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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第2章 1年目の混沌
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0013 長く大きなカオス

「馬鹿か、貴様」

 北沙羅樹国共産党書記長、沼田之ソウタロウは平然と目の前に居る自分よりも頭の良い、否、この国で10人中の1人のレベルの秀才に対して、容赦なく言い放つ。

「この戦争が1年で終わるだと? 馬鹿か、貴様。私は最初から10年はかかると見立てているんだぞ。この戦争には、過去の二度に渡る大戦の教訓は通じない。でなければ、開戦劈頭にて空母3隻と言う戦果も、戦爆連合撃退という失敗もなかったんだ。お前らが立てた「統一戦争計画」は、せいぜいその程度の見通しでしか考えられていない」

 なる程、道理だ。だが、これも道理である。この「馬鹿」と言われた秀才はやり返す。

「ですが、我が国の国力にて戦い抜けるのは1年程度です。それを過ぎたら、財政は破綻、経済は疲弊、反体制派の軍事クーデターにて共産党は消滅、然る後に敗北するでしょう。10年も戦ったら、我が国は勿論、南も立ち直れないダメージを負って、二度と立ち直れないでしょう」

「そんな事は分かっている。だが、それがこんな甘い見通しと言い訳に塗れた仕事の理由にはならんぞ。忖度と贔屓でしか出来上がっていない仕事だぞ」

「では、書記長閣下には、1年以上戦って勝つプランがあるのでしょうか」

「嫌味としては二流だし、本音とすれば銃殺ものだが、聞かなかった事にしよう」

「では、どうすれば良いのですか。戦争は数字であり、経済も数字です。足し算、引き算、かけ算、割り算、色々と計算した上で捻り出されたのが、1年と言う数字です」

「で、私にも計算しろと言うのか」

「我々の計算が間違っていると言う意味でしょうか」

「いや、計算は間違えてはいない。ただ、私と諸君とでは、書いている数式が違う。それだけだ。まぁそれは仕方が無い。軍人にしか解けない数式があるのと同じで、政治家にしか解けない数式がある。我々に見えている世界と、諸君の見ている世界とでは、情景が異なると言う事だ」

 ソウタロウ書記長は、なるべく言葉にしたくは無かった。機密に触る。なんて理由ではない。知っている奴はもう知っている。何なら、これを前提にして今後の戦略を立てている奴だって、この惑星「ジーアス」にて居るだろう。

 まさか。とは思うのだが、やっぱり聞いてみたくて、口に出してみる。

「ラシア共和国や華党だけでなく、マンドー国、更に西の砂漠の国々、そしてそこから先に居る「U・M」にも、世界規模の反合衆国連合を組ませるつもりですか」

 沼田之ソウタロウ書記長は、答えなかった。ただ、執務室のドアへと目を向ける。そろそろ出て行け。その目はそう語っていた。


 イラストリラ合衆国の工廠にて、大急ぎで建造が進められている大型護衛空母に取りかかっている工員は、今月の給料を何に使うのかで、休憩時間を潰していた。この大型護衛空母は、コンテナ船やタンカーの船体を残して他を魔改造で空母に近づける、ある意味でチート業を使っていたが、0から造るよりは絶対に早くて、安くて、効果的である。

戦争は、数だ。スポーツでも、ワンマンチームでは1度や2度はジャイアント・キリングが出来るかも知れないが、継続して投資と訓練を繰り返さなければ強くならないのは同じである。国内の製造業が「スカスカ」と言う表現が使われて久しい合衆国ではあるが、だからこそ工夫と知恵で乗り切る必要がある。

 しかし、だ。休憩時間にてこき使われている工員達は言うのだ。この大型護衛空母、沙羅樹国の海にて沈んだ3隻の正規空母の穴埋めで建造が急がれている訳では無い。建造中であった最新鋭原子力空母の原子炉をそのまま流用しているのだが、この工廠に運び込まれている原子炉が、3つでは無いのだ。本来、造るべき最新鋭原子力空母の原子炉が全部運び込まれている。12個も、だ。つまり、この大型護衛空母は12隻造る予定なのだ。

 何処で使うつもりなのか。まさか、新時代の中枢戦力として、現在の原子力空母に取って代わる程の価値があるのか。あくまでも、これは大型ではあるが、護衛空母、即席の大型空母でしかない。安い・早い・美味い、プロティン・ジュースは筋力こそ増強できるが、それに必要なカロリーの消費を前提としている飲み物である。呑み過ぎたら健康を損なう。余程の巨漢で、大きな運動で身体を苛め倒すのでなければ、普通にジュースか、あるいはコーヒーでも飲めば良い。

 そこから導き出された結論は、こうだ。あそこの島国の戦争は、地域紛争では終わらない。あのお下劣な発言と態度「だけ」で出世したタレント政治屋の大統領は、馬鹿の1つ覚えみたいに「すぐ終わる」と連呼しているが、馬鹿が聞いてもすぐに勘付く。この戦争、長く苦しい長期戦になる。最悪の場合、この惑星「ジーアス」全部を巻き込む、3回目の大戦が始まるのだ。

 そして、恐らくあの12基の原子炉、あれで最後の原子炉ではない。もっと必要となるに違いない。何なら、使えそうな州兵も派遣するかも知れない。

 工員達は身震いする。おいおい、と言う事は、俺達これからもずっと残業続きで働かされるのか。戦争だって、勝てるかどうかなんて分からない。終わるかどうかも分からないレベルに行ったら、もうこの国も終わりだ。10年戦争になったら、もうこの国の経済は勿論、財政もスカスカどころか、粉々に砕かれるに違いない。

 10年後も、自分達はやっぱりここでコンテナ船やタンカーを魔改造して遊んでいるのか。あるいは、兵員不足でここから先、何処かに派兵されるかも知れない。どちらにせよ、明るい未来は見えそうにない。

 次の選挙は、どっちに投票するべきか。そんなのは分かりきっていた。沙羅樹国の国運なんて、この際どうでも良い。自由圏の覇権なんて、自分の生活の保障が前提として考えなければならない。

 あのろくでなし大統領の任期は、あと2年もある。2年! 短い人生の中で、2年をドブに捨てるのは勿体ない。なんでこんな理不尽な運命を、自分達に課してきたのか、神様は。全く、あんな奴をまだ支持している連中が居るとは、信じがたい事実であるが、認めなければならない事実でもある。

 さぁ、休憩時間が終わった。給料を貰う為には働かなければならない、働いたら飯を食って、酒を飲んで、そしてまた働くのだ。そのルーティンに耐え抜ける人間にとって、この工廠は生まれて初めて巡り会えた天国かもしれない。


 華党軍の幕僚達は、出て来た今後の戦争計画の試算をみて、汗がポタポタ、モニターに垂らしていた。祖国が、党が築き上げた山の様な富が、溶けて消えていくのが見えていた。こんなの、国家主席に出せるのか。了承するのか、あの国家主席は。

案の定、国家主席の叫び声が、党代表本部の外にまで聞こえる。

「10年!?」

 そう、10年です。現在沙羅樹国の分断戦争が、最短で終わった場合の想定期間は、10年です。

「10年、10年だぞ。子供が大人になるぞ、それだけの時間があれば」

 はい。しかも、最大の貿易相手国であるイラストリラ合衆国を敵に回した上での10年です。

「我が国が溶けて無くなるぞ。そうまでして、あの戦争にて北沙羅樹国に介入し続けなければならんのか」

 もしそれが亡国への道だと言うのであれば、ここで手を引くのも一つの手ですが。

「……いかん。それだけはいかん。既に我が国の地対艦ミサイルを使った北沙羅樹国の作戦で、合衆国の空母を3隻も沈めた。あの下品な大統領に、一瞬でも良いから弱味なんて見せるなんて、論外だ」

では、矢張り。

「今後、軍の幕僚本部の作戦班は、10年の戦役に如何にして耐え抜けるのか、そこを重点的に話し合ってもらいたい。良いか、もう戦火はあがった。後は広がるだけだ。銃後なんてあると思うな。我々が棒きれと石で殴り合う前に、終わらせるのには骨が折れる戦争だが、仕方が無い。もう始めてしまったからな」

 ……了解しました。今後、10年の戦役に耐え抜く戦備計画を研究します。

「ああ、出来るだけ早く頼む。あの島国の北が、そこら中に火種を起こして、火事を広めようとしている中で、その火を一つ一つ消していかなければならないのだ」


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