邪悪の樹
空が血にも似た赤色に染まる。
嵐が吹き荒れ大地は大きく揺れ地響きを奏でる。
雷が降り注ぎ、雷光がこの天変地異を起こした原因を照らし出す。
「んー、出力足りないなぁ」
シズハはそう呟き魔王達を睥睨する。
「いやぁ、予想以上だ。さて回収回収っと『無神論』侵食開始」
サタンは笑いながら指を鳴らした。
しかし、その笑みはすぐ崩れた。
「……あっれぇ?もしかして滅茶苦茶マズいやつかなこれ?」
サタンが額から汗を流す。
あぁ、コイツ最悪のやらかしをしやがったな。
「おい、サタン。最悪なくらい不服だが一緒にシズハ止めてくれねぇか?」
「ごめん、無理だわ。と言うか多分クレアが思ってるよりマズい状況だよ?」
サタンはヘラヘラと笑いながら返すが、いつもの余裕がない。
マジでコイツ何やらかしやがったんだ!
「『貪欲』理論破綻、喰らい尽くせ」
サタンといざこざをやっている間にシズハが『邪悪の樹』の権能を振るう。
薄紅色の水晶でできた触手がアタシ以外を襲った。
「あー、他の魔王マジでごめん。計画大失敗だわ!」
サタンは笑いながら他の六魔王に謝罪する。
「「「「「「いい加減にしろ馬鹿サタン!!!」」」」」」
わぁ、息ぴったりの罵倒だことで。
けど、マズいな……あの触手は殺すのが目的じゃないらしい。
突き刺さった触手は光り輝き、魔王達から力を吸収する。
真体を保てなくなった六人は人間体に戻り、サタン含め全員地面に倒れ込んだ。
「これで足りないリソースは補えました。ありがとうございます魔王達」
シズハは笑みを見せながらそう語る。
「さぁ、今度こそ始めましょう。『邪悪の樹』起動。無限光よ無へと遡れ」
瞬間、シズハの姿が変わる。
皮膚は死人の様に白く、髪は鋼の様な銀に、瞳は血濡れた様な紅色に、背中からは白い肉でできた手のひらの様な翼が一対生え、シスター服は紅と黒の入り混じったドレスへと変貌した。
その姿はまるで悪意に満ちて描かれた天使の様に思えた。
「おい、シズハ。今すぐ止めろ」
アタシはシズハに語りかける。
頼むからやめてくれ。
お前のやろうとしてることは余りにも無謀で危険すぎる!
「ふふ、クレアは優しいなぁ。こんな姿になった私を心配して止めようとしてくれる。けど、そのお願いは聞けない。私はこの間違った世界……クレアを虐める世界を作り直さなきゃいけないの。安心して、クレア!きっと素敵な世界にしてみせるから!」
「そうかい、なら……実力で止めにかかるだけだ!」
シズハに向かって走る。
義手に向かって生命力を流し、光の剣を放つ武器とする。
対して、シズハは動かない。
そりゃそうか、なんせ戦力じゃ圧倒的に私が負けている!
片や神のなりかけ、片や一般人に毛が生えた程度。
余りに無謀だがやるしかない!
「『峻厳』」
「は?」
シズハが口ずさんだ瞬間私の体が拘束される。
それより『峻厳』だと?!
何故『生命の樹』まで使えやがる!
「クレア、言ったでしょ。私は素敵な世界を作るって。その為には『生命の樹』だけでも『邪悪の樹』だけでもダメだもの。両方を扱えてこそ私は星創りの神としてのラインに立てるのだから!」
「ありえねぇ……本来その奇蹟は同時使用できない!聖と邪の矛盾が発生するからだ!そんなことできるはずが……」
「けど、実際できている。過程はどうでもいい。結果として出来るなら何でもいいのよ?さて、クレアはそこでゆっくりしていて!さぁ、世界を0へと還しましょう!」
シズハがそう告げると空が変わっていく日が昇り、月が昇り、また日が昇る。
世界が逆行していく。
星の歴史が少しずつ無かったことになっていく。
「んー、遅いなぁ。やっぱりリソース足りてないからか。まぁ、始点には至れるしいいか!」
シズハは無邪気にそんなことを呟く。
あぁ、チクショウ!!!
身体さえ、身体さえ動ければッ!
……いいや、ちげぇな。
馬鹿みたいに考えるなんてアタシらしくない!
目の前で相棒が今世紀最大の大問題やらかしてるんだ!
だったらそれを止めるのがアタシだろうがよ!!!
「うおおお!!!」
「……無理だよ、クレア。『峻厳』の重力操作からは逃れられない」
「うるせぇ!馬鹿シズハ!テメェの顔面ボコボコになるまで殴り飛ばすから覚悟しておけ!」
啖呵を切って全身に力を込める。
骨が軋み、ひび割れる。
だからどうした!
肉がちぎれ体が壊れていく。
だからどうした!!
痛みで頭が壊れそうになる。
だからどうした!!!
「はぁ……はぁ……どうだ!テメェの奇蹟なんざ気合いで振り切れるんだよ!」
「……ダメ……死んじゃう!『慈悲』!!!」
シズハがアタシに対して『慈悲』の権能を使う。
「馬鹿が!そんなんだからテメェは甘ちゃんなんだよ!シズハァ!」
アタシはシズハが『慈悲』を使い始めた瞬間、シズハをぶん殴った。
「痛い、痛いよクレア!何で殴るの!私はクレアのために
「うるせぇ!文句あるなら一発殴ってこいアホが!」
正直自分でも何でこんなことを言ったのかよくわからない。
けど、アタシは考えるのが向いてねぇ。
なら結局は……
「殴り合いで話し合おうじゃねぇか!ナァ!シズハ!」




