0011 カオスの中の光
円津海峡近隣の基地や飛行場、それに駐屯地、果てには空き地にて急拵えで造った施設にまで、イラストリラ合衆国の軍隊が駐屯していた。特に第一次円津海峡海戦にて失われた空母3隻を母艦としていた300機の戦闘機は、受け入れ先について自衛隊の頭を痛めさせている。魔女軍も、魔戦機軍、それに魔人軍に至るまで、駐在合衆国軍は、円津海峡近隣に分厚く配置されていた。
一挙に3隻もの空母を失ったイラストリラ合衆国は、南沙羅樹国にて海上自衛隊に引き渡し間近の原子力空母を買い取ろうとしたが、「性能が低すぎる」と言う理由にて現場の責任者が反発し、有耶無耶の内に廃案になっていた。もうそろそろ空母の1隻や2隻は、多少の国力を持っている国であれば保有できる時代であっても、南沙羅樹国が戦後80年、久しぶりに建造した原子力空母では、イラストリラ合衆国の空母には到底及ばない。
それに、海上自衛隊は西方の沙羅樹列島の領海を守るのに全力を注いでいる。北東の北沙羅樹国の近海には、第4、第7艦隊の駆逐艦や強襲揚陸艦が展開している。ラシア共和国や神華大陸の華党ヘの牽制と警戒には、海上自衛隊の力が如何しても必要であった。シーレーンが守れなければ、海洋国の海軍として失格であり、前大戦に置ける最大の教訓を守れなかったと言う結果になる。
希林・ブロッサムは、首都・桜都の防衛隊から円津海峡に転戦となっていた。魔女自衛隊は勿論、魔防機自衛隊、魔人自衛隊も、続々と東北地方に進出していた。頼みの綱のイラストリラ合衆国の大東洋艦隊と駐在合衆国軍の柱となるべき3隻の空母は失われている。
なんだかんだで、希林もすぐにこの戦争は終わると高をくくっている部分があったのかも知れない。10年続くと口には出していても、何処かで1ヶ月や2ヶ月で終わると思っていたのかも知れない。
ちょっと待って欲しい。10年も続けば、沙羅樹が統一されたとしても、その全土が廃墟となっていてもおかしくは無い。何なら、更地にされている可能性もある。10年間も戦えるように、自衛隊は勿論、南沙羅樹国の国力や経済も作られてはいない。10年、北と殺し合いを続けていたら、南沙羅樹国はもうこの世に残っていない。
希林・ブロッサムは、北へ向かいながら、思わずにはいられない。これから先、このカオスは何処へ向かうのか。イラストリラ合衆国だって、何時までも付き合うとは限らない。その時点で、こちらも自動的に休戦となるだろう。逆に、もし合衆国が終わらせなければ、20年でも30年でも続けられる。それに、南沙羅樹国は付き合わされるのだ。
そんな状況は有り得ない。と、誰が言えるだろうか。イラストリラ合衆国は、開戦劈頭にて海の王者、空母を3隻も失うという大失態を演じている。潰された面目を保つ為にも、北沙羅樹国の現政権を許す筈がない。全員戦犯として裁判にかけるくらいにはやり返さなければ、その怒りは収まらないだろう。
この10年を、自分は生き残れるのだろうか。自信はない。確信もない。だが、やるしかない。ブロッサム家にて末の娘として産まれた四女から、南沙羅樹国とイラストリラ合衆国との同盟の証として嫁に出されて以来、この土地を、国を、市民を守る為に、この80年、備え続けてきたのだ。
希林・ブロッサムはそう思いながら、円津海峡上空にて、こちらに向かってくる北沙羅樹国だけではなく、ラシア共和国や華党軍の空軍から派遣されたと思しき大型爆撃機も含めた、戦爆連合の大編隊、140機と言ったところだろうか、鋼鉄の怪鳥達がこちらに向かってきているのだ。
近隣のイラストリラ合衆国の駆逐艦からの警報を聞きつけて、偵察に出たら、思わぬ大軍と出会してしまった。恐らく、これは全体の一部だ。まだ第2波、第3波の戦爆連合が待機しているに違いない。こちらは空母を無くして、制空権については厳しい状況が続いている。
一大消耗戦を覚悟していたのだが、まさかここまで激しく戦わされるとは。取り敢えず、今は無線で連絡だ。
円津海峡上空に配置された合衆国戦闘機隊は、今度こそ3隻の空母の仇を討つべく、使えるだけの武器と燃料でもって、これを迎え討つ覚悟であった。自衛隊は勿論、駐在合衆国軍から一切の説明も無いままに、つまり地域住民に対して無断でこの土地にて配置された合衆国軍は、早速準備に取りかかるが、いざ出陣、と言う段階にて、「全機退避」の命令が駆ける。
「燃料も弾薬も少ない中で、これを邀撃するのは困難である」
「3隻の空母無き今、次の3隻の空母にて配置するべき戦闘機とパイロットを、ここで消耗するのは割が合わない」
「駐在合衆国の空軍と魔女軍、それに航空自衛隊と魔女自衛隊に一任するべし」
正しく、これこそが合理主義。これこそが実用主義。数々のカオスの中で、勝ち抜いてきたイラストリラ合衆国が極限の中で絞り出した答えであった。
希林・ブロッサムもまた、その魔女自衛隊の一員として参加する事は出来なかった。北沙羅樹国から攻め込んできた戦爆連合に対抗する為に、既に第1陣の邀撃部隊が出撃した後である。
第2陣、そして予備隊に配置された希林・ブロッサムは、こちらの邀撃部隊の第1陣が、円津海峡の制空権をめぐる戦いに出撃していった中で、あの中で何機が生きて帰ってくるのか。ここから先、10年の戦いの中で、何機が生きて帰ってくるのか。数十人? 十数人? いや、もしかすれば数人?
……死なないでよ。生きて、生き延びて、何度でも戦うんだよ。例え帰れる確立が低い戦いでも、最後の1%にかけて生き延びるのよ。
希林・ブロッサムは、そう思いながら、入れ違いにて出撃していく第1陣の友軍の背中を見ていた。円津海峡の、北の海の水温は冷たい。それでも、最後まで諦めるな。人命軽視、ソフトウェアの軽視こそが、前大戦での沙羅樹国の敗因だ。どんなになっても、迷惑をかけてもいいから、生きる可能性に賭けるべきだ。それこそが、どんなに強い兵器よりも必要な精神である。
生き延びるのよ。どんなになっても、例え負けた後でも生き延びるのよ。死ぬんじゃないよ。それが「臆病」だの「怯懦」だのと蔑む奴には、例え勝ったとしても、誰も感謝もしなければ慕いもしない。絶対に、最後まで諦めないで。




