を出し切るのには、10年だって足りないくらいだ。魔戦機軍、魔人軍、全軍合わせても、在沙羅樹イラストリラ合衆国軍に勝てるかどうか。いや、連中が何処まで「南」に付き合うのかどうか。「全面戦争」となった場合、下手を打てば第3次「ジアース」戦争、3度目の世界大戦にも繋がる可能性がある。

 そうなったら、「北」だの「南」だの関係無しに、沙羅樹列島が瓦礫の山となるのだ。「民主主義」と「社会主義」、「資本主義」と「共産主義」が続けた「冷戦」の、最後の一戦が始まるのだ。

 恵美・マギアは、訓練所にて「魔槍」から電撃、火球、衝撃波を撃ち放つのを見ていて、あのうら若き乙女達を戦地に送り込むのには、心が痛む。恵美・マギアは、魔戦機軍と魔人軍が旧ソラージュ連邦の装備を改造・発展させたものであるので、性能はイラストリラ合衆国の最新鋭技術を用いている「南」に比べると、見劣りする部分がある。数で押そうにも、困難である。

 党は、一体何を想定して動いているのだろうか。「南」で言うところの、「挙国一致内閣」だの、「戦時内閣」だの、あるいは「●●対策委員会」だのを設営しているのだろうか。「噂」として出回っている情報であるが、根拠が全く無い訳ではないのだ。それに、もし本当に単なる「噂」であれば、「党」が対応している筈だ。

 であれば、本物だ。「自由社会」と「権威主義社会」の、今世紀最初の武力衝突である。恵美・マギアは、世界で残された唯一のマギア家の魔女として、世界の最期を見送る覚悟を固めていた。

世界の最期。そう、今の世界秩序、社会秩序の最期を、自分達は今見ようとしている。この南北に分断された沙羅樹列島が、その火花になる。世界を燃やす火花となって、そこに無数の血と汗と涙を投げ込む羽目になるのだ。

 法と倫理の時代は終わりだ。ここからは、暴力と混沌の時代の始まりだ。その果てにあるのは、最後の審判か。あるいは、講和の上での共存共栄の道か。生きるか死ぬか。運命を決める戦いになるだろう。

 運命は、自分で思っている程、自分の自由に出来ない。それでも、決めなければならない。どちらが本物の勝利者なのか。


 恵美・マギアの携帯端末に、「党」からの指令が送信されてくる。

「近日中に全軍の後方・支援・前線問わず、全軍の全責任者を集めた上で合議する。1ヶ月ほど、スケジュールを空けるべし」

 こいつは、本物だな。ラシア共和国も、神華大陸の華党も、こんな事態は望んではいなかっただろう。1ヶ月の合議と言うのは、これまでやった事なんて無い。その1ヶ月間、毎日話し合う羽目になるに違いない。その1ヶ月で、何がどうなるのか、これから始まる会議の中で、マギア家の末裔として何処まで出来るのか。なるべく忌憚の無い、現実を話さなければなるまい。

 実際に、血を流すのはこちらなのだから。


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