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旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?  作者: 木山楽斗


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第11話 幸運な訪問

 私とバルハルド様は、ラプリードの家に戻って来ていた。

 そんな私達を迎えてくれたのは、エルガドだ。


「それで、バルハルド様の故郷はどのような所だったのですか?」

「とても良い所だったわ。空気も澄んでいて、それに皆大らかで……」

「別にそれ程特別な所という訳でもないのだがな」

「良い所であるということは否定されないのですね?」

「それは当然だ。故郷だからな」


 アキードの村の人達が開いてくれた宴会は、とても楽しいものだった。

 私のことも心から歓迎してくれていたみたいだし、本当に素敵な村であるとしか言いようがない。


「ここからそう遠くはない所なのですよね? 僕もいつか、行ってみましょうか……」

「そういうことなら、今日付いて来ればよかったのではないかしら?」

「いえ、流石にお二人の邪魔はできませんよ。レスティア商会でのお仕事もありましたし……」

「……それについて、聞かせてもらおうとしようか」


 エルガドの言葉に、バルハルド様は真剣な顔をした。

 今日、エルガドはレスティア商会の本拠点に赴いていた。彼はこれから、そこで働くことになる。その感触が、バルハルド様は気になっているのだろう。


「もちろん、まだ初日であるのだから、仕事というよりも説明ではあっただろうが、印象などを聞いておきたい」

「そうですね……まあ、簡単な仕事ではないと思いました。ですが皆さんとても親切で、正直とても良い職場であると思いました」

「……俺には色々と伝手がある。もしもお前が異なる仕事を望んでいるなら探すが」

「いいえ、レスティア商会で働かせてください」


 どうやらエルガドにとって、レスティア商会は好感触だったようだ。

 それなら何よりである。バルハルド様がトップの商会なら色々と融通も利くだろうし、複雑な立場であるエルガドにとっては、最良の職場であるだろう。


「無論、俺からすれば断る理由があるという訳ではない。お前には、それなりの知識があるようだしな……」

「はい、父上の厚意で軟禁中は本ばかり読んでいましたから、知識はあると思います。もっとも、それらの知識を使った経験などはありませんが」

「知識というものは、どこかしらで役に立つものだ。それを蓄えたお前のことを俺は価値があるものだと認識している」

「バルハルド様にそう思われていただけているのは、嬉しいです」


 エルガドは、バルハルド様の言葉に笑みを浮かべた。

 彼ならきっと、レスティア商会でも活躍するだろう。その笑顔に私は、そのようなことを思うのだった。




◇◇◇




 諸々と仕事があるらしく、バルハルド様はエルガドとともにレスティア商会の拠点に行った。

 その間、私は家に一人ということになる。少し寂しい気もするが、今はこの時間を有効に使いたい所である。


「まあ、やっぱり掃除するべきよね……生活している限り、汚れる訳だし」


 ラプリードのこの家は、それなりの広さがある。掃除をするとなると、中々に骨が折れるというのが正直な所だ。

 とはいえ、貴族の屋敷の大きさを考えれば、そこまで広くはない。別に一人で掃除しても、そこまで時間はかからないだろう。

 問題は、私にそういった能力がないということだろうか。掃除なんて、今までは使用人に任せていた訳であるし。


「そうやって考えてみると、私には生活能力がないものね」


 バルハルド様を見ていると、なんというか自分が情けなくなってくる。

 今まで私は、貴族としての地位に甘えていたのだろう。もう少し自分で何かをするということを、身に着けるべきだ。

 だからこそ掃除などをやる気になった訳である。だが、方法を間違えた結果、何か取り返しのつかないようなことをしてしまう可能性を考えて、今は少し尻込みしてしまっているのだ。


「……あら?」


 そこで私は、戸を叩く音がしていることに気付いた。

 誰かが訪ねて来たのだろうか。これは私が対応しなければならない。

 来客の相手などは、貴族であっても行うために特に緊張する要素はないだろう。しかし一体、誰が訪ねてきたのだろうか。


「今、開けますから、少々お待ちください……」

「おやおや……」

「あ、えっと……」


 私が玄関まで行き戸を開けると、そこには初老の女性がいた。

 その女性は、私の顔を見て目を丸めている。そういう反応をされるとは思っていなかったので、私も少し面食らってしまう。

 ただ、考えてみればその反応はおかしいものでもない。ここがバルハルド様の家だと知っている人にとって、私は訳がわからない人物だからだ。


「どちら様、ですか?」

「ああ、ごめんなさい。私は、パルセットというものですが……」

「パルセットさん……ああ、バルハルド様からお聞きしています。この家の掃除などの管理をしてくださっている方ですよね?」

「ええ、そうですそうです」


 女性の名前を、私は聞いたことがあった。

 バルハルド様が話していたのである。自分がいない間この家を管理している人の名前が、パルセットであるということを。

 ただ、彼女が訪ねて来ると聞いてはいない。バルハルド様なら、予定を間違えるなんてこともないだろうし、どうしたのだろうか。


「パルセットさん、私はリメリアといいます。バルハルド様とは、婚約させてもらっています」

「婚約、ですか……婚約? バルハルド様が?」

「ええ、まあ、そうなんです」


 私は、パルセットさんに自分の素性を明かした。

 すると彼女は、目を丸めている。やはりバルハルド様は、人から婚約などはしないと思われていたらしい。


「てっきり、生涯独り身を貫くものだと思っていましたが……」

「皆さん、そう言いますね……」

「ああ、すみません」


 パルセットさんは、ばつが悪そうな表情をしていた。

 バルハルド様に失礼なことを言ってしまったと思っているのだろう。

 そういう表情を見ていると、私も罪悪感を覚えてしまう。私も、バルハルド様がそういう雰囲気がある人だと思ってしまっているからだ。


「まあ、気持ちがわからない訳ではありませんからね……それより、パルセットさんはどうしてこちらに?」

「ああ、この家は普段誰も住んでいないでしょう? だから時々、様子を見に来ているんです。近頃は空き巣なんかもいて、色々と物騒ですからね」

「そうですか。それはありがとうございます」


 パルセットさんは、任されていること以上にこの家のことを気遣っているらしい。

 その辺りのことも、バルハルド様が話していたことから、なんとなく理解することができる。


『この町に来て、右も左もわからない時にパルセットさんにはお世話になった。レスティア商会の者達には申し訳ない限りだが、俺がこの町で最も信頼できるのは彼女だ』


 パルセットさんとは、結構長い付き合いであるようだ。

 かなり信頼しているようだし、この町における母親のような存在なのかもしれない。それはパルセットさんにとっても、同じということだろうか。


「でも、バルハルド様はこちらに戻って来ていたのですね。それも、こんなに可愛らしい婚約者さんを連れて……」

「お上手ですね、パルセットさんは……ただすみません、お知らせするのが遅くなってしまって」

「いえ、構いませんよ。バルハルド様もお忙しい方ですからね」


 バルハルド様の信頼している方には、当然挨拶に伺わなければならなかった。

 ただお義母様のお墓参りがあり、今日はどうしても外せない用事であるらしく、先送りにせざるを得なかったのである。

 パルセットさんは笑って許してくれているが、やはり申し訳ない。なんというか、私はいつも二手三手遅れているような気がする。


「所でリメリア様、その恰好ですが……」

「格好? あっ……」

「もしかして、お掃除ですか? よろしかったらお手伝いしますよ?」


 私が掃除するためにエプロン姿だったのを見て、パルセットさんは笑顔でそう言ってくれた。

 それは私にとって、とてもありがたい提案である。少々気が引けるが、ここはその厚意に甘えた方がいいのかもしれない。




◇◇◇



「パルセットさん、本当にありがとうございます。お陰で助かりました」

「いえいえ、お気になさらないでください。どうせ今日は、暇でしたから」


 パルセットさんに指導してもらいながら、私は家の掃除を終えた。

 やってみるとわかったが、そんなに恐れるものではなかったといえる。もちろん、きちんと綺麗にするのは難しいことではあるが、少なくとも尻込みする必要はなかっただろう。

 しかし、パルセットさんには申し訳ないことをしてしまった。私のせいで、推定休日を潰してしまったのだから、ここは何か補填をバルハルド様に頼むべきかもしれない。


「それにしても、リメリア様がわざわざ掃除するなんて、意外でした。てっきり、使用人の方々に任せるものだと思っていましたが……」

「こちらに来るまでは、私もそれでいいと思っていました。ただ、バルハルド様を見ていると、自分でやれることはやった方がいいと思うようになったんです」

「それはご立派ですね。流石は、バルハルド様が選んだ方……という言い方は、失礼でしょうか?」

「いいえ、私にとっては賞賛の言葉です」


 パルセットさんは、バルハルド様のことをかなり信頼しているようだった。

 それは当然のことだといえる。バルハルド様は信頼できる人なのだから、長い付き合いをしていれば、そうなるものだろう。


「といっても、掃除なんかどうしたらいいかわからなくて、悩んでいたんです。パルセットさんが訪ねて来て下さったことは、私にとって幸運でした」

「そんなことを言っていただけるなんて、なんだかとても嬉しいですね。でもそういうことなら、いつでも私を頼ってください。花嫁修業なんて大げさかもしれませんが、そういった事柄なら教えることができます」

「そうですね。せっかくですから、お願いしましょうか」


 パルセットさんから色々と習うことは、私の今後に活かせるような気がする。

 レスティア商会を率いるバルハルド様を支えたい。それが今の私の気持ちだ。

 となると、こういった家を預かるというのも私の役目だといえる。それらを学んでおくことは、きっと有意義であるだろう。


「しかし、本当に安心できます。バルハルド様に、リメリア様のような方が嫁いでくださるなんて……」

「そんなに大袈裟なことではありませんよ。私なんて、別に普通ですから」

「いえいえ、リメリア様はご立派な方です。どうかこれからも、バルハルド様のことを支えてあげてください」

「ええ、もちろんです」


 パルセットさんの言葉に、私は力強く頷いた。

 変な形になってしまったが、彼女に認められたことは嬉しいことだ。これは帰って来るバルハルド様に、良い報告ができるかもしれない。

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