001 カオスの申し子
自由の国。それはカオスから産まれた。メルートリア大陸から流れてきた大勢の移民達が辿り着いた新大陸、後に「イラストリラ合衆国」と呼ばれる国家が建国される大地の土を踏んでいた。
彼女の一族のルーツは、メルートリア大陸の北方であった。北の蛮族、後に海賊となった野蛮人の血筋だ。その後、王国の王家に仕える魔女の血族として、代々王家に仇なす敵を討ち滅ぼしてきた。
アストラ連邦王国、ギーラ皇国、ヘルンストン共和国、あらゆるメルートリア大陸の国々から、一攫千金の為に、生活の為に、借金の為に、次々と様々な人種や国籍の移民達が、現地住民の土地を奪いながら、自分の生活圏を広げていた。そのカオスの中、メルートリア大陸にて戦乱相次ぐ事態となった時、イラストリラ大陸の植民地への苛税を課していた。
ブロッサム家は、その混乱の中で産まれてきた。合衆国陸軍を象徴する魔女の血筋は、2度にわたるアストラ連邦王国に対する独立戦争にて多大な貢献を合衆国陸軍に齎していた。その雷は、あらゆる鉄を溶かし、貫き、その先に居る人間を黒焦げにしていた。
ブロッサム家は、その後のイラストリラ南北戦争に置いて、北軍について南軍を破っていた。そのイラストリラ合衆国の歴史上、最も大勢の犠牲者を出した戦争にて、ブロッサム家も4子の内、2子を失っていた。
移民が造った国家は、大陸を西へ向かい、次々と領地を広げていき、遂に大東海と呼ばれる海にまで辿り着いていた。
この国は、結局、カオスなままに有り余るパワーを前へ、前へと向け続けるしかなかった。このカオスこそがイラストリラ合衆国の本質である。荒々しく、躍動するその力こそが正義である。勝つ為ならば、どんな手段も正当化するその傲岸不遜な思考も、その有り余るパワーの為せる業である。この力こそが、良い意味でも悪い意味でもイラストリラ合衆国を世界トップにまで押し上げた原動力であった。
その後、世界は2度に渡る大戦争、惑星「ジーアス」での最大の戦争、第一次「ジーアス」戦争と第二次「ジーアス」戦争と言う、より大きなカオスに叩き込まれていた。カオスこそが、イラストリラ合衆国の独壇場である。そして、相手はファシズムを標榜するハルド党が支配したギーラ皇国。これに最後まで抵抗しようとしているアストラ連邦王国と組んで、「自由世界の為に」と言う宣伝文句の元に、東メルートリア大陸を支配したギーラ皇国と、そしてその後に沙羅樹と呼ばれる東イズク大陸の島国の2正面作戦での戦い、究極のカオスの中で、その有り余るパワーを炸裂させていた。
第二次「ジーアス」戦争は、自由圏の勝利に終わった。ただ、もう1つ、敵が残っている。それも、これまでに対してきた敵の中で、最も強い奴である。
その「最も強い奴」もまた、カオスから産まれていた。政治を担っていた帝室により領民に苛税と苛政を課されて、搾取され続けた民衆の怒りを買い、そして不信と憎悪を売っていた。負債が返済出来なくなる程に大きくなった頃には、惑星「ジーアス」にて初めての共産主義国家の産声が、巡洋艦「エース」の礼砲と共に天高く轟いていた。
こうして、このラシア帝国は革命軍と反革命軍、更には共産主義を打ち倒す為に世界各国から派遣されてきた軍隊、これらの軍隊が中世並の兵站感覚でもって、国民の大半を占める農民に対する略奪・虐殺・暴行が横行し、国は乱れに乱れた。
そこには、もう愛国心も義務感も社会性も無い。あるのは欲望と憎悪と暴力のみである。金持ちは「ブルジョア」と呼ばれて抹殺の対象になり、眼鏡をかけただけで「インテリ」と言われて殺されて、金持ちは無論、富農さえ抹殺するカオスの中で、赤軍についた魔女の一族、マギア家は1つの家訓を頭上に頂いていた。
「力こそが正義」
マギア家は、それだけを信条にして戦い続けた。特に第二次「ジーアス」戦争にて、この家訓は間違いでは無かったと証明されていた。民族優位を掲げて、ラシア民族を「劣等民族」として滅ぼす為に進軍してきたギーラ皇国との地上最大の、歴史上最悪の地上戦を戦い抜いた。
1千万人以上が、戦争が終わるまでに死んだ。ギアス家の魔女の一族は、魔人や魔戦機と共にギーラ皇国はイラストリラ合衆国の支配する西側と、ラシア帝国改めソラージュ連邦が東側を支配していた。
分割統治。国にとって最大の悲劇であり、最大の屈辱である。味方であり敵でもある。どちらも自分が一番正しいと思っている状況である。
その分断国家が、もう2つ、東イズク大陸に存在していた。悠大半島が南を自由圏、北を共産圏にて分断され、沙羅樹国のもっとも北の大地にある北海途に建設された共産主義勢力国家、通称「北沙羅樹」と呼ばれる国家が成立していた。
ブロッサム家とマギア家。自由圏と共産圏にそれぞれ輩出された魔女の一族は、南北の沙羅樹国に、それぞれ1人ずつ嫁に出されていた。
それから、80年もの年月が過ぎた。ソラージュ連邦は既に「国家再建計画」の名の下に強引に行われた民主化、資本主義化により消滅・崩壊・衰退の一途を辿っている。神華大陸を支配する華党が、共産主義から資本主義へと国家のシステムを切り替えて、著しい経済発展を遂げていた。ギーラ皇国改めギーラ連邦共和国も統一されて久しい。
その時代のうねりの中で、北沙羅樹もまた華党と同じ様に一党独裁による社会主義を保ちつつも、経済的にも軍事的にも南沙良樹のそれに追いつこうとしていた。神華大陸のバブルが弾けてしまい、行き場を失った資金が、安い労働力を多く持つ北沙羅樹に注ぎ込まれた結果、「失われた世代」を抱えた南沙良樹を越える勢いを与えていた。
悠大半島の南北でさえ統一されたというのに、沙羅樹列島は未だに分断されたままであった。しかも、経済力・軍事力にて社会主義勢力である北沙羅樹が、南の自由圏よりも上回ろうとしていたのだ。




