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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第2章 1年目の混沌
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0012 カオスに落ちる

「ああ、これは駄目だわ」

 恵美・マギアは、思わずそう呟いていた。第1陣での消耗率から、第2陣、第3陣の投入を決断する。と言う取り決めであった。悪手であるとされていたが、今となっては正解であったと感じていた。ポツポツと戻ってくる戦闘機や爆撃機の数を見れば、第一次円津海峡航空戦と呼ばれた大規模な空中戦がどれだけ悲惨な形で終わったのかを物語っていた。

 第1陣にはラシア共和国や華党の空軍中心にて編成されていたが、これは政治的な配慮である。第一次円津海峡海戦にて空母を3隻も仕留める大金星をあげた北沙羅樹国に対して、自分達の「戦後」の政治的立ち位置も考えた上での話であった。北沙羅樹国軍にとっては、迷惑この上ない話である。魔女部隊も投入せずに航空機のみと言うのも、イラストリラ合衆国の最初の一手に対する対抗心である。

 だが、結果はかくの如し。運命という奴は、油断したり欲張ったり調子に乗ったりした奴を許さない。


「大損害ね」

 希林・ブロッサムは、帰還してきた第1陣の戦闘機隊を見やっていた。そこまで派手に減っていない。しかし、0から教えなければならない最新鋭のジェット戦闘機のパイロットが、何人死んだか、何人冷たい海で救助された事か。魔女部隊も、かなり減っているが、戦闘機隊ほどではない。

 やがて、詳しい戦果が報告されてくる。戦闘機36機、爆撃機45機、撃墜確実。対するこちらの損失は、戦闘機19機、魔女11人。爆撃機は確認された戦果の内、大型のものは全て撃墜できた。

 事前に繰り返された、この80年間、共同作戦をとる為に繰り返してきた訓練通りに、敵の戦闘機は質と量、共に安定しているイラストリラ合衆国空軍の戦闘機が引き受けて、大型のデカい的、爆撃機は自衛隊が始末する。その計画通りに行われた作戦は、見事にハマっていた。

 これで借りは1つ返した。イラストリラ合衆国のパイロットは、溜飲を下げる気分であった。奴等は合衆国の力を甘く見すぎている。今本国の造船所にて、あらゆる兵器に優先して完成を急いでいる最新鋭空母が引き渡されるまでに、円津海峡を渡らせて南沙羅樹国に攻め込ませる訳にはいかない。

 幾ら製造業が廃れて、納期を伸ばされるのが常態化していると言っても、今回の最新鋭空母は全くの別物だ。高級志向・多機能型・大型化をひたすら突き進んでいる昨今の兵器とは違い、早い・安い・上手いの3拍子が揃った、大型護衛空母とでも言うべき、既存の新型コンテナ船やタンカー船の船体に、原子炉と格納庫、それに簡単な艦橋を取り付けただけの、安い造りであるが、0から造るよりはコスパは良い。

 船体はコンテナ船やタンカー船をそのまま流用、原子炉もこれから建造予定の最新鋭空母のそれをそのまま流用、急造した飛行甲板には電磁カタパルトを採用、本来ならばコンテナや油を積み込む筈のスペースに急造した格納庫に納められるジェット戦闘機や武器・弾薬・燃料は、正規空母のそれに等しい。急造・急拵え、それでいて求めている性能は備えている。

 これが満足のいく数が揃うまでに、もう1年はかかる。その1年は、自衛隊と駐留合衆国軍だけで抑え込まなければならない。海上自衛隊は西方の海を守るのに手一杯で、使い物にならない。この大型護衛空母の到着までは、持たせなければならない。

 それまでは、当座の戦力で如何にかするほか無い。一度の戦いで10人単位でパイロットを失っていたら、10回の出撃で全滅してしまう。イラストリラ合衆国の空軍でも、そんな状況では戦えないだろう。リスクが大きすぎるし、コスパが悪すぎる。

 お互いに、戦い方を変えるしか無い。第二次「ジーアス」戦争にて行われた大名行列的な戦略爆撃は、犠牲が大きすぎてもう出来ないのは確かであった。幾ら防御力を高めても、空対空ミサイルを受ければ、どんなに分厚い防弾措置をしていても防ぎきれない。

 さて、次はどう手を打つか。これからが、正念場だ。


 首都・桜都にある自衛省では、3隻の合衆国海軍空母を失うと言う序盤の番狂わせから、今回の戦爆連合撃退に至るまでの流れを知って、事前の計画を大幅に塗り替える必要に迫られていた。

 「北の砦」と違って、自衛省には何ら防衛システムは持っていない。ここが攻撃されると言う事は、既に戦争が首都決戦に持ち込まれていると言う事であり、つまりその時点で勝敗は決まっている。見た目は、普通の官公庁の建物である。

 そこでは、その年では最も熱く、最も重要な議題の会議が行われていた。

「この有事における最終的決着点を見出し、そこに至るまでに必要な措置を探り出す」

 それが、この会議の議題であった。ここまでの海戦と航空戦の結果は、この有事が容赦のない消耗戦となり、その消耗にこのままの防衛体勢では戦いきれない。

 戦いに必要な武器は、金で買える。しかし、戦いに必要な思考は、金では買えない。現に、大金持ちのイラストリラ合衆国は緒戦の海戦にて大敗している。戦いに必要な思考を忘れていたのだ。

 さて、合衆国頼みの国防体制は、最早あてには出来ないと判明してしまった。自衛隊は後方支援のみならず、合衆国の空母の補充が出来るまで、その一翼を担って戦うほか無い。して、今の有事に対して、自衛隊は何処まで出来るのか。

 今度は、「一年までなら暴れてみせる」と言う無責任な言葉は出せなかった。そんな事を言わせる軍隊は、せいぜい半年くらいしか優勢に立てないのだ。この有事は、この80年続いた、この惑星「ジーアス」での対立構造が貯め込んだ膿が血と共に噴き出している様な状況なのだ。

 1年で終わる筈が無い。様々な面から、あらゆる可能性を検証した結果、出された結論を見て、自衛省の役人連中は背筋を凍らせる。これを政府に上申すべきか、いや、しなければならない。ここで忖度して緩い結果をでっち上げて上申すれば、それこそ南沙羅樹国もお仕舞いだ。


 南沙羅樹国の高松之カツタロウ総理大臣と、その大臣達は、自衛省が提出したレポートを見て、頭が真っ白になっていた。

「これから先、この南北統一有事は最低10年、最悪の場合は25年程度は続けなければならない」

「北沙羅樹国を武力によって統一しようとした場合、イラストリラ合衆国の助力だけでは不足である。国連にて多国籍軍を編成して攻め込むしかないが、既に国連を合衆国が脱退して2年経つ。協力関係を作り直すのでは、あまりにも時間がかかりすぎる」

「そして、我が国の自衛隊、経済、財政は、10年間の戦争に耐え抜く力は無い。これも矢張り、合衆国一国の支援を頼んで戦うわけにはいかない。「U・M」に対して増援を要請したとしても、同機構にとって地域紛争に過ぎない南北統一有事に介入する見込みは無い」


 カツタロウ総理大臣は、頭を抱えていた。独りぼっちのいじめっ子の金魚のフンとなって6年、いつの間にか金魚と共に窒息死しそうになっていた。ここからどうやって逆転するのか。いや、こんなのは政治的にも軍事的にも邪道である。一大逆転狙ったギャンブルなんて、まともな人間のする事ではない。

気が付けば、四方六方八方、敵だらけである。10年、短く見積もって10年である。この長期戦をどう戦い抜けというのか。北沙羅樹国も、立場は同じであろう。10年も戦い抜けない。であれば、お互いに何処かで手打ちにしなければならない。何を目標として、どうやってそれを達成するべきか。文民統制の建前上、やるべき事はやらざるを得ない。


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