真なる災い
体が動かねぇ。
早く……早く、シズハの元に行かなきゃならねぇのに!
間違いなく『傲慢』はシズハを殺す!
それだけは止めなくちゃ……
「よう、クレア。契約に則りお前と殺し合いがしてぇなぁ!」
「ちくしょう、待ってろ……今、立ってやるよ……『強欲』!」
壊れて限界の身体に力を入れる。
身体中が悲鳴を上げる。
痛い、痛くてたまらない!
けど、ここで立たなきゃ……『強欲』を倒してシズハの元に!
「何やってるんですか、クレア! 逃げますよ!」
そう言って、颯爽とシズハはアタシと『強欲』の間に現れアタシを抱えて……お姫様抱っこってやつか? して全力で逃亡する。
「テメェら! 逃げるのか!」
「バカ真面目に戦うわけないじゃないですか! こちとら限界なんですよバーカ! 悔しかったら捕まえて見せなさい!」
シズハらしからぬ汚い口調でそう言いながらもシズハはアタシを抱えて逃げる。
「シズハ……」
「『慈悲』なら今使えませんよ! とにかく逃げます! 後のことはその時考えます! OK?!」
「わぁった! 後は任せる! 正直、今のアタシは使い物にならないからな! 期待するなよ!」
「んなもん見たら分かりますよ!」
二人で軽口叩いて逃げ回る。
後ろから追ってくるのは『強欲』と『傲慢』。
追いつかれれば確実に死ぬ最悪の鬼ごっこだ。
なのに、笑える!
つうか笑うしかねぇだろこんな状況!
命懸けの鬼ごっこやってるのにお姫様抱っこされて逃げてるとか笑えてくる!
「ははは! アホくせぇ!」
「笑うくらいの元気があって安心しました! けどこちとら命懸けで逃げてるんであんまり魔王刺激しないでくださいよ! クレア!」
「悪い悪い! ……けど、どうやら詰みみたいだ」
シズハが逃げた先に一人佇む男がいた、最低最悪の魔王『憤怒』だ。
「シズハ、下せ。もう立てる」
「分かりました。で、どうしますか?」
「戦うしかないだろ? 多分アタシら死ぬけど」
シズハにそう伝えるとシズハは少し笑って答える。
「じゃあ、ここが一緒の死場所ですね! せいぜい最後まで暴れてやりましょう!」
「いい啖呵の切り方だ! よっしゃ! やるぞ!」
残る魔王が全員集結する。
こりゃあマジで死んだな。
「さて、二人の聖女たち。改めて名乗ろう。僕はサタン『憤怒』の魔王サタン。七つの大罪司りし魔王と地獄を統べる魔王だ。最後に言い残すことはあるかい、クレア、そして静葉」
「へ、そんなの決まってらぁ!」
「「テメェらが地獄に帰りやがれ!」」
「そうかい、じゃあ……そうするか! はい、みんな帰るよー!」
「……」
「……」
アタシとシズハは黙り込む。
今この馬鹿なんて言った???
「悪いけど君らの相手をしたいが緊急事態なんだよねぇ。また今度で! リバイアサン! マモンとルシファー拘束して」
「仕方ないのです。母は無理矢理は好きでないですが今回は緊急事態、マモン! ルシファー! 大人しく捕まるのです!」
「必要ねぇよ、認めたくないがマジの緊急事態だ。ルシファーの旦那も諦めな」
「良い、今回ばかりは矛を納めよう」
そう言って魔王達は続々と地獄に帰っていく。
最後に残った『憤怒』がこちらを向き。
言葉を語る。
「今回はマジでヤバいぜ? 君らもせいぜい注意しな、僕らなんかよりよっぽど悪辣な魔皇が目覚めようとしてるんだからね」
そう言って、魔王達は全員地獄へと帰っていった。
「助かった……のか?」
「多分、今はそうみたいです……」
どうやらマジで帰ったらしい。
一気に疲れが来てアタシは地面に座り込む。
「ちょ! 大丈夫ですか! クレア!」
「大丈夫、疲れただけだ……にしてもアイツらが帰るレベルの緊急事態ねぇ……」
一つ……いや、一人だけ思い当たる節がある。
アタシとしてはそうであって欲しくはないが、もしそうなら……
「シズハ、どうやらアタシらは一番やりたくない仕事をしないといけないらしい」
「……同じことを考えていたみたいですね。……間違いであって欲しいですが」
アタシ達がこれからやる仕事は魔王討伐なんかより遥かに簡単でそして遥かに難しく辛い仕事……友人殺し。
アイツの……蒼葉アキルの中の魔皇が目覚める前に奴を殺す。
多分、それがアタシ達の最後の仕事だ。




