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感染症専門医神尾と外科医滝岡――― First Contact ―――  作者: 御厨つかさ(TSUKASA・T)


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7/8

First Contact 7


「――――…」

「どうしたんですか?」

僅かに天井をみるようにする滝岡に、神尾が訊ねる。

「いや、なんでもない。きつい所は無いのか?」

「きつくないと困りますよ。動きにくいのは欠点ですね。露出はどうでしょう」

神尾の言葉に滝岡が見直す。露出がないか、――患者の体液や咳による飛沫等に身体の露出してふれてしまう箇所がないかどうか。ゴーグル等の隙間を確認して滝岡が神尾をみる。

「大丈夫だ。先に陰圧室にいって稼働を確認しておく。モニタ室にいるから連絡はそちらにくれ」

「はい」

防護服を着用した神尾が頷いて、先に出ていくのに少し遅れて廊下へ出て。

「――――…」

もう振り向きもせず患者のいる処へと向かっている神尾を見送って。踵を返すと、背を向けて陰圧室へと向かう。



「滝岡先生っ!どうして私に黙って、陰圧室なんかへいってるんですか!」

「っ、――」

滝岡が陰圧室の稼働を確認して、モニタ室へ入った途端。

 響いてきた声に滝岡がスピーカになっている内線をみつめる。

それから、そっと離れようとしているのがみえるように。

「滝岡先生、いらっしゃるのはわかってます。内線に出てください!」

「どうして、…そうか、警備室か」

「滝岡先生!」

そーっと手を少しだけ受話器に伸ばそうとして。ライトの表示に、隣室の病室がみられる硝子窓に顔を向けて、滝岡が内線に応答するボタンを押す。

「もう患者が来る。後でな」

いうと、簡単に内線を切り陰圧室に入って来る患者を乗せたストレッチャーと高井先生、看護師、それに。

防護服を着て患者に屈み込むようにして付き添っている神尾をみる。

「―――…」

熱を持っているのがみるだけでもわかる患者の様子を厳しい視線で観察しながら滝岡が患者を診察していく神尾を見つめる。



 丁寧に診察をおえた神尾が高井と話をして合図をするのを、大きな窓越しにみて滝岡がモニタ室を離れる。

「それにしても、すごいですね、この設備。レベル4に対応できますよ」

「――――…できなくていい」

防護服を脱いで、クリーンルームを通ってモニタ室に初めて入った神尾が感心して設備を見廻していうのに滝岡が睨む。

 隣室の陰圧室が二重ガラスの窓の向こうに観察できる大きな窓に、目を丸くして近付いていく。

「凄いですね、本当。真面目にレベル4いけますよ」

「だから、いけなくていい!」

レベル4―つまり、エボラや何かといったこれまで発見されている感染症の中では一番危険度の高いウイルス等による感染症にも対応できるといっている神尾に滝岡が即座に否定するのを無視して。

 神尾が、感心しながら設備を見廻す。

「この設備は独立してるんですね。他の棟とは繋がってなくて空調も全部完結してるんですか?」

「…してるよ。それが?」

いやそうにいう滝岡に神尾が不思議そうにいう。

「感染症指定病院じゃないですよね?」

「ないな」

空調設備を共有しないことはエアコン等の設備からウイルスが拡散するのを防ぐことができる設計になっていることを意味する。

 勿論、それ以前に空調等に広がらないようにすることが当然必要だが、事故が起きて空調に漏れが広がった際にも他の設備に影響を及ぼさず完結できる設備であることも意味している。

 感染症を隔離する為の設備がある指定病院でも厳密に徹底できている施設がどれだけあるかを考えて、神尾が不思議そうにいう。

「どうしてなんです?これだけの設備、研究施設でも持ってる所は少ないでしょう」

「…―従兄弟に医療設備関連の会社の奴がいてな。あいつに買わされたんだよ」

「…それは、――随分な投資だと思いますが」

神尾が思わず絶句していると。

 苦虫を噛み潰したような表情で滝岡がぼそぼそと続ける。

「…安くはなったんだがな。格安というか、…あいつの実験用みたいなものだ。うちが提供してるのは土地位だ」

「そうなんですか?でも、設備費込みで十億はいかないでしょうが、…近い数字にはなるでしょうに」

「なんで詳しいんだ」

「JCDCにいましたからね。あそこにこれだけの設備があれば、…」

「それより、患者の容態はどうなんだ」

あきれてみる滝岡に一つ頷いて窓に近づく。

「ああ、これですね。驚いたんですが、こちらから患者さんの体温とかがモニタできるんですね」

「そうだが、…――おい?」

驚いて数値を確認する滝岡に頷く。

「そうなんですよ。下がってます。体温が、――ここへ来たときは三十八度五分あったそうですが、…――」

「それは、もしかして、」

「三十七度、――もしかしたらですが、…はっきりとはしませんが、徴候もあったようなので、…」

「マラリアか?」

滝岡に向き直る。

「はい、その可能性はあります。ここでは、簡易試験はしていないんですね?」

マラリアの簡易検査キット――マラリア流行国の医療機関なら標準的に備えているマラリアの簡易判定を出せるセットについて訊ねる神尾に滝岡が首を振る。

 日本ではその検査キットを標準的に備えている病院はなく、実際に診断用に使用できる為の許認可も降りていない。あくまで補助的に研究機関等で使用されているものになる。一般の病院で備えていることはほぼ無いといっていい。当然ながら例外ではなかった此処でもそのキットは置かれていなかったことを思い起こしながら滝岡がいう。

「残念ながら、そのキットは無いからな。それも向こう任せだ」

その言葉に神尾がうなずく。

 簡易キットはあくまで補助であり、実際には患者の血液から培養して鑑定する。その鑑定にはどうしても時間が掛かる為、事前検査としてこちらへ運んできて使用することもあるだろうが。

 何れにしても今回は検体を運ぶこと、そして検体を簡易検査することで感染のリスクが高くなることを避けたのかもしれない、と思いながら。

 慎重に症状を思い起こして神尾がくちにする。

「どのマラリアかはまだわかりませんが、旅行歴をきいたら、チュニジアに行く前に西アフリカを数カ国旅して最後にチュニジアを経て帰国したようです」

「…――マラリアの流行国は通ってるのか」

海外で流行している感染症について、大まかに頭に入れている地図を思い起こしながらいう滝岡に淡々という。

「潜伏期間をあわせても、どちらもありえますね。唯、エボラは心配しなくてもいいようですよ?」

「していない!…まったく、――マラリアだと、治療は開始しなくてもいいのか?あの辺りは熱帯熱の方が多いんじゃないのか?」

あっさりエボラ等と言い出す神尾に身構えてから、心配そうにくちにする滝岡に。

「大丈夫です。保水等の点滴は始めています。感染研でマラリアなら原虫のタイプも決定してくれますから、それを待っても。熱帯熱等で起きる危険な症状はいまは出ていないようですからね。尤も慎重にモニタしていかなくてはいけませんが。腎機能についても今後の状態を慎重にみていかなくてはなりません」

神尾の言葉に滝岡が額に手を置いて目を閉じて俯きひとつ息を吐く。

窓越しに患者をみる。

「…マラリアか」

「可能性です。確定を待たないといけません」

「――――…だな」

大きく息を吐いて滝岡が患者を眉を寄せてみる。

隣に座って患者の体温や脈拍のモニタをみながら神尾がしずかにいう。

「安心したんですか?」

「できるか。だが、―――マラリアなら、早く治療したいな」

心配そうに患者をみる滝岡に神尾が微笑む。

「大丈夫ですよ。おそらくですが三日熱マラリアの可能性が高いと思います。以前診た患者と似た徴候が出ていますから。対症療法は既に行っています。薬剤耐性の問題もありますから鑑定を待って投薬を開始しても。それに、治療の為に投薬するにしても、――マラリア治療用の薬剤はこちらには?」

通常、流行国ではない日本の病院では常備されていない治療薬について訊ねる神尾に、我に返って滝岡がまたたく。

「…―ないな。手配してくれるか?希望の物を手配してくれていい」

「わかりました。使用に備えて、併用の薬剤を手配させてもらえれば。こちらの事務は通さなくても?」

神尾の問い掛けに滝岡が即答する。

「後で良い。そっちの方がはやいならな。どうだ?」

「そうですね。いまの症状などを伝えてもいいですか?JCDCの方からの方がはやいか訊いてみます」

「勿論、頼む」

神尾が外線に掛けるのをみてから滝岡が内線をかける。

「事務長か?マラリアの、そう、マラリアだ、――確定はしてない。治療薬を頼むことになるかもしれない。どのくらい入手に掛るか、教えてくれ。神尾の伝手で頼む方が早いなら事務処理を後にする。ああ、頼む。すまない、…それから高井先生と箕部さんの方に」

滝岡が顔を上げ陰圧室で眠る患者を注意深くみる。



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