0010(第1章 完) カオスが来る
恵美・マギアは、「北の砦」の地下3階にて、一昨年打ち上げられた人工衛星の偵察用カメラが写した、イラストリラ合衆国の第4、第7艦隊の大型原子力空母3隻を含む大艦隊を見て、その身が震えていた。武者震い、と言いたいところであるが、それは半分程度だ。残りは、恐怖だ。この2個艦隊だけで、小国を滅ぼす事が出来る。して、北沙羅樹国はどうか。如何見たって小国だ。即ち、今は亡国の危機なのである。
恵美・マギアは、マギア家の家訓を思い出していた。「力こそ正義」。弱い奴には殺される権利しか無いのだ。例え相手が誰であろうと、噛み付いて、引っ掻いて、目を抉って、戦うしか無かろう。幸い、こちらには偵察衛星と言う武器がある。これで敵の動きはある程度は把握できる。
しかし、相手は大軍だ。どうやって迎え討つ。そこで、一つの過激だが、現状こちらが使える唯一の作戦が提案されていた。
「攻撃させれば良いのではないですか」
一瞬、耳を疑うが、仔細を聞くとなる程、理にかなった作戦であった。有りっ丈の武器を、今ある武器を全部使い切っても構わないレベルでやるのだ。ギャンブルである。ここで一発、逆転の手を討つのだ。元々こちとら小国で、普通に大国と、しかも世界唯一の軍事大国と戦えば亡国の途を一直線に辿るのだから、ギャンブルの一つや二つ、乗り越えられないでどうするというのか。
地下3階に集まった北沙羅樹国、華党、ラシア共和国、それぞれの軍幹部の腹も定まったようだ。上手くいけば、イラストリラ合衆国に回復不能に近い損失を与えられる。やってやる。イラストリラ合衆国の最強伝説に終止符を打つのだ。この一撃を理由に全面戦争? 望む所だ。元々売られた喧嘩だ、買ってやろうじゃないか。
円津海峡と、沙羅樹海の北側、双方に展開した、合わせて3隻の大型原子力空母から飛び立った260機の爆装したジェット戦闘機は、北沙羅樹国の各地域に散けた基地、飛行場、駐屯地、軍事拠点を全て一撃の下に撃破する。艦隊の護衛は、合計40機の戦闘機と魔女80人が受け持つ。その80人の中には、ミラ・クラックスも混ざっている。
空爆だけで、全てを決めてしまおうという、この惑星「ジーアス」では最大級に豪華な作戦だ。他にも幾らでもやり様があるのに、第4、第7艦隊は、あえてこのやり方を選んだ。この「ジーアス」の各地にて存在している、北沙羅樹国の同類達に対して、イラストリラ合衆国の強さを示すのが目的である。
しかし、時間が流れていく内に、現場に飛んでいった戦闘機のパイロット達から悲鳴みたいな、悲鳴そのものな報告が続々と齎される。
「敵が居ない」
艦隊司令官の頭が、真っ白になる。自分達が基地諸共叩くべき「敵が居ない」。と言う事は、入れ違いになって敵がこちらを攻撃してくるに違いない。
第4艦隊の1隻に、第7艦隊の2隻の空母に、イージス艦がそれぞれ10隻程度、護衛の戦闘機40機、魔女が60人、護衛として張り付いている。防空システムの完成形と言えるイージスシステムであるが、飽和攻撃を加えられたら、何処まで守り切れるのか。分かった物ではない。
「ケルピー。こちらハリス。見つけた。合衆国の艦隊だ。ウジャウジャ居る。中央に一際デカい船がある。ありゃ空母だ」
「ハリス。こちらケルピー。全軍、空対艦ミサイルを全弾、空母に浴びせてやれ。地対艦ミサイルも発射準備が整った。発射した後は、全機、全速で退避しろ」
「ケルピー。こちらハリス。了解した」
来た、来た、来た。遂に来た。空の向こう側から、雨霰とミサイルが飛んでくる。こちらの空爆は完全にスリー・ストライクだ。いや、敵が逆転のサヨナラ勝ちを決めたのだ。ミラ・クラックスは、出来る限りのことをするつもりであったが、あの数だ。1発や2発は命中する覚悟がある。そして、空母には航空機用燃料、ミサイル、爆弾、その他諸々の爆発物をタップリ積み込んでいる。1発でも当たれば、終わりだ。
護衛のイージス艦は全力を尽くした。現在開発中のレーザー兵器が導入されていたら、全て撃ち落とせていたかも知れない。40機の戦闘機も、持てる空対空ミサイルを全て使って対処した。
4発、7発、5発。それぞれの空母に命中したミサイルは、以上である。地対艦、空対艦ミサイルは、その性能を遺憾なく発揮した。可燃物と爆発物をタップリ積み込んだ空母には、致命傷である。
使われたミサイルは、各空母に約300発ずつである。護衛のイージス艦の性能を考えると、その面目躍如である。そもそもが、被弾を想定していない設計の昨今の空母で、1発でも対艦ミサイルが命中すると言うのは、即ち「死」を意味する。
ネブラティス・ハリーネ。
ゲルツ・バーク。
デスタン・ハンニブルク。
沈んだ空母は以上3隻だ。幸い、出撃させた260機の戦闘機は南沙羅樹国の飛行場まで緊急着陸させられた。ある意味で、最も大事な戦闘機とパイロットは無事であった。
だが、イラストリラ合衆国の面子は丸潰れである。基地、飛行場、駐屯地、軍事拠点は潰せたが、肝心の敵軍は逃した。のみならず、こちらの主力は全滅したのである。
ミラ・クラックスは、炎に包まれて、取り残されたクルーやスタッフと共に炎上している空母を見下ろす。ガッデム。これでもう、後戻りは出来ない。北沙羅樹国がこの地上から消えてなくならない限り、戦争は終わらない。
10年戦争。自分では予感でしかなかったのだが、もしかすれば本当に10年続くかも知れない。10年もこんな事していたら、イラストリラ合衆国は今度こそ世界一位から転がり落ちるかも知れない。いや、落ちるところまで落ちる可能性だって十分にある。
どうやら、審判を下されているのは北沙羅樹国ではなく、イラストリラ合衆国の方なのかも知れない。沈んでいく空母を見下ろしながら、ミラは自分の中に芽生えた不吉な予感を払拭する事が出来ずに居た。




