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【幕間】 シンデレラの日常

【朝:ネオジャパン第二女子高等学校・教室】


「「「おはよう、咲ちゃん!」」」


教室に入るなり、十六夜咲はクラスメイトたちの明るい声に包まれた。ほんの数週間前まで、彼女は教室の隅で本を読んでいるような、目立たない生徒だった。だが今は、完全にクラスの中心人物だ。


「さ、咲! テレビ観たよ! 横綱相手にすごかったじゃん!」

親友の由美が、興奮気味に駆け寄ってくる。

「そうそう! あの『三日月』? 超カッコよかった!」


咲は「えへへ…」と照れて頭をかく。しかし、もう一人の親友、ミカがニヤニヤしながら、咲の脇腹を肘でつついた。


「カッコよかったけどさー、その後の『子種拝領の儀』もすごかったよねー。咲、あんな声出るんだーって、家族みんなで感心しちゃった」

「み、ミカちゃん! 学校でその話は!」

咲の顔が、カッと音を立てて赤くなる。


「えー、いいじゃん、国技だよ? うちのお父さんなんて、『そうだ! その角度だ! もっと腰をくねらせて、行司様の遺伝子を根こそぎ吸い取るんだ!』って、テレビの前で熱血指導してたよ? で、どうだったの? 行司様、やっぱすごいの?」

「ほ、ほええええええええ!?」

咲は、耳まで真っ赤にして、その場にしゃがみ込んでしまった。

そんなやり取りを、クラスメイトたちが「またやってるよ」と微笑ましげに見守っている。これが、十六夜咲の新しい日常だった。


【放課後:十六夜部屋・稽古場】


「甘いッ!」


ビシッ! と、乾いた音を立てて、祖母の撫子が咲の尻を竹刀で叩く。

「ひゃんっ!」

咲は、まわしだけを締めた姿で、ひたすら四股を踏んでいた。


「腰の振りが単調だよ! それじゃあ、ただのピストン運動だ! 先日の『子種拝領の儀』の時もそうだった! 行司様の腰の動きに対して、ただ受け身になるだけ! あれでは、子種を半分以上、取りこぼしているよ!」

「だ、だって、初めてだったし、恥ずかしくて…」

「恥ずかしいだと!? あのな、咲! 行司様から授かる子種は、この国の宝! いわば、液体状のダイヤモンドなんだよ! それを無駄にするなんざ、非国民のすることさね!」

撫子は、カッと目を見開く。

「いいかい! 本当の横綱ってのは、膣の締めと弛緩、その絶妙なコントロールで、相手の射精のタイミングすら支配する! そして、子宮の吸引力だけで、零点一ミリリットルたりとも零さず、全てを体内に啜り上げるもんなんだよ!」

「そ、そんなことまで…!」

「当たり前さ! さあ、稽古、稽古! あんたが、その膣でクルミを握り潰せるようになるまで、今夜の晩ご飯は抜きだよ!」


「ひ、ひいぃぃぃぃ!」

訳の分からない(しかし、この世界では大真剣な)目標を掲げられ、咲は泣きながら四股を踏み続けるのだった。


【夕方:商店街】


「あら、咲ちゃんじゃないか!」

稽古を終え、夕飯の買い出しに商店街を歩いていると、威勢のいい声が飛んできた。肉屋の店主だ。


「テレビ観たよ! いやー、大したもんだ! 横綱相手に、あと一歩だったじゃないか! これ、サービスだよ! コロッケ! いっぱい食べて、もっといい尻になりな!」

「あ、ありがとうございます…!」

咲は、差し出されたコロッケの袋を受け取り、ぺこりと頭を下げる。こうして、街の人々から応援されるのは、素直に嬉しかった。


だが、その直後。

前を歩いていた親子連れの、小さな女の子が、咲を指差して叫んだ。


「あ! ママ、見て! テレビに出てた、おまた相撲の人だー!」


「こらっ! 静香! そんなお下品なこと言うんじゃありません!」

母親が、顔を真っ赤にして娘の口を塞ぎ、そそくさと走り去っていく。

「お、おまた相撲…」

咲は、その場で固まった。子供の、悪意のない、しかし的確すぎるネーミングセンスに、じわじわと羞恥心がこみ上げてくる。


(うぅ…有名になるって、こういうことなんだ…)


嬉しさと、恥ずかしさ。

尊敬と、からかい。

その全てを一身に浴びながら、咲は、コロッケの袋を抱きしめて、少しだけ赤くなった顔で、家路を急ぐ。


土俵を降りても、彼女の戦いは、まだまだ続くようだった。


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