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【第一話】 土俵際のシンデレラ


ゴクリ……。


ネオジャパンの聖地、両国国技館。その巨大なすり鉢状の空間は、一万五千人の観客が発する尋常ならざる熱気と湿気で、すでに飽和状態にあった。汗と興奮、そしてこれから始まる神聖な儀式への祈りが混じり合い、むせ返るような空気を作り出している。


放送席で、アナウンサーの男がマイクを握る手に汗を滲ませ、興奮に声を震わせる。


絶頂川アナ:「きっ、聞こえますか、解説の天知さん! この地鳴りのような歓声が! いや、もはやこれは声じゃない! 一万五千の魂が発する“発情”そのものですッ!」


その隣で、銀縁眼鏡の男――元力士で現・公認解説者の天知理は、冷静にスッと息を吸った。


天知:「ええ、聞こえますよ、絶頂川さん。歓声と…少しばかりの野次もね。あちら、西側の二階席。『女性の性の商品化反対!』というプラカードのすぐ隣で、『貴和子様の聖水おしおを我らにー!』と泣き叫ぶ集団がいる。熱狂、狂信、嫉妬、そして祈り…。いつ見ても、ここは人間の欲望の坩堝るつぼですね」


絶頂川アナ:「それこそがマンコ相撲! それこそが我らがネオジャパンの国技! さあ、今月も始まりました! 男を、子種を、そして未来を懸けた女たちのガチンコバトル! 栄光のトーナメントを制するのは、いったいどの乙女なのかァーーッ!!」


その絶叫が、呼び水だった。「うおおおおお!」という歓声と共に、東の花道から、一人の乙女が姿を現す。


黒髪の清楚なストレートロング。少し垂れ目の、優しく穏やかな顔立ち。番付は前頭十五枚目、十六夜いざよい さき、十六歳。初めて踏む国技館の土俵に、その体は小刻みに震えていた。後手高手小手に固く締められた真新しいまわしが、肌に食い込んでいる。


天知:「さて、十六夜咲。今大会最年少での出場です。データはほぼありません。まさに未知数のシンデレラ、ですね」


絶頂川アナ:「対するは西から! こちらはベテラン! 力士生活十八年! あけぼのフミ、三十一歳ィーーッ!」


咲とは対照的に、曙フミは堂々たる風格で花道を進む。そのどっしりとした腰つき、全てを見透かすような目は、数多の修羅場をくぐり抜けてきた証だ。


両者が土俵に上がり、向かい合う。後見人がそれぞれのまわしを解くと、二人の乙女の下半身が、国技館のまばゆい照明の下に晒された。観客席から、ひときわ大きな歓声と、生唾を飲み込む音が響く。


絶頂川アナ:「出ましたァ! 十六夜のそれは、まだ硬い蕾のよう! 一方、曙のそれは、全てを知り尽くした満開の牡丹かァッ!」


天知:「曙選手は、相手の潮をじっくりと引き出す、いやらしい腰つきが持ち味。特に得意技の『熟成味噌すり』には注意が必要でしょう。相手の腰に自らの腰を味噌を擦るようにねっとりと絡ませ、性感帯を的確に削り、強制的に絶頂へと導く。あの技で散っていった若手は数知れません」


まさにその時、客席の奥から、しわがれた、しかし妙によく通る声が野次を飛ばした。

「咲ィ! 怖気づいてんじゃないよ! あの年増の古味噌に、アンタの生まれたての出汁を全部持っていかれるんじゃないよッ!」

咲の祖母であり師匠の、十六夜撫子だった。


行司を務める男が、すっと軍配を構える。その顔はベールで隠されているが、漏れ出る極上の雄としてのオーラが、力士たちの肌を粟立たせる。


「はっけよい、のこった!」


ドンッ! という鈍い音が響き渡る。

咲と曙フミの腰が、正面から激突した。咲は、まるで分厚い壁にぶつかったかのような衝撃に、息が詰まる。


「ふふ…硬いわねぇ、お嬢ちゃん」

曙フミは余裕の笑みを浮かべ、ねっとりとした腰の動きで咲の腰を絡めとる。そして、ついにその時が来た。曙フミの腰の動きが、一段、いやらしく、粘りを増す。


天知:「来ますね、『熟成味噌すり』です。あの円運動は、相手の芯棒しんぼうを削りながら、同時に膣壁全体を刺激する。実に老獪な二段攻め(ツーウェイ・アタック)です」


絶頂川アナ:「ああーっと! 十六夜の若さが、ベテランの十八年モノの年季に塗り込められていくーっ! 苦しいか! 苦しいけど、感じちまうのかァーッ!」


咲は、これまで感じたことのない屈辱的な快感に、背筋を電流が走る。「ひっ…ぁ…んんっ…」。思わず、甲高い声が漏れた。土俵際まで、じりじりと追い詰められる。


朦朧とする意識の中、祖母の声が響く。――感じるんだよ、咲!


その瞬間、咲の体が無意識に反応した。曙フミが、勝利を確信して腰にぐっと力を込めた、その刹那。咲は、その力を受け流すように、しなやかに腰をひねった。そして、まるで夜空に浮かぶ三日月のような、鋭い円弧を描くカウンターの腰つきを、フミの脇腹に叩き込んだ。

「三日月」。


「んぐぅっ!?」

予期せぬ角度からの鋭い快感に、曙フミの巨体が硬直する。その一瞬の隙を、咲は見逃さなかった。渾身の力で腰を入れ、フミの巨体を土俵下に転がり落とした。


静寂。そして、爆発のような歓声。

絶頂川アナ:「しょ、勝者、十六夜咲ィーーーーッ!」


だが、休む暇はない。

勝負が決した土俵の中央に、ベールを被った行司が静かに進み出る。咲は、自分が何をすべきか理解できず、ただ震えながらその場に立ち尽くす。


絶頂川アナ:「さあ、見届けましょう! シンデレラの、記念すべき初勝利! そして、初めての『子種拝領こだからはいりょうの儀』をォォッ!!」


行司は、咲の前に立つと、その体を優しく押し倒した。背中に、少し湿った土俵の砂の感触。一万五千の視線が、無防備に横たわる自分の体に突き刺さる。恐怖と羞恥で、気が狂いそうだった。


天知:「注目すべきは、初体験である十六夜関が、行司をどう“受け入れる”かです。ここで相手を完全に受け入れ、快感に身を委ねられる力士は、大成します。相撲もセックスも、“受け”が基本ですからね」


行司の鍛えられた体が、ゆっくりと咲に覆いかぶさる。濃厚な雄の匂い。そして、足の間に、熱く硬い存在が押し当てられた。


「んんっ…!?」

体を貫く、裂けるような痛み。


絶頂川アナ:「ああっと! 入ったァ! 今、確実に入りました! しかし十六夜の表情は苦痛に歪んでいる! 無理もありません、これが初めての“男”! 初めての“杭”! 頑張れ十六夜! それを受け入れてこそ、女は母になるんだァ!」


痛みと、脳を焼くような快感の奔流。「あ…ぁっ、あ、あぁっ…!ひ、ぐっ…う、ぁあああッ!」。言葉にならない声が、ただ漏れ続ける。


天知:「腰が引けていますね。これは defensive instinct、防御本能です。しかし、ご覧ください。膣の内部が、無意識に収縮と弛緩を繰り返している。彼女の体は、正直です。痛みを感じながらも、本能では子種を求めている。素晴らしい才能だ」


行司の腰の動きが激しくなる。咲はもう、何も考えられない。痛みも快感も、羞恥も、観客の声援も、全てがぐちゃぐちゃに混ざり合う。そして、行司の体が大きく震えた瞬間、咲の体の最も奥に、熱い奔流が注ぎ込まれた。


ビクンッ、と咲の体が大きく跳ねる。

命の、源。

神聖なものを体内に注がれる感覚に、咲の目から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。


絶頂川アナ:「決まったァーーーッ! 完璧な“中出し”! これにて、子種拝領の儀、無事完了ォォォッ! 十六夜咲、今、力士として、そして女として、新たな一歩を踏み出しましたァーッ!!」


放送席の絶叫を最後に、国技館の照明が少し落とされる。儀式を終えた行司は、静かに一礼し、土俵を降りていった。


一人、土俵の上に取り残された咲は、呆然と天井を見つめていた。下腹部の奥が、じんじんと熱い。それは、勝利の証であり、子を成すための、確かな第一歩だった。


十六夜咲、十六歳。

彼女の長く、そして熱い一日が、ようやく終わろうとしていた。

しかし、本当の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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