表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/37

【第五話】 激突!新星と絶対王者

国技館のボルテージは、もはや沸点を超えていた。


これまでの試合は、全てこの瞬間のための前座に過ぎなかった。準決勝第一試合。誰もが待ち望んだ黄金カードが、今、実現する。


支度部屋のモニターに映る、熱狂する観客席。十六夜咲は、ごくりと生唾を飲んだ。二つの勝利と、二度の『子種拝領の儀』を経て、彼女の体には確かな自信と、女としての自覚が芽生え始めていた。下腹部の奥に宿る熱が、今や恐怖を打ち消すお守りになっている。


その時、すっと控室の空気が凍った。

入口に、龍炎寺貴和子が立っていたのだ。甘く、それでいて脳が痺れるほど濃厚なフェロモンが、部屋を満たす。その威圧感は、モニター越しや土俵の上で感じるものとは比べ物にならなかった。


貴和子は、ゆっくりと咲に歩み寄ると、その耳元で、氷のように冷たい声で囁いた。


「…小娘。お前のような“まぐれ”が、私の神聖な土俵を汚すんじゃないわ」

「……っ」

「まあ、いいわ。最高の舞台で、本当の絶頂と、本当の絶望を、その体で味わわせてあげる。感謝なさい」


それだけを言い残し、貴和子は静かに去っていく。咲は、体が金縛りにあったように動けなかった。残された濃厚な香りと、肌を粟立たせるような恐怖。しかし、その恐怖の奥底で、咲の魂がカッと燃え上がるのを、彼女自身はまだ知らない。


絶頂川アナ:「きたきたきたきたキタァァーーーッ! ついにこの時が来た! 新時代の扉を開こうとするシンデレラか! それとも、女王がその扉に鍵をかけるのか! 歴史が動く瞬間を、絶対に見逃すなァァッ!」


東から、咲が。西から、貴和子が、それぞれ土俵に上がる。

観客の視線が、祈るように、あるいは貪るように、二人のあらわになった下半身に注がれる。


天知:「まさに、“点”と“面”の戦いですね。十六夜関の『三日月』は、一点集中の鋭い“点”の攻撃。対して横綱の相撲は、全てを受け止め、全てで圧殺する“面”の制圧。十六夜関が、どうやって横綱という広大な“面”に、その鋭い“点”を突き立てるのか。非常に興味深い」


「はっけよい、のこった!」


ゴウッ!

これまでとはまるで違う、地響きのような衝撃。咲は、腰をぶつけた瞬間、まるで巨大な惑星に衝突したかのような無力感に襲われた。重い。熱い。そして、深い。次元が違いすぎる。


「ふふ…」

貴和子は笑みさえ浮かべている。咲が、渾身の力を込めて腰をぶつけても、まるで柔らかな高級ソファがそれを受け止めるように、全ての衝撃が吸収されてしまう。咲の得意技「三日月」を放とうにも、その鋭い攻撃を当てるべき“芯”が、あまりに広大な“面”の中に隠れていて、見つけ出すことすらできない。


絶頂川アナ:「効かない! 十六夜の攻撃が、全く効いていない! 横綱、まるで動じない! これが、これが横綱の威厳かァーッ!」


そして、今度は貴和子が攻めに転じる。

それは、派手な技ではない。ただ、ゆっくりと、しかし確実に、その重厚な腰で咲を押し込んでいく。一歩、また一歩と、咲は土俵際へと追い詰められていく。熱と圧が、咲のスタミナと気力を容赦なく削り取っていく。


「くっ…ぅ…!」

咲の額に、玉の汗が浮かぶ。

そして、ついに土俵際。もう、後ろはない。


天知:「…かかりましたね。横綱は、この瞬間を待っていた」


貴和子の目が、すっと細められる。勝利を確信した、捕食者の目だ。


絶頂川アナ:「で、出たァァーーーッ! 横綱の必殺技! 『吸引一番搾り(きゅういんいちばんしぼり)』の体勢に入ったァァッ!」


貴和子の腰が、まるでブラックホールのように、凄まじい吸引力を生み出し始めた。咲の体、意思、魂、その全てが、貴和子の腰の中心へと、抗いようもなく吸い込まれていく。子宮が、直接掴まれて引きずり込まれるような、根源的な恐怖と快感。


天知:「チェックメイト、ですね。この体勢から逃れた力士は、過去に一人もいません。『吸引一番搾り』は、相手の子宮そのものを直接刺激し、強制的に魂ごとの絶頂へと導く。確率99.8%で、勝負は決します」


誰もが、横綱の勝利を確信した。咲の目にも、絶望の色が浮かぶ。

ああ、これが、絶対王者…。


だが、その魂が完全に吸い尽くされる、まさにその刹那。

咲の脳裏に、祖母の言葉と、これまでの戦いの記憶がフラッシュバックした。

(この渦の中心…渦の中心を、斬る…!)


絶望の淵で、咲は最後の力を振り絞る。

広大な“面”の中心、ブラックホールの特異点、そのただ一点だけを見据えて。


若き才能の全てを懸けた一閃、「三日月」が、今、放たれようとしていた。


果たして、シンデレラの三日月は、女王のブラックホールを切り裂くことができるのか!?

それとも、なすすべもなく飲み込まれ、絶頂と絶望の底に沈むのか!?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ