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【第二話】 横綱の威厳

十六夜咲の衝撃的な勝利と、それに続いた初々しい『子種拝領の儀』。その余韻が、まだ国技館に渦巻いている。観客たちは口々に番狂わせの余韻に浸り、無名のシンデレラの名を囁き合っていた。


そのざわめきを、まるで鎮めるかのように、場の空気が一変する。

観客の視線が、西の花道に吸い寄せられた。


絶頂川アナ:「出たァーーッ! 生ける国宝! 歩く子宮! ネオジャパン最強の母! 第六十九代横綱! 龍炎寺りゅうえんじ貴和子きわこォォォッ!!」


アナウンサーの絶叫が、もはや畏敬の祈りのように響く。

ゆっくりと花道を進むその姿は、まさしく圧巻の一言だった。ウェーブのかかった黒髪を高く結い上げ、切れ長の瞳と泣きぼくろが、見る者を射竦めるような色香を放つ。B102・W63・H105という、神が造りたもうたグラマラスな肉体から放たれる威圧感は、他の力士とは次元が違った。


彼女が歩を進めるたびに、甘く、それでいてむせ返るようなフェロモンが香り立ち、観客は恍惚と畏怖の入り混じった表情でひれ伏すように道を開ける。


天知:「…十六夜のようなシンデレラも土俵の華ですが、やはりこの国技館の主は、横綱・龍炎寺貴和子。彼女が土俵に上がるだけで、空気が締まる。もはや宗教的な領域ですね」


貴和子の耳にも、観客席から聞こえる「十六夜咲」の名前は届いていた。だが、彼女の表情は能面のように変わらない。

(…ひよこが一度、甲高い声で鳴いただけのこと)

内心でそう呟き、わずかに芽生えた焦りの感情を、プライドの奥底に沈める。


土俵に上がり、対戦相手と向かい合う。相手は、前頭十枚目の実力者。だが、貴和子の前では、怯えた子羊にしか見えなかった。

まわしが解かれ、国宝とまで称される横綱の下半身が露わになる。完璧なまでに鍛え上げられ、磨き上げられたそれは、もはや性のシンボルというより、神聖な祭具のようだった。


「はっけよい、のこった!」


ドン! 相手は開始と同時に、がむしゃらな腰つきでぶつかってきた。

だが、貴和子は微動だにしない。まるで、岩にぶつかる波のように、相手の勢いを全てその重厚な腰で受け止め、殺してしまう。


絶頂川アナ:「びくともしないィ! 龍炎寺貴和子、まるで仁王立ちだ! 相手の攻撃が、全く通用しないィィッ!」


貴和子は、汗一つかかない涼しい顔で、相手の目を見て、ふっと妖しく微笑んだ。


「…もう、終わりかしら?」


そして、静かに息を吸う。その瞬間、貴和子の体が、まるでブラックホールのように、周囲の“気”を吸い込み始めた。相手の闘志、観客の視線、絶頂川アナの興奮、その全てを。


天知:「まさか…! 一回戦から出すのですか! 横綱の絶対支配の象徴! 『万物吸引ばんぶつきゅういん』を!」


貴和子の腰が、ゆっくりと、しかし抗いがたい力で相手を吸い寄せ始める。相手力士は、必死に腰を引いて逃れようとするが、なすすべがない。


「ひっ…いやっ…! わ、私の潮が…快感が、吸い取られる…!」

相手力士は、まだ本格的に腰をぶつけられてもいないのに、体中の快感と生命力が、貴和子の腰に根こそぎ吸い上げられていく感覚に絶叫する。そして、自分からではない、完全に「吸い出された」屈辱的な絶頂に達し、白目を剥いて土俵に崩れ落ちた。


勝負あり。

貴和子は、相手に一度も触れることなく、ただその存在感だけで勝利した。国技館は、あまりに理不尽で、あまりに絶対的な強さを前に静まり返っていた。


絶頂川アナ:「しょ、勝者、龍炎寺貴和子ォォォッ! これぞ横綱相撲! 相手を消耗させることすら許さない、完璧なる勝利だァーッ!」


貴和子は、崩れ落ちた相手を一瞥もせず、土俵の中央に静かに佇む。

そこに、先程と同じ、ベールを被った行司が進み出てきた。


天知:「さて、始まりました。横綱の『子種拝領の儀』です。先程の十六夜関とは違い、こちらはもはや“作業”と言ってもいい。横綱にとってセックスは義務。彼女の体は、もはや個人のものではなく、ネオジャパンの宝ですから」


行司は、貴和子の前にひざまずくと、まるで神に祈りを捧げる巡礼者のように、その体を押し頂いた。

貴和子は、一切の表情を変えず、その巨体を受け止める。その瞳には、快感も、羞恥も、何一つ浮かんでいない。


絶頂川アナ:「おぉっと! なんという荘厳な光景だ! 行司の体が、まるで聖母マリアに抱かれる赤子のように、横綱の豊満な肉体にすっぽりと収まっていく! これはセックスではない! まさに、国家プロジェクト! 我らがネオジャパンの未来を創造する、神聖なる受胎行為だァァッ!」


行司は、手慣れた様子で、しかし畏敬の念を込めて、貴和子の体と結合する。貴和子の体は、少しも揺らがない。ただ、静かに、遠くを見つめている。

やがて、行司が絶頂を迎え、その体を震わせる。貴和子は、その全てを、まるで乾いた大地が雨水を吸い込むように、ただ静かに受け入れた。


天知:「見事な受けです。一滴の潮も、一滴の子種も零さない。全てを体内に取り込み、自らの力へと変換する。十六夜関が“快感”で子種を受け入れたのに対し、横綱は“無”で受け入れる。まさに静と動。対照的な二人の儀式でしたね」


儀式を終え、行司が離れていく。

貴和子は、ゆっくりと立ち上がると、観客席を一瞥した。その視線が、先ほど咲に野次を飛ばしていた十六夜撫子の席で、ほんの一瞬、止まったように見えた。

しかし、すぐに興味を失ったように視線を外し、何事もなかったかのように花道へと歩き始める。その背中には、勝利の喜びなど微塵もない。


(さあ、次の義務の時間まで、何をしようかしら)


最強の女であり続けるための、そして、心の空洞を埋めるための、果てしない「義務」。

貴和子は、誰にも見せることのない虚しさをその胸に秘め、静かに控室へと消えていく。その背中には、絶対王者だけが背負うことを許された、深く、濃い孤独の影が落ちていた。


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