『怠惰』ベルフェゴール
———地獄 『憤怒』の間にて
「と言う事で君で最後だ、ベルフェゴール」
白髪の青年、サタンは語る。
「めんどくせぇ、めんどくせぇよサタン。俺ァ行かねぇぞ。何せもうテメェの目的は達成してるじゃねぇか? あの女は『知識』に目覚めたじゃあねぇか。それに、他の魔王もキレてるぜ? 特にルシファーが」
ボサボサの黒髪をした猫背の青年、ベルフェゴールはそう語る。
「んー、ルシファーが怒るのはよく分かるなぁ。彼女の仕打ち、完全にルシファーの逆鱗踏んでたもん。それはさておき、ベルフェゴールやっぱり行ってくれ。君が現世でやられてくれないと最後の仕事ができないんだ」
サタンは頭を掻きながらベルフェゴールにそう告げる。
「けっ、最初っから負け前提ならリバイアサンみてぇに自滅でも構わねぇだろ? 俺は好きにするぜ」
そう言ってベルフェゴールは『憤怒』の間を後にした。
「まぁ、構わないけど、今の彼女から逃げられるかな?」
サタンはそう呟いて瞳を閉じた。
◇◆◇
———現世 どこかの町の裏路地
「あー、めんどくせぇ。自滅まで24時間どう潰したもんかなぁ」
裏路地に響く悪徳の不快な声に私は答える。
「ならここで死ねばいいのでは?」
私はビルから飛び降り眼前の魔王『怠惰』を睨む。
「マジかよ……めんどくせぇ、俺ァ戦う気なんざねぇんだ! イカれた方の聖女!」
そう言って『怠惰』は逃げようとする。
無駄な事なのに。
「『峻厳』」
「ぐえ! ちくしょう! めんどくせぇなぁ!」
這いつくばる『怠惰』に私は一歩一歩近づく。
前回の実験で私の奇蹟はある程度応用が効くことが分かった。
今回は『知識』『知恵』『栄光』を同時使用した簡単な未来視を行い『怠惰』の出現場所に一人で先回りした。
これなら存分に奇蹟の練習ができる。
「『生命の樹』起動」
「おいおいマジかよ! 俺ァ戦う気なんざないって言っただろうが! クソ! どっちが悪魔か分かったもんじゃねぇ!」
「魔王が何をほざくんですか? 悪魔は貴方ですよ?」
当然のことを『怠惰』に告げる。
「イカれ女め! まだ、クレアのがマシだ! あぁ! やりたかねぇがテメェが悪りぃんだからな!」
瞬間、『怠惰』の身体が光る。
途端に周囲の空気が重くなる。
「何したんです?」
私は『怠惰』に問う。
「俺の権能をこの町に使った! 人間、何もかも面倒になる時があるだろう? 俺ァそれをちょっと後押ししたのさ! テメェにもわかる様に言えばこの町の人間は今、生きることに『怠惰』を強く感じる様になった! いわば死に向かってる! だが、最後の一歩、自殺に至るには俺の苦しみが必要だ! だが、俺の自滅なら問題なく権能は解ける。わかったら……」
「そうですか、それで?」
長ったらしい『怠惰』の話を断ち切り答える。
肝心の『怠惰』は目を見開き黙った。
「確かにこの町の人々が死ぬのは悲しいことです。ですがそれによって私はさらに強くなる。より多くの人を救う。その為の仕方ない犠牲なのです。なら、考える必要がありますか?」
「あー、そうか、今わかった。お前は魔王以上のクズで異常者だ」
『怠惰』がそう吐き捨てる。
「……私がクズですか? 面白い冗談ですね」
「冗談じゃねぇよ。正真正銘の本音だ。だから
「『勝利』」
『怠惰』が言い切る前に奇蹟を振るう。
瞬時に『怠惰』は死に絶えた。
同時に町中から苦痛の声と血の香りが匂い立つ。
『怠惰』の権能によるものだろう。
まぁ、いい。
これは仕方のない犠牲だ。
私がより強くより完璧に至る為の犠牲だ。
だけど不快だ。
悲鳴と血の匂いが不快でたまらない。
さっさとこの町から帰ろう。
クレアの待つあの教会へ。




