第0話 『終わり、そして始まり』
はじめまして!!!
作者の夜月ゆるです。
本作は私の初めての作品で、至らないとこらだらけだと思いますが、
どうかあたたかく見守ってくださると幸いです。
アドバイス、感想などじゃんじゃん送ってください!
お待ちしています!
それでは、彼らの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
俺――神谷悠真は、どこにでもいる平凡な社会人だった。
毎日同じ時間に起き、満員電車に揺られ、デスクに向かって数字と格闘する。
家に帰れば一人きりの狭いアパート。
恋人もいなければ、親しい友人もいない。
そんな味気ない日常の中で、俺にとって唯一の救いがあった。
それはーー学生時代からやり込んでいる、一本のRPGゲーム。
『エターナル・クエスト』――理不尽なほどの強敵が待ち構え、プレイヤーを容赦なく叩きのめすハードコアRPGとして悪名高いそのゲームを、俺は何千時間もプレイしてきた。
攻略サイトを読み尽くし、自分でデータを集め、ありとあらゆるルートを試した。戦術やキャラクターの特性を徹底的に研究し、深夜遅くまで画面に向かい続けた。
そして、ついにやり遂げたのだ。
全プレイヤーの1%にも満たない者だけがたどり着けるという「魔王ルート」のエンディングを。
「クリア……やっと、やっとクリアしたぞ……!」
深夜三時。小さなアパートの一室で、俺は一人、モニターに向かって拳を突き上げていた。
疲労困憊だった。三日間、ほとんど眠らずにラスボス戦に挑み続けた結果がこれだった。でも、達成感は何物にも代えがたい。
「さて、明日も仕事か……」
重い体を引きずるようにして部屋を出る。
コンビニで缶コーヒーを買って、それで目を覚ましながら会社に向かうつもりだった。
しかし、俺の人生はそこで唐突に終わりを告げた。
横断歩道を渡っている最中、猛スピードで突っ込んできた車。
ヘッドライトの眩しい光、激しい衝撃、そして――暗闇。
意識が薄れゆく最後の瞬間、俺の頭にはなぜかゲームの最終戦の映像が浮かんでいた。
魔王として君臨し、勇者と対峙するあの場面が……。
「……ここは?」
目を開けた時、俺は見知らぬ場所にいた。
薄暗い石造りの大広間。天井は高く、壁には古めかしいタペストリーが掛けられている。そして正面には、巨大な鏡が設置されていた。
体を起こそうとして、違和感に気づく。
体が軽い。いや、軽いというより……なんだか力強い感覚がある。前世の貧弱な体つきとは明らかに違っていた。
恐る恐る鏡に近づく。
そこに映っていたのは――
「……嘘だろ」
漆黒の髪、血のように赤い瞳。高い鼻筋に整った顔立ち。身長も以前より10センチは高くなっている。そして何より、全身から発せられる威圧感。
これは間違いなく――
「魔王の姿……?」
呟いた瞬間、広間に響く神秘的な声。
『異界より来た魂よ。汝に新たなる運命を与えよう』
声の主は見えない。だが、その威厳に満ちた響きに、俺は思わず身を正していた。
『この世界にて、汝は魔王ルシアン・ダルクレンとして生きることになる』
ルシアン・ダルクレン……聞き覚えがある名前だった。
「まさか……『エターナル・クエスト』の?」
『そう。汝が愛したその世界こそ、新たなる舞台である。そして……特別な力を授けよう』
俺の脳裏に、文字が浮かび上がった。
【スキル:奪取】 相手を打ち倒した時、その持つスキルを一つ奪い取ることができる。
「……なるほど、チートスキルってわけか」
しかし、喜んでいる場合ではない。魔王ルシアン・ダルクレン――ゲーム内では確かに強大な力を持つ存在だったが、最終的には勇者によって討伐される運命にある。その事実を知っているのは、この世界で俺だけだ。
『では、新たなる人生を歩むがよい』
神秘的な声が消えると同時に、俺の記憶に大量の情報が流れ込んできた。
この世界の地理、魔王城の構造、配下の魔物たち……。
だが、俺が一番欲しかった情報もあった。
前世で培った『エターナル・クエスト』の完全攻略知識。
「……面白い」
俺は口角を上げた。
確かに魔王として転生した以上、普通なら勇者に討たれて終わりだろう。
だが、俺にはゲーム攻略で培った知識がある。
魔物の出現パターン、勇者パーティーの行動予測、隠されたイベントやアイテムの在り処――全てを知っている。
「なら話は別だ。生き残ってやる。勇者だろうが何だろうが、俺は絶対に死なない」
その決意と共に、俺――ルシアン・ダルクレンの新しい人生が始まった。